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第30話 魔界の都市 ヒズアグ


 ヒズアグに向かう途中、見たことのある魔族を見つけた。


「――あ」


 カザトランナで俺たちと戦った魔族の男だった、狼のような長い耳が頭から生えていて、身体も毛が生えていて、所謂獣人のような感じだ。


「な、まさかこんな所で!」

「イグリア!」


 逃げようとする魔族をイグリアは捕まえる。


「た、助けてくれ!」

「落ち着けって、聞きたい事があるんだよ」

「聞きたいこと?」


 その魔族はレーゼックというらしい。


「――小遣い稼ぎだったんだよ、ただ、蒼晶石を魔界に送るだけ、それだけの話だった」

「他の巻き込まれた奴らはどこに行ったんだ?」

「さぁ?家に帰ったんじゃないか?俺はヒズアグに実家があるからここにいただけさ、いまだって実家の手伝いの仕事帰りだったんだから」

「近くにある魔界門の位置はわかるか?」


 レーゼックは困ったように話す。


「ヒズアグからさらに東にあるはず......ただなあ、金を馬鹿みたいに要求されるからなあ、魔力も必要だし」


 やはり魔界門を通るには相当な魔力や通貨が求められるみたいだ。


「金はどれくらいかかる?」

「いくらだったか、人間界の通貨も使えるけど、500金貨以上はかかるかな」


 500金貨ッ、無理だ、それに人間界に行けないから貯金だって崩せないし。


「あんたらは、あれかヒズアグに行くと途中か?」

「そうだ、グロムの長老から教えて貰ってな」

「グロム、あんなところかわざわざ来たなんて大変だったなー」


 なんか他人事だが、俺たちは巻き込まれただけなんだけどな?


「せっかくだ、ヒズアグまで案内してやるよ」

「金はないぞ?」

「良いよ、今回の件の謝罪も兼ねてな......だからお前の従魔に首根っこを掴むのやめる様に言ってくれないか......?」


 イグリアが手を離すとレーゼックはグゲッと地面に転がった。


 レーゼックに案内されヒズアグへと向かうのだった。


「あの転移の魔法陣の場所は知らないのか?」

「ん~ここに飛ばされた後見てみたんだが、魔法陣がぐちゃぐちゃになってたから使えないだろうな」

「......ちなみに、他の場所にも似たものはあるか?」

「知らねーな」


 やはり律儀に魔界門を使うしかないのか......


「それより、もうすぐヒズアグだ」


 レーゼックの言葉を聞いて風景に意識を集中する。


 赤い空に白や茶色の建物が見えて来る。


 検問では、俺が人間である点で不信に思われたが、事故に巻き込まれたというとすんなりと受け入れられた。


「極まれに事故で魔界とか人間界に飛ばされる奴がいるんだよ、まあほとんどないけど」

「そういう事故以外では人間はいないのか?」

「いるにはいるぜ、従魔と契約して流れで住み着いた奴とか、シンプルに魔界に興味を持った奴とか......まぁでも少ないな」


 そんなレーゼックの話を聞きながらヒズアグに入っていく、ヒズアグは石造りの建物が多かった。


「金稼ぐんだろ?この後どうするんだ?」


 そうだ、それも考えないといけない、クソ......冒険者業で金の問題は解決したと思ったらすぐこれだよ、全く!


「まだ考えてない、イグリア良い案あるか?」

「あると思う?」


 だよな......


「こりゃ苦労しそうだな......じゃ、俺はこれで、親父に怒られるしな」


 そう言ってレーゼックは、尻尾をぴんと立てて軽やかに歩き出した。


 レーゼックから仕事を貰えるところを教えられたので、俺たちはその集会所『獣のツノ』へと赴いた。

 少なくともここの集会所は酒場も兼任しているようで酒と煙で満ちていた。

 壁に掛けられた牙や角の装飾は本物の戦利品らしく、騒がしい笑い声が飛び交う中、重い剣や槍を背負った者たちが行き交っている。


 人間は珍しいのか、時折俺をじろじろと見てくるがイグリアが睨むとその目線を横に逸らした。


「そこまで威嚇しなくても......」

「舐められたら終わりよ」


 そんなイグリアのおかげで絡まれる事はなかった。


 そして肝心な仕事探し、掲示板から依頼を探すなど冒険者とあまり変わらない、違いがあるとすれば資格のようなものはないということだろう、そして依頼の難度も書かれていない......迂闊に変な依頼は受けるべきではないな。


 依頼の内容は傭兵、輸送、討伐、人間界に比べると戦闘系が多い印象だ。


「......収集系か、少ないけどとりあえずこれにするか、イグリアもこれでいいか?」

「好きにすれば?」

「では好きにさせてもらいますよ」


 ヒズアグからそう遠くない場所での薬草採取、魔界での初仕事はこれにしよう、報酬は5銀貨で収集系にしてはまあまあな額だし。


「近くでは大きな魔力があちこちで発生していて魔物たちが騒がしい、警戒を怠るなよ?」


 と、受付の獣人に言われた、勿論計画は怠るつもりはない。


「......まぁ俺たちはB級に近い冒険者だ、大丈夫だろう」


 ――しかし。


「足を浮かしなさい、足削れるわよ!」


 両手をイグリアに掴まれながら追ってくる魔物から森の中を逃げていた、イグリアの竜翼では俺を持って空を飛ぶことは難しいらしく、地面すれすれを飛んでどうにか逃げている。


「クソ、ネベデスの大群に遭遇するなんて!」


 一匹ならどうにかで出来た、ただ複数となるとあの毒液を飛ばしてくるのが厄介で、しかも森という地理も俺たちが逃げている理由だった。


「イグリア、このまま森を抜けるまで耐えられるか!?」

「なんとかね!」

「収集自体はできたんだ、このまま逃げ切る!」


 イグリアの俺を掴む手が徐々に弱まっていく竜翼展開は魔力も体力もかなり消費する。あまり長い距離は飛べない。

 木の上から滑るように現れたのは、ウツボカズラを横倒しにしたような胴体と大きな口を持つ四足の緑色の魔物――ネベデス!

「――イグリア!」

「――っ」


 目の前に突然ネベデスが現れ、イグリアは急な旋回を余儀なくされた、そしてそのまま地面へと落ちてしまう。


「ッ......大丈夫か?」

「なんとかね」


 イグリアは立ち上がるが、魔力の消費が激しい。


 ネベデスは毒液をまき散らしながら周囲を探り始めた。


「......」


 一匹ならどうにか出来る、ただ戦闘になったら他の奴らが集まってきてしまうだろう。


「――近づいてきやがった」


 一匹はネベデスが気づいたのかこっちへと近づいて来た、イグリアの方を見る。


「出来るだけ迅速にやろう」


「『黒炎閃華』」


 ネベデスの前足に俺は切りかかる。

 ネベデスは俺に毒液を吐こうとするが――


「『黒炎の息吹』」


 その口にイグリアは黒炎を吐く、ネベデスは大口から体内に入り込んだ炎に苦しみ暴れまわりながら絶命した。

 それに反応して他のネベデスが集まり始める――


「イグリア、早く逃げるぞ!」


 イグリアの手を掴み森を駆け抜ける。


 イグリアの身体が重く感じるが強く引っ張り走る、竜翼で無理をしたのだろう、イグリアは顔にこそ出さないが疲れているのだ。


「イグリアしっかりしろ!」

「しっかりしてる、心配しないで」


 イグリアはいつも通りそんなことを言っている、俺に引っ張られてるのに、後ろにはネベデスが何匹もいるのがわかった。


「――しつこい奴らだな!」


 ただ、その時だった――


 カーンッ


 激しく白い閃光と高音――


「な、なんだ?」


 目も耳も一瞬機能しなくなり、何が起きたのか。


 そして今度はイグリアが手を引いた、どうやら何かを見つけたらしく俺の視界が回復するまでの間、イグリアを頼りに走るのだった。


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