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第28話 魔界の村 グロム


 警戒しながら歩いているとイグリアは魔界について教えてくれた。


「魔界の魔物は強いから、力のない魔族は生きるのが大変よ、だから、強い魔族の庇護下に入る者もいる、馬鹿にされるけど私は賢い選択だと思う」

「高位魔族は庇護者ってことか」

「庇護者になれるくらい強いってことね、そこまで意識のある魔族は多くないけど」


 魔族社会も大変だな。


「今回の転移に巻き込まれた魔族もどっか近くにいるだろうけど、見つからないな」

「彼らなら他に転移する場所知ってたりするかもしれないのに......はぁ」


 ある程度歩いていると、集落のような場所を見つけた。


「とりあえず、安全な場所で身体を休めたいな」

「......そうね」

「どうする?俺が行くか?」

「人間なんていたら珍しいから警戒されるかもね......面倒だけど私が行く......」


 本当にめんどくさそうだな。まぁここはイグリアに頑張ってもらうしかない。


 少し遠目でイグリアを観察する。門番に何か説明しているイグリア、そしてイグリアがこっちを見る。


 親指と人差し指で丸を作っていた。


 ■


 この集落の名前はグロム、というらしい。


「転移......そんなものがあるとはな、それでか、魔物が活発になったのは」


 グロムの長に事情を説明した。


「「門番が認めたのなら、わしも異存はない。そこの魔族が必死だったから、門番も心を動かされたのだろう」


 イグリア、必死だったのか――そうは見えない無表情。


「......なに?」

「いや?なんでもない」


 長老は続ける。


「空き家がある、そこを使いなさい」


 こうして無事身体を休める事が出来た。


「ふぅ……やっと座れたな」


 ボロ屋ながら、屋根と壁があるだけで安心感が段違いだ。


 イグリアが壁際に腰を下ろす、彼女も気を張っているのだろう。


 まぶたが重くなっていく――


 ■


 外からのざわめきで目を覚ました。


「一体どうしたんです?」

「ああ、ハルフミさん、実は一人帰って来ない者がいるのです」


 どうやら狩りに出かけたまま帰って来ないと皆心配しているらしい。


「そう遠くには行ってないはずななんだ」

「魔物も活発になっている、もしかしたら何処かで身動きが取れなくなっているのかも」


 お互い話し合っている。


「自分が探しに行きましょうか?」

「し、しかし客人にそのような」

「ただ泊まらせてもらいましたから、その礼も兼ねてです」


 そうして、その村人の捜索に参加する事となった。


 ■


「貴方のおかげで面倒に参加する羽目になった」

「はいはい」


 イグリアの愚痴は聞き流し先へと進む。


 村の近くの森が狩り場、その付近にいるはずだと話していた。


「足跡があるわ、こっちに向かってる」


 イグリアがしゃがみこみ、草をかき分ける。

 そこには土を擦ったような痕跡が点々と続いていた。


 周囲を見回しながら、森の奥へと歩を進める。


「この先は魔物の縄張りって言ってたわね、気をつけて」


 森は薄暗く、枝の影がまるで何かの触手のように揺れていた。


 ――グゥルルル


 低いうなり声が響いてきた。


「前方、何かいる」


 イグリアが囁いた瞬間、茂みが激しく揺れた。


 飛び出してきたのは、赤い体毛に覆われた四足の魔物。

 目は赤く光り、口元には乾いた血のような黒ずんだ液体がこびりついている。


「グロウ・バウンド、中型の猟犬型魔物ね、群れてなければいいんだけど」

「残念、群れてるみたいだな」

「はぁ」


 枝の影がまた揺れ、三体、四体と同じ魔物が現れる。


「面倒くさいわね、行くわよ、ハルフミ」


 腰の剣を抜くと、イグリアは静かに前に出る。


「『黒炎の息吹』」


 黒炎が唸りを上げて焼き払う――が、業火の中をくぐり抜けた一体が俺に向かって跳躍する。血走った目と、裂けんばかりの顎が迫る!


「『黒炎閃華』」


 剣でその大口ごと切り裂いた――


 森の空気が静まり返る。


「ふぅ......」


 イグリアは一息ついていた。俺も軽く息を吐きながら周囲を見渡し、また奥へと進んだ。


「――誰か倒れてるぞ」


 そこには倒れた若い魔族の姿があった。顔には擦り傷があり呼吸はあるようだが、意識はない。


「行方不明の子ね」

「だろうな」


 俺は背負う形で連れ帰った。


 ■


 集落に戻ると、皆が安堵の表情を浮かべた。


「助けてくれて、本当に感謝する」


 長老は深く頭を下げる。


「こちらこそ、恩返しが出来て良かった」


 村人たちからも感謝を示された。


 ■


 軽い宴会を開かれて、長老から地図を渡された。


「人間界に戻るのには魔界門を通るのが一番安全じゃろう、生憎と魔界門の位置は知らないが......ここにはヒズアグという都市までの道が乗ってある」

「――!、ありがとうございます」

「しかし魔界門を通るには金と魔力が必要じゃ......」

「金と魔力......」

「ああ、結局弱い魔族は契約する為の人間に会う事すら難しいという事じゃな」


 長老は紫色の夜空を見ながら何か思うところがあるのだろう、そんな言葉を零していた。


「恐らく魔力は問題ない、問題は金じゃろう」


 そう、金がない。


「すまんが、わしらは貧しい、援けにはなれんが......その都市へ行けば、景気のいい話もあるやもしれん、魔界門への行き方も都市でならばわかるだろう」


 長老のありがたい話を聞け、1日を終えたのだった。

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