第27話 魔界
「ハル君、イグちゃん......消えちゃった......」
ハルフミとイグリアほか一部近くにいた者達は魔界へと転移していった、問題の転移術式は暴走の結果、使用するのは不可能な状態となってしまった。
「貴方達は何を企んでいたのですか」
捕縛した魔族の一人にエズバートは問う。しかし、彼らはみな重要な事は知らされてはいなかった。
「......お、俺たち本当に知らない、蒼晶石を魔界に送る作業をしていただけで......」
「送るだけにしては大所帯でしたね」
「転移には膨大な魔力を馬鹿みたい使うんだ、人員が必要でさ......蒼晶石だって使ってなんとか魔界に送ってたんだよ」
「ふむ」
「......ラビッタフさんなら知ってるだろうけど、これ以上は何も知らない......」
これ以上の問答は埒が明かないとエズバートは判断した。
「とりあえず、我々はムンプルとペスケーと合流し町まで戻りましょう......サーシャ、良いですね?」
サーシャはシャランを撫でながら心配そうに転移術式を眺めていた――
■
――ザァァァァ
生暖かい風が吹いていた
「こ......ここは......?」
重たいまぶたを開けると禍々しい赤い空、そして太陽、しかし太陽はまるで日食のように中心は黒く、渕だけが白く輝いていた。
「――」
不気味だった、勿論今までこの世界に来て怖い思いもしてきたがここまで不気味だと思う事はなかった気がする。
ここが魔界――思わず萎縮する。
「ハルフミ、大丈夫?」
イグリアが横たわる俺を見下ろしながら顔を近づけて来た。
「魔界は初めてでしょ?」
そんなイグリアを見て俺は少し冷静さを取り戻した。
「ああ大丈夫、イグリアも無事みたいだな」
起き上がりながら周囲を見渡す。俺たちは小高い岩の上に転がっていた。
見渡す限り黒ずんだ岩肌と捻じれ歪んだ植物、ところどころに建物のような廃墟が点在している。
「ここが魔界か......」
「そうね、見覚えのない場所だけど......この魔力の濃さは魔界よ」
はぁ魔界か......
「近くに転移術式はなかった、きっと私達はどっかに飛ばされたのね」
あの転移術式は特定の場所に送るもののはずだからな、暴走した所為で想定外の場所に飛ばされたか、戻るにはその
魔法陣を探さないといけないな。
「待って......」
イグリアが俺の腕を掴み口元に指を立てている、静かにしろって事か。
「魔物」
そう言われ、俺も警戒する、そしてイグリアが指差した方を見るとウツボカズラを横倒しにしたような胴体と巨大な頭部に大きな口、ずるりと地を這う根の足をした緑色の魔物がいた。
その内側、口には粘液が滴り、牙のような突起がびっしりと並んでいた。時折それを前方に飛ばして、それに触れた小型の魔物は痙攣し、数秒も経たずに沈黙する――まるで毒と麻痺を兼ねた罠のようだ。
そんな四足で這い回る姿は肉食植物が歩いているかのようだった。
「――ネベデスね」
「知ってるのか」
「少しは......きっと私達の転移で発生した魔力に誘われたんだと思う」
ネベデスは獲物を探しながら進んでいき離れていった。
「魔界では人間界以上に魔物は魔力に敏感よ、しかも強い、気を付けた方が良いわ」
イグリアがそう言うという事は本当に強いんだろう。
「......とりあえず動こう、このままだと埒が明かないし......どうにかして人間界に帰る方法を探さないと」
俺とイグリアは――魔界での生存と帰還をかけた戦いに向けて、一歩を踏み出すのだった。
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