第24話 それぞれの状況
第一隊は転移術式の魔法陣を調べていた。
「これ蒼晶石を運んでた形跡って事かな?」
サーシャは魔法陣を見下ろしながら呟く。
「ジュエルアントがか?あいつらにそこまでの知識があるわけねぇ、大体どんな目的でそんな――」
ザインがそこまで言ったところでエズバートはある可能性を語った。
「誰かの手が入っている可能性は?」
「誰かの手......それは今回のジュエルアントの騒動が何者かの手によって引き起こされたと?」
エズバートの発言にイトスはありえない、と言いそうになるが突如として現れた女王、異様に大きいジュエルアント、餌である魔鉱石を無視した事――ありえないと判断するにはおかしな点が続き過ぎた。
「この転移術式が何処に転移したのかを調べましょう」
エズバートの提案に明確に反対したのはイトスとペスケーだった、彼らはあまりに危険で無謀だと言った。
「まぁまぁ」
「――ちょっと!」
制止を無視してエズバートは魔法陣に入る――が、反応しない。
ムンブルは魔法陣に手を触れる。
「......いや、これ蒼晶石のみを対象にしてるみたい......人間にはそもそも効果がないみたいね......」
「そうですか......」
ムンブルのその言葉にエズバートは意気消沈する。
「うーむ、となると、何処に転移していたのか、目的は何なのかわからないまま......」
「せめてどこに続いてるのかわかればねぇ」
サーシャの発言にいつの間にか出ていた彼女の従魔シャランが魔法陣の周囲を飛ぶ。
「むむ、これは......」
「どうしたの?シャラン」
「私、その転移先を見つけ出せるかもしれませんよ!」
シャランの発言にみな一斉にシャランの方を向いた。
「それは本当ですか?」
エズバートはシャランに語る。
「転移したばかりなら魔力の後が残りますッ、よく使っていたのならより強くッ」
「どこまで探れますか?遠くは可能ですか?」
「遠くは無理ですよ、ただこの転移術式は見覚えがありますッ、この魔法陣ならばそう遠くには行けないはずです!」
サーシャは少し感動した様子を隠せなかった。
「――驚いた、シャランってばそんな知識あったんだね」
「えっへん、もっと褒めてくださいなッ」
こうして第一隊は転移先を探るのだった。
■
「――怪しい」
怪しい男の後ろをつけていた俺たち第二隊は思ったよりすぐにそこにたどり着いた。
茂みからのぞき込んでいると、さっきまでつけていた男は息を整えながら何かを必死に話している。
「何人かいるわね......魔族もいる」
イグリアの言う通りで、人間ではない容姿の奴らもいた、彼らは何か話し合っていた。
「――事態が大きくなった、ここも潮時だ」
「そうだな、冒険者連中との揉め事は避けろってあの方も言っていた」
誰かの命令?
「しかし蒼晶石の為に人間界に行く羽目になるとは......」
「――仕方ないだろ、魔界だと蒼晶石集めは簡単にはいかない」
「......魔物がすぐに集まってくるからなぁ」
蒼晶石?魔鉱石とは違い、加工が難しい装飾品だと聞いている、そんなのを集めてどうする気なんだ?
「とりあえず今ある分を魔界に転送させるぞ」
魔界に転送?そんな事出来るのか。
「イグリア、魔界に転送って出来るものなのか?」
「どうかしら、まあ簡単に出来る芸当ではないでしょうね」
「,,,,,,思ったより大ごとなのかもしれないな......」
流石に戦力は足りない、一旦退こう。
俺は隣にいたリケムとロンネに目配せするとそのまま後ろへ――
パキッ
「――あ」
リケムが枝を踏んでしまった――
「......」
魔族の一人がこっちへ真っ直ぐ近づいて来た。
「――ッ」
不味い、バレたか!
「――いるのはわかっている、出てこい」
ウサギのような長い耳を垂らした長身の男が俺たちの近くで立ち止まり語って来た、それに反応して魔族やら人間やらも近づいて来る。
「イグリア、あいつらはどれくらい強い?」
「......そうね、ラヴァルトと同じくらいのは何人かいそうね」
イグリアがそう評価したという事はそういう事なのだろう、今の俺たちには荷が重いか......なら、やるべきことは!
「――リケムとロンネ、お前は第一隊と合流してこの事を知らせてくれ」
この事をエズバート達に知らせる事だ。
「で、でもッ」
ロンネは抵抗する、遺跡で逃走した事もあり、悔いているのだろうが。
「これは逃走じゃない」
ロンネの両肩を掴んで、真正面で説得する。
「俺と――」
イグリアの方を見るとイグリアは頷いた。
「イグリアが囮になって奴らの注意を引き付けてる間に逃げろ――」
ロンネとリケムは頷いた。
「――イグリア、行くぞッ」
俺とイグリアは立ち上がり、奴らの元へと駆けていった。
「――すぐ戻るからッ」
ロンネは後ろでそう言って、その場を後にした――