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第2話  王都


 俺ハルフミとイグリアはようやく森を抜けた。


「とりあえず、あの城壁に向かおう」


 風にそよぐ草が足元を撫でていく中なだらかな斜面を下り、下るほどに視界が開けていく。

 遠くに見えていた、陽光を浴び輝く白亜の城壁は近くで見るとより大きい。

 そして門へと続く街道には、商人の馬車や旅人たちの列が途切れることなく続いていた。


 白亜の城壁に近づくにつれて道行く人々の流れが徐々に増えていった。


「すごい人の数だ......」

 聞き耳を立てて見るとやはりここは王都だという事がわかった。

「イグリア、やっぱり王都で間違いなさそうだ」


 隣を歩くイグリアがわずかに頷いた。


「そうみたいね」

「......ここを人間界って言えばいいのかわからないけど、イグリアは人間界には来た事あるのか?」

「ないわ、あと付け足しておくと人間界という認識で問題ない、別に人間だけが住んでいる訳ではないけど」


「へぇ」


 視線を前へと戻す、いつの間にか門の近くに来ていた、鎧を着た兵士たちは門を潜っていく人々を監視している。「何だか緊張してきた」緊張感が漂うなか、イグリアがいきなり速度を落とす。


「ど、どうした?」

「......気配を感じた」

「気配?」


 彼女の声が低く響いた、明確な敵意ではないが敏感な気配を察知した様だ。

 周囲を見回すが特に異常は見当たらない。


「どんな気配だ?」

「魔族の気配」

「魔族......やっぱり人間界に魔族はいるのは普通じゃないのか?」


 だとしたらイグリアの存在も不味いのでは?


「従魔契約しているなら平気なはず、ただ......」

「ただ?」

「私の知ってる魔族かも」

「それは友達か?」


 イグリアは答えない。


「......確証がない」

「そうか、何かわかったら教えてくれ」

「わかったわ」


 互いに言葉少なに警戒を共有して門へと歩みを進めていった。


「......おお」


 王都の門をくぐると目の前には広大な石畳の大通りが広がっていた。両脇には露店が軒を連ね、焼き立てのパンや甘い果実の香りが漂う。行き交う人々は商人、貴族らしき者まで多種多様で、活気に満ち溢れている。


「さすが王都、賑やかだな」


 思わず感嘆の声を漏らしてしまう、ようやく異世界に来たと実感する。

 隣のイグリアは視線を巡らせている。


「......まぁとりあえず、宿屋を探そう」


 宿屋を求めて通りを歩くが、どこも満室ばかり、どうやら建国祭が近いとか何とかで手頃な宿はことごとく埋まっていた。何軒目かでようやく空き部屋を見つけた。


 ただようやく宿を見つけたときには夕焼け空だった。

 ここは王都の外れにある古びた宿屋で設備は最低限、決して快適とは言えないが贅沢を言っていられる状況ではないだろう。


「ああ疲れた~」


 俺はベッドに横になる。

 イグリアは既にベッドに腰を下ろしていた。


「俺は冒険者になろうと思う」

「そう」


 普段はどこか張り詰めた雰囲気を纏っているイグリアも今は警戒心が薄れているように感じられて、わずかに無防備に見えた。


「金の稼ぎは良いらしいし、イグリアの意見は――」


 ふと横目でイグリアを見ると既に穏やかな寝息を立てている。


「早......そうか疲れてたんだよな」


 初めて見る彼女の寝顔は、いつもの冷淡な印象とは違いどこか儚げだった。


「明日にでも話せばいいか、俺も疲れたし寝よ」


 ■



 窓から差し込む朝日がまぶたを照らし、目を覚ました。


「ふぁぁ~」


 体を起こし、軽く伸びをする。長旅の疲れが抜けたのか、体は驚くほど軽い。

 隣のベッドをちらりと見ると、イグリアは既に起きていて窓から外を眺めていた。


「おはようイグリア」


 俺が声をかけると彼女の赤い瞳がこちらを見る。


「ようやく起きたのね」

「起きるの早いな」

「貴方が遅いのよ」


 窓から冒険者らしき人々も見える。


「......冒険者になるんでしょ?」


 イグリアが話す。


「その気でいる」


 この世界で生き抜くには仕事が必要だ、商人や職人になる技術はないし、貴族や役人といった上流階級に取り入る手段も知識もない。そんな中、比較的門戸が広くてそれなりに稼げるのが冒険者だろう。


「そう」


 そして何より唯一冒険者になって得られる強みがある――


「――だからイグリアにも冒険者になって欲しい!」

「......うるさい......」


 それが我が従魔であるイグリア=キキラスカだ!

 彼女の有無で冒険者になった時の生存率も変わるし稼げる額も大きく変わる!


「冒険者パーティだよ、俺とイグリアで組もう」

「......」

「金を稼げれば、お前にも色々買ってあげられるんだぞ!」

「......はぁ」


 イグリアは溜息を零す。


「......そうね、一度の依頼につき甘味を買ってくれるなら考えてあげる」

「――って事はなってくれるんだな!」

「......はいはい」


 イグリアは渋々とめんどくさそうに答えた。


「......冒険者になるんでしょう? 早く行くわよ」


 イグリアに急かされる形で俺も急いで支度を済ませ、宿を後にした。


 王都の朝は活気に満ちていた。石畳を踏みしめながら大通りを歩くと、焼き立てのパンや香ばしい肉の匂いが漂ってくる。朝市が開かれているらしく、行商人たちの威勢の良い声が飛び交っていた。


「こっちだったな、冒険者ギルドは」


 通りすがりの人から聞いた情報を頼りに路地を曲がると、目に飛び込んできたのは威風堂々たる建物だった。

 二階建ての石造りで、正面には剣と盾を模した紋章。入り口からは多くの人々が出入りし、その顔ぶれもさまざまだ。


「ここが冒険者ギルドか」

「意外と混んでる」


 イグリアの言う通り朝から活気にあふれている。俺は少し緊張しつつも、扉を押し開けた。


 中に入ると、さらに喧騒が増した。壁には討伐依頼の張り紙が所狭しと貼られ、カウンターには列ができている。


「えっと、あそこかな」


 ギルドの一角に「新規登録受付」と書かれたカウンターを見つけ、俺たちはそこへ向かった。


「すみません」


 受付にいた若い女性が顔を上げ、にこりと微笑む。


「ようこそ、冒険者ギルドの『銀鷲ぎんわし』です」

「冒険者登録をしたいんですが」

「でしたらどうぞこちらへ!お二人とも登録ですか?」

「はい」


 俺は自分の名前とイグリアの名前を伝えた。


「ではハルフミ=ミネタさんと、その従魔であるイグリア=キキラスカさん、ですね」


 手続きを進めながら、俺は新たな生活の一歩を踏み出すことを実感していた。


 ■


 ギルドの受付嬢は慣れた手つきで羊皮紙を取り出し、羽根ペンを走らせる。


「冒険者登録の確認をお願いします」


 受付嬢はにこやかに言う、俺も手元の書類を確認した。


「では、こちらが冒険者カードです」


 受付嬢が差し出したのは小さな銀色のプレートだった。


「これでお二人は正式な冒険者となりました、最初のランクはEランク。依頼をこなせば昇格できます」


「初めての依頼を受けるなら、掲示板の左側に初心者向けが集まっています。何かわからないことがあれば気軽に聞いてくださいね」


 受付嬢の言葉に礼を言い、俺たちはギルドのメインホールへ戻った。



 ■


 掲示板には無数の依頼が貼られていた。


「さて、どれにするか」


 初心者向けの依頼の内容は「薬草採取」「小型魔物の討伐」「荷物運び」などが並んでいる。


「どれが良い思う?」

「そうね、どうせなら稼げる依頼が良いわ」

「危なくないか?」


 主に俺が。


「どうせ戦えないんだから、貴方は私に捧げるモノを考えておけばいいの」


 う......現状俺は役立たずなのは事実か......


「まぁ......報酬が増えればイグリアにも良い食べ物を買えるし、俺も武器とか買えるか」


 イグリアは報酬欄をじっと見つめ、一つの依頼を目に止める。


「これにする」

 イグリアは指を指す。


「なになに?」


 依頼内容:スライム討伐10匹以上+スライムの核10個以上 報酬:銅貨10枚、 内容:王都外の廃井戸にスライムが発生したので駆除してほしい、素材としてスライムの核を持ち帰る事。


「なるほどな」


 通りの露店を見た感じ大体銅貨5枚で1食分くらい。

 他の依頼を軽く見ると初心者の依頼は銅貨5枚程度が基本なようだ、なのにこれは報酬が良い。


「良いんじゃないか?」

「決まりねさっさと行きましょ」


 俺たちはその依頼を引き受けることにした。


 こうして、俺たちの冒険者生活は幕を開けた。


 ギルドカウンターに戻り、さっきの受付嬢にスライム討伐依頼の書状を差し出した。


「こちらの依頼を受けたいんですが」

「はい、確認しますね......討伐依頼にいきなり挑戦するのですか?」


 受付嬢は少し驚いた表情を見せる。


「何かおかしい?」

「初めての方は大体採取系の依頼を選ぶのでつい......問題ありませんよ」


 彼女は仕切り直す。


「コホン、依頼は確かに初心者向けです、しかし相手がスライムだからと油断はしないでくださいね」


 イグリアは辺りを見ていて話半分に聞いている感じだ。受付嬢はさらに言いづらそうに話す。


「えっと、それでハルフミさんは武器などは?」

「......」

「新人さんには武器を渡す事が出来ますよ?お古ですが......」

「お願いします!」


 色々と提案され、俺はお古の剣を貰った。

 剣なんて握った事はなかったし重いのかなと思っていたら案外軽くて驚いた。


「結構軽いもんなんだな」


 これなら慣れてない人でも使えるかもしれない。


「街中で振り回さないでくださいね?」

「気を付けます」

「スライムの核は多く持ち帰っていただければ報酬も付け足されますので、頑張ってくださいね!」

「了解です」


 俺とイグリアはギルドを後にし、早速王都の外にある廃井戸へ向かうことにした。



 ■



 王都の門を抜け、石畳の道を外れてしばらく歩くと草原が広がってきた。


「廃井戸ってどこなの?」

 イグリアが聞いて来る。


「依頼書によると、この道をまっすぐ行って左に見える森の近くだってさ」


 しばらく歩くと、確かに木々の陰にぽつんと寂れた井戸が姿を現した。石組みは風化し、蔦が絡まっている。


「ここだな」


 井戸の縁にぷるぷると揺れる青色のスライムを発見した。


「準備はいいか?」

「平気」

「よし」


 近づくとスライムが小さく跳ね、こちらに気づいたのだろうじわじわと迫ってくる。

 俺も慣れない剣を握る。


「――来る!」


 ――スライムが一匹飛び掛かって来た!

 イグリアは俺の前に立つ。


「イグリア、核は壊さないように――「――ふん」


 イグリアは腕で振り払うだけでスライムを吹き飛ばされる


「......して欲しかった」

「あ......」


 言うのが遅く、そのままスライムは青い玉状の核ごと破壊された。


「スライムの核って脆いのね」


 ショックを受けている暇はなく次々とスライムが突撃してくる、こいつら森にも多く潜んでいた!


「うわッ」


 右に左、イグリアは容易く倒している様だが俺には一苦労だ。


「――」


 しかし不思議と身体が反応し避けられた。

 避けるだけではない――


「――ッ」


 シュンッ


 剣を振ってスライムを切るという事まで出来た。


「なんだろうこの感覚」


 それは別に今に始まった事ではなかった、この世界に来てからかイグリアと契約してからか身体の調子が良い。


「――後ろ!」


 イグリアが叫ぶ。


「――そこ!」


 振り向き様に一刺し――


「おお」


 我ながら感激してしまった。


「――後ろ」

「なんだ?」


 イグリアの声が後ろから聞こえ振り返ると――


「げっ」


 飛びつこうとしていたであろうスライムを鷲掴みにしたイグリアが立っていた、そしてイグリアは核ごと引き抜いた。


「油断しすぎ、貴方、これ貸しね」


 どうやら彼女への報酬が増えてしまった様だ。


 ある程度片付いて来てイグリアと俺が集めていた核を数えていく、核は青い玉の形をしていて少し硬いそれを革袋に詰め込んでいった。


「20個か、核を取れなかった奴も合わせたら相当いたってことだな」

「どんだけスライムいるのよ」

「まぁおかげで稼げた」

「楽勝だったわ」


 多めに納品すれば報酬は上乗せしてくれるって話だし、問題ない。


「井戸の中にはまだ沢山スライムいそうよ?」

「あー今日はやめとこう、革袋に入りきらないし武器の調子も不安だ」


 剣にスライムの粘液がこびり付いて切れ味が落ちてる気がする。


「そう、稼ぐチャンスなのに勿体ない」


 イグリアは少し不満気だが俺はそれなりに満足している、やっとまともな戦闘経験を積めたし手応えを感じた、俺たちはギルドに戻る事にした。


 ■


 ギルドへ戻り、再び受付嬢に報告する。


「スライムの核は確かに確認しました。お疲れ様です!」


 受付嬢がにこやかに微笑みながら銅貨20枚を差し出してきた。


「これで正式に依頼完了です。初仕事、順調でしたね!」


 銀貨を受け取り、思わず頬が緩む。


「Eランク冒険者として順調な滑り出しです、次の依頼もぜひ頑張ってくださいね!」


 こうして俺たちの冒険者としての第一歩は、順調に始まったのだった。

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