第18話 次の依頼地は――
あれから一週間、特に何もなく依頼をこなして金を稼ぐ日々、そろそろ家にはどれくらいの金がかかるのか相場ぐらいは知っておきたいと思いつつ、知ったら知ったで途方もない額を提示されて士気が下がるなと思い、今はとりあえず目先の金の為に依頼をこなしていた。
「イグリア、そっちはどうだー?」
現在、俺たちは依頼の為にシラサの森にいる。
「おーいイグリア、見つかったか?」
近くにいるはずのイグリアを呼ぶ。
「......ない」
「本当にちゃんと探してるかー?」
「探してる」
本当かよ。
今回の依頼はシラサの森の奥地に生える珍しい花、包月花という魔力回復に効果があるという花の採取だった。
「見つけた!、これで採取完了だ」
革袋に花を詰め込んでいるとイグリアも歩いて来た。
「退屈な依頼ね」
「毎度毎度、討伐依頼がある訳でもないだろ、疲れるし」
早く終わるかと思ってたが意外と時間がかかってしまった、夜までには帰りたい。
■
街に戻った頃には、空がすっかり朱に染まり始めていた。 そのままギルドへと向かう途中
「今日はアレが良いわ」
「ん、どれだ?」
イグリアが指差した先には、香ばしい匂いを漂わせる焼き串の屋台。
その屋台で焼き串を一本ずつ買い歩きながら腹を満たす。
「......うまい、初めての場所だったけど、当たりだな」
「私の勘、冴えてるでしょ」
「みたいだな、だけど、俺の勘のがもっと冴えてる」
「根拠は?」
「俺はお前が喜んでたケーキもパイも一発で当てた」
「......甘いものなんて、大体美味しいに決まってるじゃない、私の方がすごいから」
「なんだ、今度勝負するか?」
「ふふ、ハルフミの癖に生意気ね、良いわ、受けて立つ」
並んで歩く足音が、今日はいつもより少しだけ揃っていた気がした。
そうこうしている内にギルドに到着した。
「お帰りなさい、包月花は無事採取できましたか?」
カウンターにいた受付嬢のイリスが顔を上げて声をかけてくる。
「この通り」
革袋を差し出すとイリスは慣れた手つきで中身を確認し所定の用紙に記録をつけ始めた。
「ハルフミさん、イグリアさん......ちょっとだけお時間いいですか?」
何かあったのかと顔を見合わせ、俺たちはそのままギルド奥の事務室へと通された。
応接用の小部屋には、少し神経質そうな眼鏡をかけた細身の男がいた。
デスクにはいくつかの書類が無造作に広げられている。
「今まであまり話す機会がなかったな、一応自己紹介しておこう、私はアロム」
男は眼鏡を押し上げながら名乗った。
ギルドの中堅職員で、何度か顔を見たことのある男だった。
「早速だが......君たちの次の依頼に関して話がある」
アロムはそう言って一枚の依頼書と地図を差し出してくる。
地図には、王都から東南に延びる道と地名が記されていた。
「カザトランナ、赤土の採掘街と呼ばれてる場所だ、そこは魔鉱石の採掘と交易でそこそこ潤っていたが、最近は芳しくない......理由は知ってるか?」
「......魔鉱石が王都にあまり来てないとは聞いた事が」
「そうだ、どうやら魔物による被害が深刻で採掘が止まっているらしい」
なるほど、そういう理由で......
「......先にサーシャたちが向かっていたが、魔物の掃討に手間取っているようだ、今回は君たちにこの依頼を任せたい」
「......俺たちでいいんですか、C級ですけど?」
「君たちの実績はギルド内でも高く評価されている、イリスやサーシャも君たちのB級昇格について話していた」
――ザインが言っていた話は本当だったのか。
「この依頼はB級昇格の判断材料の一つにもなるだろう」
そして今まで沈黙を守っていたイグリアが話し始めた。
「報酬はどうなの?」
「現地までの往復費用、途中の滞在費、すべてギルドで負担する、報酬は規定以上になるはずだ......悪い話ではないと思う」
俺はイグリアの顔を見る彼女はわずかに頷いた。
「......アロムさん、受けます」
「よし、道中の注意点や現地地図の詳細は明日、出発は三日後だそれまでに準備を済ませておいてくれ」
こうして旅支度をすることとなった、カザトランナまでは王都から道中にいくつか拠点で休憩を挟みつつ三日ほどかけてカザトランナまで移動するとのこと。
「剣の予備を買っておこうか」
俺にとって剣の有無は死活問題、サーシャからの意見を取り入れてとりあえず良い剣を使っている。
「イグリアは何か買うか?」
「いい、必要なものとかないし」
んじゃ買うものは武器と......消耗品も買っておこう。
重い荷物になるのは避け、とりあえずのモノは買い、当日に備える事にした。
「......保存食とは必要かもね」
食が絡むと頭が回る奴だよ、本当。
■
不慣れな旅支度を終え、当日。
ギルドに立ち寄ってアロムやイリスから注意事項や現地の詳細、道中の要点を教えてもらい、そのまま王都の外門へと足を向けた。
門の前には、依頼に手配された馬車が既に待機していた。
「これに乗るのか......緊張してきた」
馬車なんて乗るのは初めてだ。
「イグリアは馬車とか乗ったことあるか?」
ふと尋ねてみる。
「似たようなのなら......乗り心地は最悪だったわ」
「マジかぁ......」
御者の掛け声と共に、馬車が動き出す。
王都の門がゆっくりと遠ざかっていくのを見ながら――赤土の採掘街カザトランナへ向けて、静かに旅立った。
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