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第17話 迷って迷って遠回り


 サーシャと別れたのは雑踏から少し外れた広場の一角だった。彼女が依頼の打ち合わせに向かって駆けていった後、俺たちはしばらくその場に立ち尽くしていた。


「......さて、帰るか」


 ■


「次はこっちだ」


 右へ


「えっと、あっちだな」


 真っ直ぐ


「......そっちか」


 左へ


「......あれ?」


 真っ直ぐ?


「やっぱ、あっちか?」

「どっちだったかしら」


 イグリアが首を傾げる。

 来るときはサーシャの後をついてきただけだったから、道順なんてほとんど覚えていない。


「......やばいな、完全に人任せだった」

「......どうするのよ?」

「......仕方ない、地道に探すか」


 ■


 王都の午後はまだ人通りが多かった。

 行き交う人々の服装も多種多様で、長衣の職人、軽装の冒険者、華やかな帽子をかぶった貴婦人まで入り交じっていた。


「にぎやかだなぁ」


 通りの角に立つ大きな掲示板には王都の告知やお触れが張り出されていたりもした。


 イグリアが横目で覗き込んでくる。


「興味あるの?」

「いや、ただ読んでただけ、建国祭の時なんか外国からの来賓も来るみたいだ」


 建国祭の時は冒険者業は休もうか。


「祭りなんだから色々と出店も期待できるな」

「そうね」


 イグリアと歩調を合わせながらゆるやかに王都の街路を進んでいく。

 道端の花売りが小さな青い花を差し出してきてきたり、普段はうろつかない様な場所にも居合わせた。

 

 遠く、塔の上で鐘が鳴った。


 日が傾きはじめ、通りの色合いも赤くなってきた、店先からは夕食を支度する匂いが漂ってくる。

 そして俺たちはひと通り歩き回ってようやく馴染みのある通りに戻っていた。

 

「やっと......見覚えのある道に戻ったな」

「ふたりして地図も読めないなんて、何してるのかしらね......馬鹿みたい」

 

 アクシデントもあったが王都に愛着の様なモノが生まれた気がする。


 陽はほとんど落ちかけ王都の下町にある俺たちがいつも泊まっている宿屋へと戻ろうしていた――


 宿の前の通りに差し掛かったときだった。 入口の影に、見知った顔がひとつ、座り込んでいるのが見えた。


「......おい、ハルフミじゃねえか」


 低くくぐもった声とともに、そいつがこちらを見上げる。

 くたびれた革鎧に、腰には空っぽの剣鞘、奴は――B級冒険者のザイン。

 酔っているのか顔が赤く手には空の酒瓶を持っていた。


「最近調子が良いみたいだな」


 ザインが立ち上がった。ふらつく足取り。

 だが、目の奥だけは酔ってなどいないような濁りを帯びていた。

 ザインはサーシャと同じくB級冒険者だ、揉め事は起こしたくない。


「別に......そういうつもりはないんだけどな」


 俺の返答にザインは鼻で笑った。


「随分と謙虚じゃねぇかよ、だけど俺は知ってんだぜ?もうすぐお前らがB級に昇格するのをよ」


 それは初耳だった、B級に昇格だって?


「そんなの初耳だ、ただの噂じゃ――」

「――噂じゃねえよッ!」


 ザインの声に、わずかな殺気が混じる。


「お前を推薦する為にサーシャが話合ってんのを俺は聞いちまったんだからなッ!」

「の、呑み過ぎだ、ザイン......B級は推薦されたからってそう簡単になれるものじゃない、ザインが一番知ってるだろ?」


 どうにも興奮している、普段からザインには突っかかって来られる事もあるにはあったがここまでのはなかった......どうにかして場を収めよう。


「まぁまぁ落ち着けって――」


 とにかく冷静になってもらわないと。


「馴れ馴れしいんだよッ!」

「――うわッ」


 そう言って奴は俺を払い飛ばした。


「っいった~」


 ちょっと油断したな......触ってみると頭から血が出ていた。


「ハルフミ、大丈夫?」

 イグリアは俺の元へと近づいて来た。


「平気だ、気にすんな」

「......あいつ、どうする?」


 イグリアはザインを見る視線は鋭い瞳だった、そしてザインの方は腰の剣を手に持っていた。


「......ザイン、それは駄目だ」


 冒険者同士の刃傷沙汰はご法度。


「倒しても良いけど?」


 イグリアの提案を拒否する。


「あいつは......酔ってて気が動転してるだけだ......」


 イグリアは溜息を吐いた。


「......わかった」


 イグリアは俺の前に立つ。


「このまま何もせず帰るなら、見逃してあげる」

「――ッ......」

 イグリアは自身の魔力を放出して、再度問いかける。

「......どうするの?」


 幸いザインの酔いは少し醒めたのだろう、ザインは数秒、何かを押し殺すように歯を食いしばった末、酒瓶を地面に投げ捨てると舌打ちひとつ残してそのまま立ち去って行った。


「ありがとう、イグリア」


 そして俺たちは、王都の静かな夜のなか、少し古びた宿の扉を開け今日の疲れを癒すのだった――

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