第15話 ブラックウルフ戦と教訓
イグリアが復帰していくつかの依頼をこな始めていた頃のこと。
いつも通りギルドの掲示板前で依頼を眺めていると、不意に後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「ハル君!イグちゃん!」
は、ハル君イグちゃん?......もしかして俺とイグリアの事か?
ふり返るとサーシャが立っていた。
「それって......俺らのこと?」
「うん、嫌だったかな?」
赤髪を揺らしながら笑顔でこちらを見つめる。
「別に良いよ、イグリアは?」
「私は気にしてないわ」
それを聞いて、サーシャは喜んだ。
「ありがとう!ねぇ前の約束覚えてる?」
「一緒に依頼を受けよう、だっけ?」
「うん、ちょうど良さそうな依頼があったから一緒にって、交易路沿いの森道の道標や中継地点のチェックなんだけど、結構報酬良いの、どうかな?」
サーシャは手にした依頼書を差し出すと、期待に満ちた目でこちらを見つめてきた。
隣のイグリアに視線を向ける。
「イグリア、構わないか?」
「私は良いわ」
俺が頷くとサーシャがパッと花が咲いたような笑顔を見せた。
「よし、決まりね!」
■
森道への道中、木々の隙間から射す陽光が揺れていた。
小鳥のさえずりが聞こえる中――
「――そういえば」
サーシャが思い出したかのように発声した。
「ハル君ってイグちゃんとどういう流れで契約したの?」
好奇心に満ちた瞳を向けられる。
何といえば良いんだ、流石に転移云々は信じてはれないだろうし......。
「召喚しての契約だったな」
「え、すごい、召喚したんだ!」
「普通は違うのか?」
「召喚することもあるけど......召喚は高レベルな魔法だから、普通の人は使えない、偶然会った魔族と意気投合して契約ってパターンが多いと思うよ」
サーシャのカバンから、ふわりと何かが飛び出した。
「私も偶然サーシャに会いましたッ、契約に感謝ですッ、感謝ッ!」
軽やかな羽音とともに、シャランが空中でくるりと回転し、イグリアの頭にふわりと乗った。
イグリアの眉がぴくりと動く。
「イグリアはハルフミに感謝してますッ? 感謝ッ?」
「うるさい」
シャランはイグリアの頭で続ける。
「イグリア、感謝ッ感謝ァァッ?」
「鳥......焼き鳥にするわよ」
「ひどいッ!」
シャランがパタパタと逃げ回る姿をサーシャはクスクスと笑っていた。
■
サーシャが難しい顔をしている
「どうしたんだ?」
「何だか変......」
道は整備されているはずなのにあちこちの道標が傾いていたり枝が不自然に折れていたりと小さな異変が散見された。
「この中継所も壊れてる......」とサーシャが呟く。
木製の物資箱が割れており干し肉が残されていた。
――何かに喰われたような跡、そしてシャランが警戒の鳴き声を発した。
「気を付けて、近くに――」
ザッ――
と風が揺れ、それと同時に森の奥から低い唸り声のような音が聞こえた。
「......聞こえた?」
すぐに静寂が戻るが空気に緊張が走る。
そして次の瞬間――
「いた――!」
木々の間から飛び出したそれは――黒い狼だった、 鋭く研ぎ澄まされた爪。目は血のように赤い。
「ブラックウルフ!?どうしてこんなところに......」
サーシャが叫んだ、その顔には驚きとわずかな焦りが混ざっていた。
ブラックウルフ、確かC級~B級レベルの魔物だと聞いた事がある、ここらには現れないはずなんだが。
「ハルフミ君、イグリアちゃん、もっといるよ!」
続けざまに木々の隙間からもう1匹、さらにもう2匹――3匹、4匹と続けて現れる!
「っ」
だが、サーシャが何処か不思議そうに魔物を見る。
「何だか、おかしい......群れの動きに秩序がない」
1匹1匹が別の獲物を狙うかのように、好き勝手に歩を進めてくる。
「ブラックウルフはもっと統率されてるはずなのに」
瞬間、上空を飛ぶシャランが大声で叫んだ。
「みんな、やばいの来ますッ危険ッ危険ッ」
森の奥から地面が鳴る重い音、枝がへし折れる音――黒く、巨大な影が姿を現した。
「――ッ」
サーシャは怯えた様な表情を一瞬見せる。
素人目に見てもリーダー格だとわかった、こいつが現れた途端に他の奴らが怯え始めた。
「......でかい」
イグリアがボソッと零す。
他の個体よりもさらに二回り大きく、体長は人の背丈を優に超え、鬣のような黒毛が逆立っていて、牙から血が零れていた。
「――来るッ」
瞬間、大きな唸り声が森に響き渡ると同時に先頭の一体が地を蹴り、に向かって一直線に跳躍してきた!
「来やがったッ」
一歩踏み出し剣に魔力を込めて黒炎を纏う。
「『黒炎閃華』」
剣の刃が魔物の鼻面を正面から受け止め鈍い音と共に、俺とブラックウルフは同時に弾かれ横倒――
「っ――」
横転した俺の隙を他のブラックウルフが襲い掛かろうとするが、俺を庇うように出たのはイグリアだった。
「『竜爪閃華』」
イグリアは赤黒い炎を纏ったツメでブラックウルフの一匹をツメを砕きながら弾き飛ばした、だがさらに一匹がイグリアの隙を突くように襲い掛かってくる。
「ッふん!」
イグリアはそれを片方の手で防ぐ――俺はその隙を逃さずに剣で奴の腹に刃を突き刺した。
「『黒炎閃華』」
突き刺したまま赤黒い炎を腹の中で発生させると苦しみながら倒れ伏した。
「『サンダーボルト』」
サーシャは最小限の動きで攻撃を避け短剣を頭に突き刺して雷の魔法を放つ。
一匹、一匹と減らし、ついに残ったのは群れの中で異彩を放つ巨大個体リーダー格のブラックウルフのみ。
リーダー格のブラックウルフは低く唸り声を上げながら、ぐるりと円を描くように距離を測りながら近づいて来る、次の瞬間――
ズッ――!
「ッ!」
黒い影が一閃、地を滑るようにして迫ってきた。
「くッッ!」
それをぎりぎりで受け止める。
ガン!
剣と爪がぶつかり火花を散らし、地面を削るような激しい衝突――駄目だ持たない!そして
「イグリアッ!」
その一瞬を狙って横からイグリアが踏み込む。
「『竜爪閃華』ッ!」
だが、奴はそれを察知したのだろう、すぐにバックステップ――
「勘の良い奴ッ、見た目の割に頭が良いみたいね」
追いかけるようにサーシャが雷の魔法で追撃した。
「『サンダーボルト』――!」
雷はブラックウルフの後を追いながら襲い掛かると、奴の動きが一瞬止まる。
「今だ!」
剣に黒炎を纏わせる。
「――『黒炎閃華』!」
咆哮を上げて突進するブラックウルフ、復帰が早い!だがその鼻先へ、真正面から剣を叩き込む――!
ドガッ!
剣と爪の激しい衝撃。
ピキピキピキッ
「ッッッあ、やばいッ!」
嫌な音がした――
パリンッ
剣が砕けた――ブラックウルフの方はその衝撃で一瞬怯んだもののすぐに体勢を立て直して襲い掛かってくる。
「ッ......――」
やばい、死ぬ――
「――ハルフミッ!」
いつの間にか――イグリアが俺の前に立っていた。
「――『竜爪閃華』」
そして今にも襲い掛かろうとしていたブラックウルフの顔面に鋭い爪を振り下ろす。
奴は大地に横転し、何度も転がった末に最後に唸りを声を漏らして――ついに動かなくなった。
森に、静寂が戻る。
荒い呼吸を整えながら、三人は肩を並べてその場に立っていた。
「終わった......のか?」
サーシャが警戒を解かずに近づいていく。
「......大丈夫みたい......」
安全が確保され空へ飛んでいたシャランも戻って来た。
「......あぁ、死ぬかと思った~」
思わず倒れこむ。
「本当危なっかしい、大体貴方、剣壊れすぎよ」
イグリアの鋭い口撃。
「ありがとうイグリア、助かった、サーシャもありがとう」
「気にしないで、それよりも......」
サーシャは俺の剣を見る。
「ハルく~ん?これ、あんまり良い剣じゃないでしょ?」
「そうだけど」
あまりお金は使わないようにしている。
「やっぱり......だからすぐ壊れるんだよ?」
「そういうものなの?」
「そうだよ?切れ味だけじゃない、耐久とか色々と違うんだから、次からは高くても良い剣買わないと」
「だけど貯金したいし――「ダメだよ!」
サーシャから注意を受ける。
「もしさっきみたいな事が一人の時に起きちゃったらどうするの?」
「そ、それは......」
考えた事なかった......。
「イグちゃんだって内心ヒヤリとしてたんじゃないかな?」
俺はイグリアの方を見るが、イグリアはこっちを見ていない。
「......はい、次からは気を付けます......剣の重要性、正直舐めてました」
「......うん、わかればよろしい」
今度からはそういうのにも意識を向けていかないと。
「でも無事で良かったよ、本当に――」
こうしてアクシデントもあったが初めての3人と一匹の依頼を無事終えた、サーシャからは良い剣の鍛冶師がいるから後日紹介してくれるとの事でそれを期待して宿屋へ帰るのだった。
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