第12話 竜翼展開
イグリアの背から生える黒く硬質な竜の翼、そしてそれと対峙しているのは薄く輝く光の糸で織られたかのような翼を生やしたラヴァルト。
二人の魔族が空中で交錯する。
ハルフミとサーシャが戦っている中、私はラヴァルトと上空で対峙する。
「その翼......随分と竜らしくなった、美しい」
「余裕そうね」
「ああ――やっと土俵に上がってくれただけ、それで何が変わる?」
ラヴァルトが手をかざす。光の糸が再び無数に伸びていく。
「今の一瞬で随分と魔力循環が多くなったね、契約者と従魔の仲がより深くなったという訳か――感動的だ」
「......」
「しかし興味深い、契約の深化とはこうも目に見える変化をもたらすものなのか」
伸びて来る糸を私は避ける、しかし慣れない上空での戦闘に避けるのが精いっぱいだった。
「愛とは 繋がり、魔族が従魔になる事に不快感を示す者もいるがね......私はそれを美しいと思うよ、まさに愛、そして――その到達点こそが一つになるという事だッ!」
「本当に歪んでるわね、それが愛?人と魔物を融合させて何が楽しいの?」
黒い翼をはためかせ、ラヴァルトの攻撃をすり抜けながら渦を描くように上昇していく。
「最ッ高だろうがァ!いがみ合う者同士が一つになるんだぞッ!?」
「だったら、貴方も一つになれば?」
「自分がなるよりも、見ていたいんだよッ!」
ラヴァルトは感情的に反論していた、ふざけた奴だと内心思いながら追いかける――
「一つになる、物語の大団円でそれこそが愛!そして目指すは愛と芸術のハーモニーッ――」
すると、ラヴァルトはくるり、と振り返り――
「――君に味あわせるッ『解体剣』」
ラヴァルトは紫の刃を手にして突進して来る――
「――っ」
身体を練らせて寸での所で回避する――だが、ラヴァルトは紫の刃を手に空を裂きながら、すぐさま方向を変えて追撃してきた
「『竜爪閃華』」
私は背中の翼を強く羽ばたかせて間合いを取り、ツメでの反撃を試みる。
しかし、慣れない空中戦での判断は地上のそれと違い一手一手に余裕がない。
「君が竜の力を見せてくれるというのなら、その先も是非見せてもらわなくては!」
ラヴァルトの目は期待と好奇心を露骨に示す。
「一体私の何を知っていると言うの!」
一瞬、背後から鋭い魔力――!
「――ッ!」
咄嗟に翼を盾にして振り返る――
「遅ぉいッ!」
細い光の糸が刃のように突き刺さる、黒い翼の表面が裂け焼けるような痛みが走る。
「こんなものッ!」
翼に魔力を込めて、潰す様に糸を破壊した。
「――なんと、『羅糸』を――」
ダメだ、まだ足りない、火力も翼の精度もあいつには届いていない。
「流石は竜、といったところ......だが、何時まで戦えるかな?」
「......」
「君の翼、魔力の消耗デカいだろ?しかも翼の維持も慣れてない事から長期戦は難しいはず、にも関わらず短期決戦を狙うには決定打に欠けている」
ラヴァルトはニヤリと笑う。
「それに――下を見てごらんよ、私の愛と芸術が圧倒しちゃってる」
癪だったが、言われた通りに下を見ればハルフミとサーシャがどうにかラヴァルトが作り上げた魔物と必死に応戦しているが、徐々に押されているのがわかった。
「行ってさ、助けてあげなさい......それが愛――」
このまま防戦一方な状態を維持するより、助けに行った方が良いかもしれない。
しかしそれを止めたのは――
「イグリア、こっちは気にするな!」
ハルフミだった。
「俺だって強くなってる!魔力循環だっけか!だからイグリア、こっち大丈夫だ気にするなッ!」
心臓の奥が熱を帯びる。
あの契約のときに感じた、魔力の波、彼との繋がり。
「ふん、ハルフミったら調子に乗ってる、生意気ね――」
ハルフミの魔力が強く流れ込むのを感じた。
「――それが君の愛か『羅糸』!」
ラヴァルトは感嘆の声を漏らしながら攻撃して来る――
「一緒にしないで!」
私は回避に専念していた動きを一転させラヴァルトへと突撃する。
「『解体剣』――」
紫の刃が迫る――瞬間。
魔力を一点に集中させる、背の竜翼は過度に魔力を込めた事で激痛の代償に速度を上げた――
「――早いッ!?――」
空間を裂くような軌道でラヴァルトの懐に突撃――そして溢れんばかりの魔力を顎に収束させて力を込める――
ラヴァルトは魔力の壁を即座に展開するが――
「――『黒竜の顎』」
黒き竜の顎はラヴァルトの魔力の壁を正面から嚙み砕き、そのまま――ラヴァルトの喉元へ――
「――ガハッ!......」
鮮血を全身に浴びる――ラヴァルトは致命傷を負ったはずだが戦意は喪失しない――
「――......『解体――」
殺す――
喉元を抉り切った――
「――嗚呼......やっぱり......愛は、素晴らしい――」
ラヴァルトは最後にそう言い残し、笑いながら落下していった――
■
その頃、地上では――
「おりゃああ!」
倒しても魔物を複製してくるし魔物対処に手間取ってしまう。
「ハルフミ君、大丈夫なの!身体ボロボロだよ!?」
「平気ッ!」
サーシャが雷撃を放ち魔物を打ち抜くが、それでも数は中々減らない。
「イグリアがどうにか倒してくれるまでの辛抱だ、頼むぞ、イグリア――っ......!?」
突然脱力感に襲われた。
「だ、大丈夫!?」
サーシャに抱えられどうにか態勢を戻す。
「魔力の使いすぎかもしれない.......」
サーシャはそういうが使ったというよりは吸われた感覚だった――そう丁度イグリアのいる――空中に――
「すごい魔力!?」
サーシャが叫ぶ、上空に突如として膨大な魔力を感じた――イグリアだ。
「あれって――竜?」
魔力溢れる上空、一瞬、竜の姿が見えた気が――
――バギィィンッ
激しい轟音が鳴り響くと爆風が巻き起こった――そしてそれに合わせる様に地上の魔物たちが呻き声をあげて崩れ落ちた。
「イグリアがやってくれたんだ――」
思わずサーシャと見合わせ喜んだのも束の間だった――
「――イグリアちゃん!?」
サーシャが指を指す、その方向へ顔を向けると。
「あれは、不味いッ!」
爆煙の中からイグリアが零れ落ちるようにが落ちている――気を失っている!
「――!」
イグリアを掴むべく、走る。
ガシッ!
「間に合ったッ!――」
イグリアの、細くもしっかりとした身体を――確かに抱きとめる。
「これは褒美のケーキは一つじゃあ......足りないかもな」
いつもはどこか上から目線で、偉そうで、強くて、近寄りがたかったイグリアだがいま、腕の中の彼女は、まるで少女のように無防備だった――
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