第11話 VSラヴァルト
ラヴァルトは両手を広げたまま、まるで踊るように軽やかに宙を滑るように歩み寄ってきた。
「初めてはみんな怖いだろう、しかし恐れるな――『羅糸』」
ラヴァルトの掌に淡い紫色の魔力が灯るとふわりと漂うその魔力は空気に溶けるように揺れ、やがて数本の光の糸へと変わった。
「――なんだ!?」
光の糸が一斉に襲いかかってくる、他の冒険者たちもそれぞれ対処し、俺も接近してきた糸をどうにか避けた。
しかし、その瞬間――
「ちっ、残った糸が動きやがったぞッ!」
一人が叫んだ。
斬り損ねた一本が床に触れた途端、血のような色に変色しながら膨らみ、ドロリとした半液状の塊になって跳ねた。
それが――魔物の手に変わる。
「ッ――」
魔物の手の平には充血した目と不揃いな牙。
「――魔力で擬似生命体を錬成してるの!?」
サーシャが叫ぶ、即席の融合魔物が複数生まれて足元を這い寄って来た、俺の足を掴まれた。
「っ不味い」
いきなり足を掴まれ体勢を崩してしまう、魔物の手はその鋭い牙で俺を噛みつこうとする――瞬間、イグリアが俺の足元に駆け寄り。
「――『竜爪閃華』!」
魔物の手を破壊し幾つかの融合体が炭になって崩れ落ちた。
「ひぃぃぃぃッ!」
「に、逃げた!?」
一人、また一人の冒険者が逃げていく。
「仲間を置いて逃げるとは......悲しいなぁ」
ラヴァルトトは本当に悲しそうに語った。
「まぁいい、今は君と従魔がメインだ」
ラヴァルトは紫の刃を手にしてこちらへ斬りかかってくる。
「ハルフミ、来る!」
刃の一撃を受け流してすぐに反撃の剣を突き出す。
「――遅い」
ラヴァルトの動きは早く、紙一重で避けられる。
「魔力循環が足りてないんじゃないか?」
「ッ......」
紫の刃が剣に触れた瞬間、魔力がねっとりと絡みついた。
「なんだッ!?」
俺の剣が奴の刃の魔力に包まれていく!?
「『解体剣』」
剣がひび割れていく――
「――!」
サーシャは隙をついてラヴァルトの腰に短剣を突き刺した。
「――『サンダーボルト』」
サーシャは至近距離でさらに電撃を放つ。
「ッ......!」
ラヴァルトはサーシャの攻撃で意識をあっちに向けた、その隙を突く――
「『黒炎閃華』」
俺は剣に力を込めて魔力で刃ごと振り払った。
「――とッ!」
ラヴァルトは距離を取るが――イグリアはいつの間にかラヴァルトの後ろにいた、ラヴァルトが僅かにバランスを崩していた隙を、イグリアが見逃さなかった、。
「――『竜爪閃華』」
ガァンッ――
土煙が舞うほどの勢いで身体ごと地面に叩きつけられた。
「ッ......好き放題やりやがって......」
ラヴァルトが立ち上がる白いローブに裂け目を作っていた。
「全くこれだから愛と芸術を知らない奴は嫌いだッ......」
感情的に語気を強めるラヴァルトの青い肌に傷が刻まれ蒼紫の血が垂ている、少なくともこちらの攻撃は効いている様だ。
「これはどうだ?」
その背にから、薄く輝く光の羽が現れ始めた。
光の糸で織られたかのような翼はふわりと、ラヴァルトの身体が浮かぶ。
「愛は高く舞い上がるものさ」
重力を無視するように、ゆるやかにけれど確実に上空へと上がっていく。
これでは俺の剣は届かないイグリアのブレスも遠すぎる、完全に攻撃の間合いを外された。
「――『サンダーボルト』」
サーシャは雷をラヴァルト目掛けて放つが容易に避けられてしまう、彼女の従魔も戦闘型ではないので期待できないだろう。
「これだけ距離があれば君の雷魔法だって簡単に避けられる」
上空からラヴァルトがこちらを見下ろす。
「さて、ではこちらの反撃の時間だ――『羅糸』」
ラヴァルトの光の糸が遺跡の天井に伸びていくすると、先ほどのような融合魔物が何体も生まれ天井から地面に落ちて来てこちらに向けて牙を剥く。
「ど、どうすれば!」
どうにか対処をしている中、ある案が浮かぶ
「イグリア――空を飛べないか?」
そうか、イグリアは竜だ、空を飛べるはず。
「竜なら翼があるはず......どうだ?」
「......」
イグリアが小さく目を伏せた。炎のように強かった瞳がほんのわずか揺れる。
「それは......」
イグリアの手は胸元を握っていた。
「竜の力を表に出せば出すほどに制御が効かなくなる、昔、竜の力に引きずられて、暴走した事がある、気づいたら街を半壊させてた事もあった」
それ以来、イグリアは竜の力が上手く出せなくなってしまったらしい。
「私は嫌なんだと思う、私が私でなくなるのが――きっと」
「......」
「仮に力を出せても、また暴走するかもしれない」
イグリアが吐き出した言葉に俺は静かに首を振った。
「それでも俺は、お前を信じてる」
イグリアが顔を上げた。
「過去は関係ない、今ここにいるお前は――俺の従魔だ、なら信じるのが当然だろ」
「......ハルフミ」
「飛べ、イグリア!お前だけがラヴァルトのところまで届くはずだ、お前を信じて俺たちは地上で支える!」
イグリアの両肩を掴み、彼女の赤い目を真正面に見て説得する。
「ハルフミ君ッイグリアちゃん!大丈夫!?」
サーシャもどうにか時間を稼いでくれていた。
「――わかった、やってみる――もし私に何かあったら殺しなさいよ」
――俺がお前を殺せる訳ないだろうに。
「――ッ......」
魔力がイグリアの身体から溢れていく。
「――『竜翼展開』」
イグリアの背から黒く硬質な竜の翼が伸びていく。
「おお――」
骨のように鋭い形をしていて、竜の翼――と言っても過言ではないだろう。
「――ッ、で......出来たッ......!」
彼女の周囲を魔力が巻き、地面の砂埃を巻き上げる。
そしてイグリアは自分の姿に感嘆の声を零す。
「――上空は任せて、貴方は地上の魔物たちをお願いッ!」
「ああ、こっちは任せろ!」
バサァッ――!
力強く翼を広げ、イグリアの身体が地面を蹴った。
風を切り、黒い閃光のように舞い上がる。
「ラヴァルトォッ!」
イグリアの咆哮にラヴァルトがわずかに目を見開く。
「この魔力ッ......」
二人の魔族が空中で交錯する――
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