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第10話 シラサ遺跡

 遺跡に入ると、すぐに外の光が届かないほどの暗がりに包まれた。

 ところどころに魔力で発光する魔石が埋め込まれている。


 足元は石造りの床。苔や泥が所々にこびりつき、足を滑らせそうになる。


「うわぁ――滑る!」


 思わずイグリアの肩を掴む。


「危なっかしい......」

「ははは、ごめん......」


 普通の声量で話していても音が響いた。


「......足音も響くわね」


 奥と進んでいく。ところどころ崩落した天井からは陽光がわずかに差し込んでいる。


「視界が悪い......気配も読みにくいわ」


 イグリアが周囲を警戒する。


 サーシャが先陣を切って歩いていた、シャランによる索敵で安全を確認しながら進んでいくという作戦だ。

 そしてその後ろを俺たちが続いて歩く。


「ん?シャランが反応してる」


 何かを察知したらしい、シャランが慌ただしく飛び始める。


「こっち?」


 シャランに付き従うように進む、そしてその先で――で


「......っ、これは......」


 そこには、先行チームのものと思しき装備を身に着けた男がいた。

 だが、様子が明らかにおかしかった、皮膚は青黒く変色し、瞳は濁り、言葉にならない呻き声を上げている。


「く、来るな、ぼくらは......もう......う、うがががッ――」


 次の瞬間、男の体が激しく痙攣し、背中から黒い触手のようなものが飛び出した。


「なんだこれは!?」


 同じチームの誰かが思わず叫ぶ、それに続くようにみんなパニックになっていった。


「まさか融合されてるの!?」 イグリアが叫ぶと同時に、男――否、魔物と化した者が跳びかかってくる。


「下がって!一旦退避します! 」


 サーシャが叫び、そのまま退避していく――


「魔物だッしかもあれは――」


 ゴブリンに翼が生えている......いや違う!


「話に聞いてた継ぎ接ぎの奴か!」


 ゴブリンは呻きながら、涎を垂らしながら上空を飛び――


「突進してくるぞー!」


 ゴブリンは突進しながらこん棒を振りかぶっていた。


「――うッ」


 剣でどうにか防ぐが足もとがふらつく。


「――ハルフミッしっかりしてッ!」


 イグリアは俺の手を引きながら走ってくれた。


 どれほど走ったかようやくみんな落ち着いて今の状況を確認していた。


「魔物の融合だけではなく、人間も被害に遭っていた......」


 サーシャは動揺を隠そうと状況を説明しつつも、やはり怯えているのがわかった。


「この遺跡って深いのか?」

「......わからない」


 あんなのがまだいると考えると怖気づいてしまう、恐らく俺よりも経験を積んでいるはずの冒険者でも同じなんだと思うと少し安心した。


「今後、あの融合生物を発見したら、率先して殺します――それが彼らの為にもなる」


 こうして今後の方針が決まった。



 ■



 融合された人間は手足を他の魔物と融合されているのがほとんどだった


「ったく、やりにくいなッ!」


 そう言いながら倒していていく奴もいれば、萎縮してしまい動きが鈍くなる冒険者もいた、サーシャもその一人だった。


 イグリアはあまり気にしていないようで率先して倒していった。


「ッ――」


 俺はイグリアとは違い、渋々と倒すだけだった。


 なんとか撃退すると、その場にはかつて人だった者の残骸と、魔族の痕跡だけが残った。


「......ハルフミ、大丈夫?」

 珍しく俺に対して心配そうな顔を見せたイグリア。


「ああ、最初はしんどかったけど、たいして強くなくて助かった」

「......そういう事ではないんだけど......」

「いや......まぁ言いたい事はわかってる、まぁどうにかしてる」


 しかし、先行隊の生き残りはいないのだろうか。


 すると――


 石壁の向こうから爆発音と怒号が響いた。


「これは!?」


 サーシャが駆け出す、それに連れられて俺たちも移動した。


 駆けつけると、先行隊が巨大な改造魔物と交戦していた。金属のような外骨格に覆われた四足の獣、目は赤く光り火炎を吐きながら襲いかかっていた。


「手を貸す!」


 戦闘が始まる。


 重い一撃をかわしながら、魔物の足を狙って動きを封じる。


「イグリアッ奴の顔を燃やしてやれ!」

「――『黒炎の息吹』」


 イグリアのブレスが命中し、相手の態勢が崩れるとその隙を突くように――サーシャの短剣が脇腹を裂きつつ。


「――『サンダーボルト』」


 雷が魔物を包む、そして――


「――『黒炎閃華』」


 最後に俺は魔力を込めた一撃で魔物の心臓に突き刺す!


「ふぅ......なんとか......倒せたか......」


 生き残りのリーダー格が、血まみれのまま俺たちに向き直った。


「あ、ありがとう......助かった」



 生き残りを帰還させて、さらに奥へと進んでいった。


「これは......血痕かしら」


 床に乾いた赤黒い染みが広がっている。所々には折れた武器の破片も。


 そして空間が広がっていた。


「ここが最奥?」


 俺とイグリア、サーシャとザイン達がそれぞれ辺りを見る。


 石造りの広間の奥には巨大な門が半ば崩れた形で露出していた。


「何かな」


 サーシャが考え込んだ、これはなんだろうか、門みたいだ。

 門の周囲には、不自然に変異した魔物の死骸がいくつも転がっていた。

 しかし、イグリアは何かを察した様だ。


「――まさか、魔界門!?」


 イグリアがそう叫んだ。


「え!?、魔界門がなんでこんなところに......」


 サーシャも驚いた表情をする。


「魔界門って、魔界に通じる門って事か?」

「そう、人間界と魔界を通じる門で、数は制限されてる......はずなんだけど」


 ここには本来ないはずの門があるという訳か。


「――ッ!」


 突如――魔界門に魔力が溢れ、門の先が輝き始める。


「――ようこそ、我が工房へ」


 魔界門の奥から声が聞こえ、それは広間に声が響いた。

 魔界門から現れたのは白いローブを纏い、青い肌をしていた。

 黄色い瞳がこちらを覗いている。


「私は愛と芸術の伝道師ことラヴァルト――以後お見知りおきを」


 ラヴァルトと名乗ったそいつは魔族だろう。


「ここにいた融合されてた奴らは......みんなお前がやったのか?」

「勿論、別々の生物が一つになるなんて――感動ものだろう?」


 剣を構える。


 ラヴァルトは俺とイグリアを相互に見る。


「ん~?君たちは契約者と従魔か......ふむ......」


 そして。


「中々の魔力循環の多さ――だが君たちはもっと分かり合えるはず、この、愛と芸術伝道師ラヴァルトが君たち契約者と従魔を真に一つにしてやろう」


 イグリアが一歩前に出る。


「冗談でも許さないわよ、そんなこと」


 ラヴァルトは微笑む。


「照れないで、それもまた愛だ......さあ、受け入れよ」


 ――遺跡の中での戦いが、幕を開けた。

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