日記
「……まさかアイゼンの身に何か? お前たちは外を探してくれ」
「御意」
クロウの言葉を聞き、スミスとロドリグは手分けして、辺りを捜索し始めた。
「俺たちは部屋の中をもっと調べてみよう」
クロウは他の部屋のドアを次々と開けていき、くまなく散策する。
私も足の踏み場を探しつつ、それに続いた。
私は書斎の奥に置いてある本棚に目が行くと、ふと日記のような本があるのを発見し、それを読み進めてみることにした。
ぺらぺらと数ページ捲って確認してみると、この森に生息する薬草やキノコ、モンスターなどのスケッチと共に、その効能や習性などが丁寧に描かれているようだった。
その項目の一つに自分の過去の記憶と一致するモンスターのスケッチがあるのを目撃する。
狼男。
鋭い爪と牙。基本は夜行性だが、森の豊富な資源の影響か、昼でも餌を求めて行動している。
ページの下には、この地には存在しないはずのモンスター、危険度☆3と書かれていた。
……先程から考えていた不安が確信に変わった。
このモンスターは、当時の私が序盤のダンジョンに強敵が徘徊してたら面白いかなって入れたユニークモンスターだ。
※小学生、ゲームバランス崩壊させがち
……もしかして、アイゼンはこのモンスターに襲われて……!?
やっぱり、この世界は私の作ったゲームと少しずつ違ってて、人は自我を持って行動しているから、運命が変わってるんだ!
私は最悪の事態を想定して、青ざめる。
このままアイゼンがいなくて、聖女の儀式が出来なければ、この物語はここで終わりだ。
そもそもアイゼンが仲間にならなければ、魔王討伐の旅のあのイベントとかあのイベントとかが全部どうなってしま………、
「貴方も薬草学に興味あるのですか?」
「へ?」
突然の声に後ろを振り向くと、そこには素朴な赤髪を伸ばしっぱなしにした、やや猫背気味の魔術師が立っていた。温和で優しそうな雰囲気が伝わる彼は笑いながら、こちらを伺っている。
「アイゼン!?」
「……はい?そうですけど」
「……アイゼン」
私の大声につられてクロウも現場にやってきた。
クロウはアイゼンの顔を一目見てあきれた様子で話しかける。
「いるならいると、返事をしてくれないか?」
「いやぁ~、何だか本棚に話しかけてくれないと、こちらも来ちゃいけないって感じがしたもので」
「どういう理屈だ……!?」
……ああ、昔のゲームでよくある、一定のものに話しかけないとイベント発生しない奴ね。
目的地まで来ても、イベント発生する箇所まで導線無くて、一定時間無駄にウロウロするあれだ。
当時は変だと思わなかったのだろうが、こうして実際に行動に起こされると確かに意味不明である。
ていうか部屋に立っているキャラに話しかけてイベントが進むくらいにしといてよ、何無駄にテクニカルな事をしてるんだ小学生の私は。
……やっぱりここは私の作ったゲームの世界で、運命なんてそうそう変わらないみたい。
……考えるのも疲れてきたのでさっさと本題に入ることにしよう。
「アイゼンさん、私、今日は聖女の儀式を受けに来たんです。儀式とはいったいどういったものなのでしょうか?」
「そうでしたか、もうそんな時期だったんですね。となると、貴方が以前に王が仰っていた聖女ドロシー様ですね?よくぞここまで来てくださいました」
「御託は良い、さっさと案内してやってくれ」
「分かりました~、ではこちらにどうぞ~」
クロウの声を聞き、アイゼンはぱっと手を引いて、歩く。
……その手はクロウの手と握られて。
「……おい、俺はただの護衛の付き人だ」
「おやぁ?そうでしたか、すみません~」
「……」
散々”聖女”だって言っているのに……。
アイゼンは人慣れしない天才肌と言う設定にしたのは私だが、まさかこんなに抜けている性格になっているとは。安易にキャラクターを変な性格にすると、こんな弊害があるんだなと私は今になって感じていた。
「では改めまして~、こちらです、聖女様」
アイゼンは振り向きざま目の前のドアにぶつかって痛がりながら、先行する。
私たちはにが笑いをしながら、アイゼンの言われるままに地下室へと案内された。