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魔術師

「まさかこんな仕掛けがあるとは」


私がヘチマみたいな形をした食虫植物を観察していると、クロウたちが後からワープしてくる様子が見えた。


「大丈夫か!?」


「そ、そんなに心配しなくても」


「するに決まっているだろう!突然消えたんだから!」


「うぅ……」


クロウは私の瞳が潤んだ様子を見て、大きく息を吐くと自身の興奮を抑え冷静さを取り戻す。

そして踵を返し、従者に指示を出した。


「この森、どうやら一筋縄ではいかんようだ。全力で聖女様をお守りするぞ」


御意ぎょい!」


「ドロシーも俺らから離れるなよ」


「え、ええ」


……どうして私がこんなに落ち着いた様子なのかだって?

随分3人は気合が入っているようだが、私は全然大丈夫だと分かっていたからだ。

私の記憶が正しければこの森のモンスターの強さは本当に大したことない。

何て言ったって”最初のダンジョン”として設定したからね。


「スライムだ!」


まあ1発殴ったら死ぬね。


「ゴブリンだ!」


集団で出てくるけど、1発殴ったら死ぬね。


「キラービーだ!」


毒にしてくるけど、1発殴ったら死ぬね。


「回復ポーションも多めに持ってきた。

それにこの森には解毒作用のある薬草が生えているみたいだからそれも活用しよう」


……死ぬ要素無いよね。


そして私達一行はほぼ無傷の状態で森の奥底へと辿りついた。


「ここが森の最奥か?」


先行していたクロウたちが立ち止まり、危険が無いか私に手を伸ばし、警告する。

木陰から放たれる光を浴びながら、視線を前に目配せすると、森の奥深くにはツリーハウスが建っているのが見えた。

その壮麗な大樹には無数の苔やキノコが生えており、独特の雰囲気を醸し出している。


「ここが宮廷魔術師の住む家……随分……自然派なんだね」


私が月並みな感想を漏らしていると、クロウはツリーハウスにさっと登ると、木製のドアを叩く。


「私はカーン王の使いの者だ!いるなら返事をしてくれ!」


……返事は無い。


「留守か……?一体どこに?……失礼します!」


クロウが内部に侵入すると、そこには大量の魔導書がそこかしこに積み上げられ、とても住居として使用できない程乱雑と荷物が置かれている様だった。かろうじで生活感を感じる木製の家具もカビが生え、埃がかぶってしまっている。

部屋は長い間使われてない印象を受けた。


クロウは辺りを見回すが、人の気配はしなかった。



「……どういうこと?」


私はクロウの後から続き、もぬけの殻の部屋を見て愕然としていた。

ここに確かにアイゼンはいるはずだ。

聖女はアイゼンに魔力解放してもらい、アイゼンが興味を持って仲間になる。

確かそんな話の流れだったはずだ。


だが、その本人はどこにもいない。

私は記憶と違う不測の事態に戸惑っていた。


「……これは私が作った記憶ゲームと……違う?」

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