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初めての旅立ち

「わあああ遅刻!?」


朝日と鳥のさえずりと共に、私はベッドから勢いよく起き上がる。


「……今となってはあちらの世界が夢か」


会社都合で早めに出勤して来いと言われたくらいにパッと目が覚めた私は朝の準備を整え、城の前まで歩いていく。


既にクロウと数人の従者は私を待っていたようだった。

従者たちは馬車に乗せた荷物を確認したり、自分たちの装備を研いでメンテナンスしていた。


「……あ~、複数人で行くのね?」


「当然だ、もし聖女に何かあったら俺のクビが飛ぶ」


……まあ、大事な儀式だもんね。

二人きりというわけにはいかないか。


「本当はもっと大軍で行きたいくらいだが、軍事演習だと思われると民を不安がらせると父上から言われてな、こうやって少数精鋭を募ることにしたと言うわけだ」



「……今日はお世話になります」 


……もっと大人数で行くつもりだったの?

私は乾いた笑みを浮かべつつ、用意されたトカゲ馬が装着された馬車の客車席に乗り込むと、クロウは慣れた様子で御者席ぎょしゃせきに乗り込み、馬車を発進させる準備をする。

従者たちは私が座ったのを確認したら、次々と馬車に乗り込み、私の両脇と前方の座席は屈強な男たちで固められた。


ひぃ~、鉄錆となめし革の匂いが充満してるんですけど~。


「聖女様!お腹は空いておられませんか!聖女様の為におやつを持ってまいりました!」


「聖女様!ご気分はいかかですか!酔い止めを持ってきましたのでよかったら使ってください!」


「聖女様!椅子は固くありませんか!クッションを持ってきたので使ってください!」


うう、無駄に声デカイ。

気を使ってくれるのはありがたいんだけども。

ちょっとこういうノリは苦手だ。


私は逃げるようにクロウに話題を向ける。


「そういえば、儀式というのは具体的にどのような事を行えばいいの?」


私が聞くと、クロウは後ろを向いたまま前方を指差し、答える。


「ここから数里ほど先に”迷いの森”という場所がある。

そこに宮廷魔術師の”アイゼン”という者が住んでいるそうだ。

彼はこの辺りで唯一魔力の解放を行う事が出来る人物で、父上も彼を頼りにしてくれと言っていた」


「宮廷魔術師なのに城に住んでないの?」


「少々変わり者らしくてな、魔法薬の研究に没頭するあまり良質な材料が豊富な迷いの森で暮らすようになったと聞いている。俺も殆ど会ったことはないが、凄腕の魔術師だという事は確かだ」


宮廷魔術師アイゼン。

シャイニングファンタジアにおける魔法職ポジションの仲間である。

人見知りの天才肌で、最終的に魔王討伐のパーティメンバーになる一人だ。


……色々と思い出してきた。

確かこの迷いの森が最初に設定したダンジョンで、道中でアイゼンが仲間になるんだったかな。

何故か当時のゲームの最初のダンジョンは森だと相場は決まっていたので、私は他のゲームから好きな部分を真似て思うがままに作った記憶がある。


「迷いの森は、この大陸で一番の森林地帯だ。この森は不思議なことに人の方向感覚を狂わせてしまう。

例えば森に入る出入口が無かったりとか」


それって…………。


「時には別の大陸や街中に突然ワープしたりした報告もあるらしい。気を付けていこう」


当時の私の場所移動のフラグ管理がうまく出来てないせいだ!


※小学生、ダンジョンの出入り口忘れがち


「森は豊富な資源があるが、強大なモンスターも潜んでいるという報告もある」


それ、私が面白いと思って設定したユニークモンスターだ!


※小学生、敵の強さ崩壊しがち


「その原因もあって、他国との交流も中々進まないのが現状だ」


滅茶苦茶住民にご迷惑をおかけしてごめんなさい!

私は心の中で謝りつつ、静かに座っていた。


しばらくして、砂漠地帯はいつの間にか緑豊かな平原となり、

その奥に鬱蒼とした森が見えてきた。

【関係性】


王都から出て数時間。

鉄錆の空気にも慣れてきた頃、一人の従者が私に質問してきた。


「そういえば聖女様とクロウ様はどういったご関係なのでしょうか?」


「!」


その言葉に真っ先に反応したのはクロウだった。


「……ただの幼馴染だ」


「私はそうは思ってないけど?」


私の発言でクロウは動揺し、馬車は大きく揺れた。

従者たちはそれを聞くと、盛り上がり始めた。


「やはりそうでしたか!クロウ様が聖女様に送る視線……ただならぬ関係性を感じますもの!」


「馴れ初めは一体どのように!?」


「任務中だ、私語は慎め!」


クロウの圧により、馬車内に沈黙が訪れる。

静まり返った雰囲気を我慢できず、私は口を開く。


「そうかそうか、クロウにとって私はただの幼馴染か〜、……そうだ、あの時のペポちゃん人形はまだ大事に持ってる?」


「ペポちゃん人形?あの市場に売ってるカボチャ頭のマスコットの事ですか?」


「そうそう、クロウってばこうやってカッコつけてるけど、本当は可愛いものに目が無いのよ」


「……何故それを知っている?」


そりゃあ貴方が当時の私の理想を込めて作り上げたキャラクターだからですもの。好みや弱点、隠し事まで全て私は知っているんだから。


「ペポちゃん人形良いじゃないですかー、私も集めてましたよ子供の頃に!」


「し、ご、は慎め!」


再びクロウの圧により馬車内に沈黙が訪れる。

しかし先ほどより重苦しい雰囲気はもう流れなかった。


「帰ったらたくさんペポちゃん編んでプレゼントしてあげるね♪」


「………」


クロウはこちらを見ずに無言のまま、馬車を先へ走らせていく。

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