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大魔王

「大魔王……だと?」


大魔王マクバーはゆっくりと城の庭の中央へと降りてくる。

ゆうに大型の獣すら超える体躯と黒い蜂のような見た目は周りに対し威圧感を放っている。

マクバーは兵士に取り囲まれながら、ふんと鼻を鳴らして口を開く。


「喚くでないぞ、雑魚どもめ」


マクバーは手をばっと横に振ると、竜巻が発生した。

兵士たちは竜巻に巻き込まれ、遠くへと吹き飛ばされていく。

……集まっていた城の兵士は全滅した。


「くっ……」


私達も吹き飛ばされないように必死で足を踏ん張る。

彼の力ならこの場の全てを吹き飛ばすことも造作もないはずだが、強風で煽られるだけで済んだのは私達勇者パーティをあえて吹き飛ばすことをしなかったからだろう。


「……分かるぞ、お前がこの世界の勇者なのだろう」


「……だったらどうだっていうんだ」


クロウは私を守るように大槍を構え、マクバーを睨み付ける。

アイゼンとレオンもそれぞれ武器を構え、目の前の敵に対し、警戒する。

その光景を見て、マクバーは笑い出す。


「何とも滑稽な事よ、己の強さすら分からずに我に対峙するとは。

……それこそが勇者の本質だと戯言を言うつもりか?」


「この野郎!」


クロウは大槍を投擲とうてきし、マクバーに先制攻撃を仕掛ける。

しかし大槍は大魔王の目の前で砂のように消えてしまった。


……文字通りレベルが違う。

そんな雰囲気を察し、私は「逃げて!」と全員に声を上げた。


――瞬間。


「……遅い」


クロウが槍を持っていた手は、マクバーの放つ闇の波動により、吹き飛ばされた。

怒ったレオンは剣を構え、そのままマクバーに突撃するが、その刃は指一本で止められてしまった。


「所詮は凡夫の足掻きよ」


「なん……やと?」


レオンはマクバーから放たれる波動により吹き飛んでいき、気絶してしまった。

アイゼンは魔法を唱え、火の玉をマクバーに射撃する……が。


「無駄だ」


火の玉は大魔王から放たれるさらに強大な灼熱により打ち消され、アイゼンはもろとも消し炭にされた。

その光景を見て、私は絶望し腰を抜かして座り込む。


「それが魔法か?その矮小なもの、決して魔法などではない」


マクバーはいつの間に私の傍まで来ていた。


「……立て。星の妖精の慈悲を受けた貴様がこの中では一番強いはず。

もっと私を愉しませてくれ給えよ」


駄目だ、逃げようとしても絶対に追いつかれれる。

私は悲鳴も上げられず、その場で倒れ込んでいる事しか出来なかった。


「…………所詮、女か」


マクバーは失望した様子で大剣を召喚し、私を切り伏せた。

肩部に激痛が走り、悲鳴にならない苦痛の叫びを私は上げる。


「どんな状況だろうと、男であればこんな金切り声はあげぬ」


「…………」


「聖女という立場が安全圏だとでも思っていたか?

……我が現れた時点でその希望は潰えたと思え」


マクバーの凶刃が私の首を落とそうとする。


「やめろ!」


クロウは右手を失ったまま、マクバーに突進する。

死にもの狂いでクロウはマクバーに殴りかかるが、それは決して致命傷にはなりえない。

分かりきっている事だったが、クロウはそう行動せざるを得なかった。


「死にぞこないめ」


マクバーはクロウの首根っこを掴み、締め上げる。

ゴキゴキと嫌な音が辺りに鳴り響き、彼の命をじわじわと削り取っていく。


……このままじゃ、全員殺されてしまう。

この絶望的な状況を私が何とかしないといけないっていうの?

……私はただこの世界で平和に過ごしたかっただけなのに。

なんで……なんでこんな目に。


「ぐああああああ!」


……やめて。クロウが死んじゃう。

これ以上好き勝手するのはやめて。

私は無意識にスキルビルドを起動していた。


「……ほう」


私が手を血染めながら、大弓を作り出すと、マクバーはそれに気づく。

彼はクロウに興味を無くしたかのように投げ捨てると、私の方を見つめた。


「やっとまともに戦う気になったか」


「……あなたは絶対に……!絶対に許しません……!」


私は光り輝く大弓を構え、矢を放つ。

矢はまっすぐ大魔王へと飛んでいくが、あっさりと避けられる。

飛んでいった先の山脈は爆発し、塵と化すほどの威力だった。

だが、マクバーは終始余裕そうな表情を浮かべている。


「ほう、確かに我を倒すだけの力はあるようだ。

……精々当たればの話だが」


マクバーは私の顎を手で寄せ、言い放つ。


「その力、気に入った。どうだ、我の嫁にならぬか?

そうすればこの世界に住む生命だけは助けてやろう」


こいつの嫁になれば、この世界は助かる?

クロウや皆の命も?

私はその甘言に一瞬惑わされそうになるが。


「……その必要は……無い!」


クロウは残った左手で大槍を持ち、マクバーの体躯を貫いていた。


「ドロシーは……絶対に渡さない!!!」


「クロウ……!」


マクバーは槍で貫かれているのにも関わらず、平気な顔で笑いながら答える。


「……無駄な足掻きを」


マクバーはにやりと笑い、黒い蜂の大軍へと姿を変える。それは次第に大きな竜巻となり、辺りを飲み込みながら全てを蹂躙し、破壊していく。


「……ドロシー」


「クロウ!」


クロウは力無くその場で倒れる。

私が身体を揺り動かし起こそうとするが、彼の身体はどんどんと冷たくなっていく。触った手にはべとりと鮮血が付着していた。


「ドロシー……ワーウルフの時といい、また迷惑をかけてしまったな……不甲斐ない勇者で済まない」


「…………そんな事……」


クロウは力無く私の手を握って答える。


「……どうやら俺はこの世界を救う勇者じゃなかったらしい。本来は俺が君を守るべきはずなのに……」


「……もう喋らないで、これ以上傷が開いたら……」


もうポーションがあっても治らないかも……。

そんな最悪の事態が頭をよぎってもなお、彼は話し続ける。


「これは勇者としてでなく、この世界の一人の住人としてのお願いだ……君の愛した、この世界を………あの魔王から……救ってやってくれ」


クロウはその言葉を呟いた直後、気を失ってしまった。


……私が……私がこの世界を守るだって?

そんな事……出来るの?

倒れるクロウや人々を見て、

…………私は覚悟を決めた。


再び私は大弓を手にして、黒い竜巻に狙いを定めた。


私は聖女ドロシー。

沸魔ふつまを祓い、世界を創造する者だ。

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