偽物と本物
「危ない!」
正にクロウの槍の切っ先が私に触れようとした瞬間、その凶刃をレオンが自身の剣で弾いた。
「……まさかこんな形であんたと刃を交えることになるとは思わへんかったわ」
レオンとクロウはじりじりと鍔迫り合いをして、私から少しずつ遠ざかっていく。
その状況に一番驚いていたのはルーミィだった。
『どうしてこんなことを!?貴方がたが戦う理由なんてありませんよ!?』
「創作意欲が湧いた、もう偽物は必要ない」
世界の主は淡々と答えると、ルーミィは訳が分からない様子で辺りを飛び回る。
『僕たちはただ優しい世界を作りたかっただけなのに……』
ルーミィは子供という生き物に対し、少し理想を抱きすぎている。
人間の子供というのは無邪気さと残酷さ、両方の性質を併せ持つものなのだ。
「私のクロウは最強なの、だから皆滅ぼす」
世界の主はスキルビルドで作り出した魔法の立方体をクロウに投げつけた。
すると、クロウの腕が4本になった。
さらに怪物みが増したクロウはそれぞれの腕に槍を持ち、レオンに襲い掛かる。
「なんでもありかいな!?」
レオンは吹き飛ばされ、地面に転がる。
彼はそのまま複数の槍を投げつけて磔にされ、戦闘不能にされてしまった。
私はその残酷な光景に目を背け、逃げ出そうとする。
「逃げちゃ駄目」
大槍がこちらに飛んでくると、アイゼンが咄嗟に私を庇った。
凶刃はアイゼンの横腹に突き刺さり、そのままばたりと倒れる。
「アイゼン!」
「……聖女様」
アイゼンは笑顔を保ったまま、気を失ってしまった。
……残るは私だけ。
じりじりと私は魔王子クロウに追い詰められていく。
「クロウ!目を覚まして!」
私はスキルビルドを発動し、立方体をクロウにぶつけた。
すると、クロウはくるりと方向を変え、世界の主の方へと走り出した。
「何!?」
どうやら想定外の出来事だったらしい。
世界の主は慌てながら、立方体をぶつける。
……クロウは再び私の方を向く。
「や!」
「私も嫌!」
お互いクロウを押し付け合い、クロウは右往左往しながらその場を往復する。
――二人が同等の力を持つ限り、戦いというものは均等する。
私の経験則上、両者の実力が同じ場合、勝負を分ける要素は……
……知識だ。
私はこの状況を何とかするため、目の前の調子に乗った子供を分からせて屈服させることにした。
「あなたはクロウの何を知っているの?」
私の問い掛けに世界の主は答える。
「クロウは最強、私の作り出した最高のキャラクターだから。
最強でかっこいい王子様」
「ふ~ん、……それだけ?」
「それだけって……何?」
世界の主の表情が曇る。
私は続けて答える。
「私は今までの冒険でクロウはどんな”人物”かよく分かったよ。
強いだけじゃない。優しくて、いつも私の事を気にかけてくれていた」
世界の主の表情が歪む。
「貴方は知らないでしょう、クロウの背中が思ったより大きい事を。
私は貴方が知らないことを沢山経験してきた。
……結局あんたはクロウの事をゲームのキャラとしか見てないんだ」
「……違う、違うちがうちがう!」
世界の主は今にも泣きだしそうな表情で愚図りだす。
少し可哀想な気もしてきたが、私は怯まず続ける。
「あんたはクロウを”偽物”に取られるのが怖くなった。
だからこんな馬鹿な事をした。……違った?」
「うるさい!黙れ!」
世界の主は地団駄を踏み、答える。
「私がこの世界の創造主なの!クロウも私の事が好きに決まってる!」
「……じゃあ、証明してごらんなさいよ」
私の挑発に乗った世界の主は、クロウの洗脳を解く。
するとあっさりとクロウは怪物から元の姿へと戻った。
クロウ本人は訳も分からない状況に困惑しているようだったが……。
「ドロシー、大丈夫か!」
クロウは私の方へ向かい、身体を抱きとめた。
その光景を見て、世界の主は絶望し、泣き叫ぶ。
「取られああああああああ!!!あああああああああああ!!!!」
その叫びに呼応するように、空間にひびが入った。
周りの空間を保持しているルーミィたちが次々と逃げていっているようだ。
『いけません!このままでは!』
私はルーミィをゆっくりと制止し、泣きじゃくる世界の主の前に立つ。
「……ごめん、昔の私。
過去にすがっているだけじゃ、前に進むことは出来ないんだ。
……後の事は”私”に任せてほしい」
「やだやだやだ!」
駄々を捏ねる世界の主。
私はスキルビルドで気球を作ると彼女に括り付けて、宙へと浮かす。
「やだーーーー!!!!!!」
もうルーミィは彼女に力を貸さなかった。
「現実へ帰れ、加賀鹿子」
私がそう呟くと。
……世界の主は、月の向こう側へとゆっくりと飛ばされていった。




