月は見ていた
※
月が高く昇る夜。
今日も私は一人だった。
私は椅子から立ち上がり、窓の外を見る。
高層ビルの窓は未だに何個も光り輝いている。
それはまるで”星”のようだった。
人が人として生きるために必死になって輝かせる光。
私もそんな星の一員だった。
――気が付けば、星は空高くにいた。
もっと近くで月を見るために。
そして星は流れ星となった。
月だけが優しく、落ちていく流れ星を見ていた。
※
『思い出しましたか、加賀鹿子さん』
「……そう、現実世界の私は死んで、聖女ドロシーに転生してこの世界にやってきたのね」
『厳密には違います』
違うんかい!
何か意味深な回想挟んだのに。
ルーミィはこちらの様子を見ている世界の主の背中を押し、私の方まで連れてくる。
『この子が加賀鹿子本人です。
貴方は彼女の記憶の一部を埋め込まれて作り出された”ドロシー”です」
え……?どういうこと?
『このシャイニングファンタジアの世界は思い入れのあるゲームなのでしょう?
……いくら小学生の頃の記憶だからって、あまりにも覚えてなさすぎだと違和感を感じませんでしたか?」
う………確かに思い当たる節がいくつもある。
ていうか何気に残酷な事言ってない?
私って彼女の劣化コピーってことなの?
『ドロシーというキャラクターは他の人物たちより、圧倒的に”地味”だったのです。
なので、彼女の器には最適だったわけですね』
私が彼女のコピーなのかどうかは、この際置いておこう。
……当時の私ってば、自分の欲に忠実に男たちばかりに台詞を与えて、ヒロインはただの記号として置いていただけだったんだね。
「君は俺の幼馴染のドロシーであることに変わりないということか。
……それを聞いて安心したよ、変に疑って悪かった」
「クロウ……」
二人が見つめ合い、良い雰囲気になろうとしたところで世界の主が間に入ってそれを引き剥がす。
「や」
世界の主は一言拒絶の言葉を放つと、クロウを独り占めしようと抱き着いた。
私はつい頭に血が上り、殺気立って唸り声をあげると、彼女はクロウの背中に隠れてしまった。
うるうると瞳に涙を浮かべる世界の主とそれをあやすクロウ。
私はふぅとため息を付いて落ち着きを取り戻し、再びルーミィに問う。
「この子が私の……”本体”だとすると……なんで縮んじゃってるの?
加賀鹿子って社会人のはずよね?……それにどうしてこんな回りくどい事をしているわけ?」
『はい……加賀鹿子さんをこの世界にお呼びしたのはこの不完全な世界を正しく完成させるためです。
その為にお呼びしたのですが……』
「ですが……?」
『最初こそ、やる気を持って続きを作ってくれていたのですが……色々考えているうちにドツボにはまってしまったみたいで……いつのまにか幼児退行していたのです』
んなアホな。幼児退行したら見た目も変わるんかい。
……もはや何でもありのファンタジーの世界でそんなツッコミしても野暮か。
『仕方なく僕たちはドロシーに彼女の記憶の一部を写し、建築魔法という力を与えて、世界を再構築するという使命を全うしてもらうことにしたのです。
……結果としてあまり上手くいかなかったので、ここにお呼びした次第ですが』
「……なんで今までそんな重要な事を言わなかったの?」
最初から言ってくれたらちゃんとやったよ私は。
昔からやればできる子って言われているんだから。
『突然この事を言っても貴方は信用しましたか?
冒険を経て、この世界に慣れてきてから話した方が都合が良いと思ったので。
……また彼女のように突然大きな使命を任せた結果、幼児退行されても困りますし』
この妖精、肝心な時に限って何も言わないなと思っていたら、そう言う事情だったのね。
そんな思惑があったと考えると、今までの彼の行動も腑に落ちた。
「妖精くんの言っている事はよく分かりました。ですが世界の再構築とは具体的にはどのようなことを指すのでしょうか?」
アイゼンが首をかしげながら質問すると、ルーミィはくるくると周って答える。
『はい、それはとても簡単です。スキルビルドの力を使って人々の悩みを解決するのです。
この世界における人々の悩みとは、世界が不完全なことにより起こっている事なのです』
「はぁ……説明を聞いても何だか漠然としているような」
ルーミィは空にカーン王やグリンダを映し出す。
二人は隈の出来た顔で、目をぎらつかせながら書物を読み漁っている。
『人と言う生き物は何かと折り合いを付けないと生きていけない者。
時として身も蓋も無い情報を信じたり、強い力を持つ者を自分の物にして安寧を得ようとするのです』
……2人は何も分からないからこそ、おかしくなってしまったということか。
自分たちの生きている世界が実は虚無だったなんて信じたくないものね。
「……いくら調べても外の世界の情報が何も分からないというのは相当なストレスだったのかもしれないな」
クロウは自分の父の不甲斐なさに呆れて、顔を伏せた。
ルーミィは気を遣ってか、クロウの周りを公転しながら話しかける。
『魔王という存在はあれど、魔王に辿りつくまでの導線はこの世界には存在しない。
その矛盾をこじつけるため、2人は同じような結論を導き出したのです』
今度はルーミィを押しのけて、世界の主が答えた。
「魔法を扱い、民を支配する我らこそ魔王と呼ばれるべき存在。
そして魔王を滅ぼそうとする聖女こそ、この世界の敵だと」
彼女、流暢に喋れますやん。
世界の主は無表情のまま、唐突に何か思いつき、ポンと手を叩いて言い放つ。
「つまり、クロウは”魔王の子供”……ってコ?ト!……えいっ!」
「!?」
世界の主はスキルビルドと同じ色の光を両手から放ってクロウに浴びせかけると、クロウは怪物へと姿を変えてしまった。
「私の代わりが務まるかどうか、貴方に試練を課してあげる」
…………え?
突然の出来事で思考が停止する中、
「魔王子クロウ!ドロシーを射殺せ!」
世界の主の合図とともに、魔王子と化したクロウが私に向かって大槍を振りかぶり、襲い掛かって来た。




