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ポータルの先

「……」


私は無言でスキルビルドを発動し、その穴に立方体をはめ込む。

すると石壁が変形し、別の空間へ移動するポータルが現れた。

ほの暗い地下空間に星の瞬きのような光が輝き、ポータルの中を覗いても一寸先も分からない。


……何だか、この先に進んだらもう”後には戻れない”ような。

そんな気がしてならなかった。


「行くぞ!」


私が入るのを悩んでいると、クロウたちは先行してポータルの中へと侵入した。

やはりこのパーティのリーダーは勇者であるクロウなのだろう。

私は一番最後尾となり、少し遅れてポータルへと侵入した。


「……」


足を踏み入れた瞬間、視界がぐにゃりと曲がる。

少し気持ち悪くなるような感覚と共に、私の意識はふと途絶えた。



「……ここは?」


気が付くと、私は城らしき空間で倒れていた。

悪魔の像が置かれ、青白い松明が怪しく燃えている。

鮮血のように真っ赤な絨毯の上で私は起き上がる。


ここは……魔王城。

私が感じたのはそんなイメージだった。

色んな漫画やゲームから取り入れられた正に普遍的な魔王城ともいえる光景が、目の前には広がっている。

まさかカーン城の地下が魔王城に繋がっていたなんて。

いや……でも小学生が決めたと思えば、らしい設定か。


……3人が見当たらない。

私は恐る恐る赤色の絨毯の先にある扉の向こうへ歩いていく。


「……何これ」


扉の真ん中に看板が刺さっていた。

看板には「工事中」と書かれている。


私は不思議に思いながらも、扉に手を掛けて、その先に進む。

扉の先は何もない白い空間が広がり、周りには人々が棒立ちで立っていた。

人影を見て一瞬ビクっとなったが良く見ると人形だという事が分かり、私は忍び足でさらに廊下を進んでいく。


「……これ、私達?」


人形はドロシーやクロウ、今まで出会った人物たちを模していた。

いや、模していたというよりはもはや”そのもの”といっていいほど精巧なものだった。

彼等は生気なく棒立ちで部屋の廊下に立たされている。


「……これは俺たちの人形か?

何でこんなものを?」


「何だか不気味な雰囲気ですね」


少し先にはクロウたちが人形を観察しながら、立ち止まっていた。

私はひどく安心し、彼らに声をかける。


「クロウ!大丈夫だった!?」


「ドロシー……ここは一体どこなんだ?」


「分からない……私も何が何だか」


「ふむ……非常によく出来た人形です。

これだけの技術、一体どんな高度な魔法を使ったのやら」


アイゼンは自分の人形を眺めながら、周囲を調べている。


「あっちに道が続いとるみたいやな」


レオンが廊下の先を指差した先に、私達は歩き出す。

よく見ると廊下にも複数の人形が転がっていた。

思わず死体に見えて私は軽い悲鳴を上げる。


「うわっ……!」


「変なもん作ってビビらせおってからに。

誰や、こんな悪趣味な部屋作りおった元凶は」


私達は自分たちの人形を踏まないように、ゆっくりと前に進んでいく。


長い廊下をひたすら真っすぐ進むと、白い空間はいつの間にか星空のようになっていた。

平衡感覚が狂いそうになりながら、私達はさらにその先へと向かっていく。

果てしなく続くその先に……。


………誰かいた。


「………え?」


私は目の前に現れた存在に目を丸くして驚く。


彼女は……小学生時代の私だ。


ぼさぼさの髪を雑にまとめ、生活習慣の乱れからの肌荒れと目のくまが取れなくなった、現実に疲れたごく一般的なOL……の小学生時代。

まだまだ夢や希望に溢れた時代の私のはずなのだが、目だけは歳不相応に濁っている。


その聖女ドロシーに転生する前の私の子供時代の姿がパソコンを前にして座っていた。

彼女は上下ジャージ姿のラフな格好に対し、コスプレのような大きなリボンの付いた魔女の帽子を被って、こちらに目もくれず、パソコンにタイピングしている。


私は訳も分からず私は口をパクパクと動かす。

私がドロシーに転生したんじゃないの?

じゃあ目の前にいる彼女は一体……?


私が考え込んでいると、クロウが彼女に話しかけた。


「君が……この世界の主……なのかい?

ここは一体何なんだ?」


世界の主はちらっとこちらを見たと思うと、とてとてと歩いて逃げていってしまった。


「……」


人形の後ろでこちらをじっと見つめている。

見間違えるわけない。紛れもなく幼少期の私だ。

本当に一体全体どういうことなのだろうか。


『……ここにお呼びしたのは彼女に会わせたかったからなのです』


私の耳元のピアスが変身し、妖精ルーミィが飛び出してくる。そのルーミィの発言に対し、世界の主は不機嫌そうにこちらに目を配っていた。


『ごめんね、僕の目的の為にどうしても君に会わせる必要があるんだ』


はじめて妖精を見た3人は突然現れた存在に驚く。


「こいつがドロシーの言っていた妖精なのか……?」


「こんな生物図鑑でも見たことないですね」


「へ~、珍妙な生物やな」


パーティが三者三様の反応をしていると、ルーミィは飛び回りながら説明する。


『……まず、僕がどういった経緯でこの世界にやってきた生物なのかを説明するね』


ルーミィが空へと光りながら回転していくと……。


崩壊した都市の絵が浮かび上がった。


これってもしかして……現実世界?

近代的な都市が崩壊した姿を私はぼーっと眺めていた。

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