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疑念

「親父、何を言っているんだ!ドロシーを捕らえるなんて!」


五月蠅うるさい!お前もどうして任務途中で戻って来た!

部隊を放っておいて私事を優先するとは、それでもこの国の王子か!」


クロウとカーン王が言い争いになる中、兵士たちに私は連行される。


(後で必ず助ける、心配するな)


そんなセリフを思っているかのように、クロウは私に目線を向け、私を見送った。




「……申し訳ありません、聖女様。

しかし王の命令ですので」


地下の牢獄に辿りつき、兵士は申し訳なさそうに私を牢屋に通す。

比較的綺麗に掃除されたその部屋の隅で私が椅子に座り込むと、兵士は鍵を掛けて去って行ってしまった。


「……これからどうしよう」


キアタのグリンダと言い、カーン王と言い、何かがおかしい。

二人ともまるで誰かに操られているかのように正気を失っていると私は感じていた。

何者かが心の中から介入するとか……それこそ”魔王”とか……?


「助けに来たよ」


数十分後くらい経った後だろうか、真っ先に現れたのはクロウではなくアイゼンだった。

私は魔王なる存在の考察を一旦取りやめ、彼の言葉に耳を傾ける。


「クロウは今、カーン王と揉めている最中ですね。

彼が王の気を引いている間に、ここから脱出しましょう」


アイゼンは懐から鍵を取り出し、簡単に牢の鉄格子を開けた。

私が外に顔を覗かせると、すぐ横では見張りの兵士が眠らされていた。


「睡眠魔法です、しばらくは起きないと思うのでご安心を」


「……ここから脱出してどうするの?」


当然の疑問を彼にぶつける。

このままカーン王と険悪になったままでは、とてもじゃないがこの国にはいられない。

他の国へ行くとしても、またキアタの時のように危険が待っているかもしれないし、一体どうしたらいいのだろう。


『今、この城に勇者パーティが揃っていますね、せっかくの機会ですし、4人揃った状態でこの世界の真実をお教えしましょう』


答えたのは妖精ルーミィだった。

人の心を読めるだろう彼はさらに続ける。


『この牢獄の一番奥の部屋に、聖女の力でしか入れない隠し扉があります。

その中に4人で入って下さい』


ルーミィ、どうしてこの前は大事な事を教えてくれなかったの?


『その時はまだ時期では無いと思ったからです。勇者パーティが4人揃った時が私の知っている全てを教えるべき瞬間だと思ったので』


ルーミィは普段より真面目な雰囲気で語り掛ける。

……その言葉に嘘偽りはないよね。

私は妖精に聞いたことをアイゼンに教える。


「あの、アイゼンさん。えっと、妖精が……地下の奥の部屋に隠し部屋があるって……。

その中にクロウとレオンと入れば、……打開策が開けるそうです」


「なるほど、分かりました。では、二人を呼んできましょう。

聖女様はその部屋の前で待っていてください」


アイゼンはいやにあっさりと承諾すると、地下から出る階段へ走っていった。


……私の中に今、恐ろしい仮説が浮かんだ。


……まさかアイゼンとルーミィの二人は同一人物だったりしないよね?

今までルーミィを使って、アイゼンは私を誘導していたとしたら。

何故そうしたかは分からないが、そう考えれば辻褄があうのだ。

現に大事な場面ではアイゼンは私達から姿をくらましていた。

それこそ魔法か何かを使ってこの妖精を作り出し、私を良いように扱ってたんじゃ……。


心の中に疑念が渦巻く。

だとしたら一体何のために?

彼は本当は魔王の手先で聖女である私を始末するため?

……いや、だとしたら迷いの森の時点で手を掛けるはずだ。

……駄目だ、現状じゃ何も分からない。

人を疑うどす黒い感情に私は支配されそうになっていた。


「ドロシー!」


クロウの快活な声で、私は正気を取り戻した。

その横にはレオンもついてきている。


「無事か!アイゼンから聞いたぞ、また妖精の声を聞いたって……!」


「……うん、こっち」


もう恥ずかしがっている余裕はない。

アイゼンも何食わぬ顔でこちらを見つめている。

私はアイゼンへの疑念を振り払い、ルーミィの言っていた部屋まで行くことにした。


「待てー!クロウ……様!」


兵士たちが後から追ってきていた。

その数は数十人にもなり、狭い牢獄の廊下を埋め尽くしていく。


「王の御命令です、部屋までお戻りください!」


「……すまない、もうあの親父の言う事は聞けない」


クロウは首を横に振り、背中に装備していた槍を構える。

その光景を見た兵士も思わず手持ちの武器に手を掛けた。


――瞬間。


兵士たちの列が後ろから倒されていく。


「後は俺たちに任せてくれ!」


「わたくしたちの事は良いので行って下さい!」


スミスとメイが兵士たちを取り押さえていた。


「二人とも!」


「……すまない!」


私の驚きの声を後ろ手にクロウたちは彼らの意思を汲んで、部屋の奥へと入っていく。


部屋の中は一見何の変哲もない牢屋のひとつだったが。

……壁の中央には立方体がちょうどはまる程度の穴が開いていた。

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