表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/47

災厄の魔女

「……クロウさま、すみません。聖女様を勝手にお連れ出ししてしまって。

責任の所在はこのスミスにあります、どんな処罰でも受けさせていただきます」


「そんなことしなくていい、それより無事にドロシーを送り届けた事に感謝する。

本当にありがとう」


「メイさん……素敵な名前や。今度ワイとデートせえへんか?」


「……どうしてキアタの皇太子がこんなところにいるのですか?」


「前にドロシーが作った爆弾を調整して自分で作ってみたんです。すごいでしょ?」


「……ははは、すごいね」


若干過積載気味の馬車の中を一行はわちゃわちゃ会話しながら、馬車はマナ・カーンへと向かっていった。



マナ・カーンに辿りついていたのはすっかり夜になってからだった。

急いでいたせいか、行きよりも圧倒的に戻ってくるのが早かった。


「みんなもう寝静まっとる時間やろか?」


「……いや、ウチは夜市もあるし城の警備も遅くまでしているはずだ。

何があったか親父に包み隠さず報告しよう」


「グリンダのこともかいな?」


「何故あんなに突然ご乱心したか俺には想像もつかないが……報告するべき事態だろう」


「……あんたならそういうと思ったわ」


一行は馬車から降りて、松明に照らされた街道を静かに歩いていった。



王室では一人、カーンが書物を読み耽っていた。

こんな夜遅くまで起きて作業をしているだなんて、彼はなんて勉強熱心なのだろう。

カーンは私達に気づくと、ぽかんと口を開けてあっけに取られていた。


「クロウ……キアタでの護衛はどうした?……それに従者たちに………聖女様も」


「親父……いや、カーン王。キアタでの出来事を語らせてください」


クロウがそう言うと、カーンは書物を置き、彼の言葉に耳を傾けはじめた。



………。



「なるほど……よもやグリンダがそんな乱心を起こすとは、到底信じられん」


「ですが、今語った事は紛れもない事実です、証人として彼らもいます」


一行は首を縦に振り、クロウの正当性を主張する。

しかしカーンは終始訝し気に一行の事を気にしていた。


……特に私の事をやたら気にしている気がする。

私は以前メイに話をしてもらった、カーンはあらゆる女性に手をかけているという話を思い出し、少しぞっとした。彼の血走った眼は本当に寝不足なだけのことなのだろうか。


「クロウよ、……聖女様と二人で話がしたい。

席を離れてくれるか?」


一行はそれを聞くと、すごすごと廊下へと歩いていった。

……クロウ以外は。


「どうした、せがれよ?

言う事が聞こえんかったか?」


「……聖女に関連する出来事なら勇者である俺にも聞く権利があります、違いますか?」


「ほう……我が息子ながら言うようになったな。

男子たるもの三日あれば刮目せよとも言うが……。

まあいい、本題を言おうではないか」


カーンは小さく「出てきなさい」と言うと、少女が部屋の奥からゆっくりと出てきた。

この子は私が身代わりとして置いてきた聖女人形だ。

私そっくりの動く人形は綺麗に着飾られ、大切に扱われているようだった。


そしてカーンは、


「本物の聖女様はこの子だ!この偽物め!!!」


ありもしない事実を叫ぶと、兵士を呼んで私達を囲んだ。

私達は突然槍を向けられ、抵抗できないまま拘束される。


「親父……何を……!?」


「こやつは聖女なんかじゃない……!災厄を呼び起こす魔女だ……!」


「魔女……!?私が……!?」


「ああ、歴史の資料を調べていくごとにその事実は覆らぬものとなった」


カーン王はおぼつかない様子で読んでいた資料を開く。

以前に見せてもらった聖女の伝説の絵だ。



『この地に厄災の魔王現れし時、聖女は現れる。聖女は己が持つ再生の魔力を遣い、勇者と共に邪悪を払い、世の中を平穏へと導くだろう』



「聖女がドロシーではないとは一体どういうことなんです?」


「この文言はあくまでも絵の印象だけが後の世に伝わった結果であったのだ。……本来は因果関係が逆であると分かった」


カーン王はさらに資料を持ってくる。一際古い書物を投げるように私達に見せびらかせた。


「真実はこうだ。天から舞い降りる者こそがこの世界の破壊者。

大地から漏れる瘴気のような手は、我々世界に住む人々が魔法によってその破壊者から守る図だったのだ」


「……どうしてそのような事実が?」


「占星術師と考古学者による研究の結果でな、儂自身も調べれば調べるほどそうなんじゃないかとしか思えぬのだ。……ドロシーこそ外の世界からこの世界を破壊しに来た悪魔なのだ!」


魔女だったり悪魔だったり人の名称が安定しないなこの王は。

確かに私は外の世界から来たと言っても良い存在だが、滅ぼすなんてまるで考えた事も無かった。

カーンが変に考えて調べすぎた結果、陰謀論者になって正気では無くなっているだけの話だよね。

私は変に刺激しないようなるべく丁寧に質問を返すことにした。


「……お気を確かに。私が本物の聖女ですし、この子は私の身代わりに作った偽物の人形です」


「何を言っている……現にこの子はこの街に発生した津波から人を救ってくれたぞ!

お前こそ津波を起こした元凶ではないのか!」


……あ、あの時の空洞マップを水ブロックで埋めた時の話か。

やっぱり街で大騒ぎになってたんだ。


「……良かれと思って」


「良かれだと……!?

本物の聖女様が障壁バリアを張ってくれたからよかったものの、おかげで街はどれだけ迷惑したか!」


う~ん、この件に関しては正直言い逃れできないかも。

クロウの真剣な眼差しが手痛い。


「親父、聖女は間違いなくこのドロシーなんだ、何を血迷っているのですか」


五月蠅うるさい!物言わず従順なこの子こそ……聖女に相応しい存在なのだ……」


カーンは聖女人形の頭を匂いを嗅げるくらいの位置でねっとりと撫でた。

私は思わず「うわっやめて」と言い、人形の魔法を解く。

聖女人形は風船のようにパァンと目の前で弾けた。


「………」


数秒の沈黙の後。


「聖女殺しの犯人として、この無法者をひっとらえよ!」


私達は捕らえられてしまった。

……何なんマジで、城の人って捕らえたがりなの?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ