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犯人は誰だ

キアタ城の長い階段を登り、私達は王室へとやってきた。

氷のようなきれいに磨かれた大理石の床と、羽の生えた人がかたどられた大きなステンドグラスが一行を迎え入れる。

部屋の中心には必要以上に縦に長い椅子に鎮座するグリンダがいた。


「グリンダ様、ご無事でしたか!」


クロウが心配する素振りをして部屋に入ると、グリンダは静かに答える。


「私は大丈夫ですが。……しかし」


近くで護衛する兵士たちもざわつく中、グリンダは一定の方向を指さす。

よく見ると一定に並べられた石像の一部が割れてしまっていた。

何か硬い物で殴られたかのように羽の生えた人の上半身が粉々に砕けてしまっている。


「この石像はマナ・カーンと国交を始めて結んだときに共同で作った天使像です。……国宝であるものの一部を壊されてしまい、とても残念に思います」


「被害はそれだけですか?……子供のイタズラでは?」


「キアタ国民ならこの石像の価値を子供とはいえ分かっていると思います。……それに一体なぜわざわざ王宮に忍び込んでまでこんなことをしたのか……」


「なるほど……金目当てなら他に金品が盗まれた被害報告があるはずですし、その石像だけ壊されるってのも変な話ですね」


「マナ・カーンとキアタの国交を邪魔するため?……とか?

それを理由に戦争になるよう仕向ける黒幕がいるとか」


う~む、キアタ城のイベントの下りはあまり覚えていない。

私は聞いたことある物語の知識を総動員して、可能性を答えてみる。


「黒幕?……一体誰やっちゅうねん、キアタは周辺国のどことも敵対しとらん中立国やで?」


「……俺の親父はそれくらいで短気を起こすような君主じゃない」


真っ向から否定された。

良い線言っていると思ったんだけどな。


「とにかく壊されたものは早急に修復させましょう、何かマナ・カーン側でお手伝いできることがあれば何でも言って下さい」


クロウの申し出にグリンダは一礼して、賛美する。


「ありがとうございます、しかしこの石像は少々特殊な素材が必要でして……」


よくあるお使いイベントですが。

私の建築魔法スキルビルドは生憎それらをすべて無視できる。


私はおもむろに壊れた石像に近づくと、スキルビルドを発動し、すぐに元通りに修復した。


「ガラ鉱山の鉱石と……フール池の粘土と……それから」


「あの……修復終わりました」


グリンダが材料をぽつぽつと言っているうちに石像は元いた通りに直っていた。

壊されていただなんて事実を打ち消したような、完璧な仕上がりだ。


「その力……もしや聖女の力?」


グリンダの顔が心なしか厳しくなったように見える。

私はしーんと静まり返った状況につい「私、何かやっちゃいました?」と軽口を口走った。

当然空気は元に戻らない。


「……あらあらあらあら」


ん?どうした?やたらあらあらが多いな?

何だかグリンダの息も荒いし。

そう思った瞬間、グリンダは私の目の前までダッシュしてきた。


「貴方様はマナ・カーンの聖女様でしたのね!

ああ、なんて愛おしい!なんて素晴らしい才能の持ち主なのでしょう!!!!」


あ、素はそういうキャラなんだ。

そう思った矢先、脊髄が折れるんじゃないかというくらいの力で、私は強く抱きしめられた。

い、息苦しい。殺される、偏愛と言う名の圧で殺される。

私がされるがままにされていると、クロウが私を引っ張り出して助け出してくれた。


「グリンダ様、お気を確かに」


「あらあら、私としたことが……失礼いたしました」


グリンダは頬を赤らめながら、席へと座り直す。

私はこういうタイプの女に好かれる才能でもあるのだろうか。


「私もこの国の聖女なのです。

私と同じ運命を背負った存在が目の前にいざ現れるとなると、つい興奮してしまいました」


ついで済むのか、あの醜態は。

兵士たちもドン引きしているじゃないか。

グリンダの興奮は冷めきれず、どんどん自分の話を切り出していく。


「我が国の情勢を知っていますか?聖皇様が亡くなり、現在この国には後継者がいないのです。

建前上私が役割を引き継いでいますが、しょせん私は聖女からきさきとなった人の身。王として後の世を継がせるための子供も授からなかった、石女うまずめなのです」


「は……はぁ」


「このままではキアタ聖皇国は破滅してしまいます。なので養子を取るなり解決策を試行せねばなりません。……どうですか聖女様?私達の国に来れば最上級の暮らしをさせて差し上げますよ?」


そういえば旅に出る前に、農家の人がそんなこと言っていた気がするな。

ん?跡継ぎなら皇太子のレオンがいるじゃないか。なんでわざわざ養子をとる必要が?

私はレオンの方に振り向くと、彼は察して答える。


「……ワイは確かに聖皇の子供やけどな、この2番目の女を母だと思ったことは一度もないし、王家を継ぐ気だってさらさら無いで。皇太子の名義だってその女が周りに勝手に吹聴しとるだけのことや」


「この子は反抗期なのですよ、ライバルとなる氏族が出来れば考えも変わるはずです」


なるほど、複雑な事情がありそうですね。

そんなことを他人事に思っていると、


「私達の国が気に入るまで、たっぷりとご奉仕して差し上げます。

特別なVIPルームを用意してますから、どうぞ気の済むまでごゆっくりください、聖女様」


兵士たちに私達は連れていかれてしまった。

実質これはYESというまで軟禁されたようなものだ。

……何だか面倒なことになってきたなあ。

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