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親子

「……」


キメラはメイの方をじっと見ながら唸り声をあげている。

今にもこちらに向かって襲い掛からんとするようだった。


(……なんだか様子がおかしいですね?)


ただ怪物として相手を襲いたいだけなら、すぐにでもメイの喉笛を嚙み千切ればよいだけのことだ。

しかしキメラはその場から離れず、後方にある何かを守るように佇んでいる。

……橋の下の崖際には何度もキメラが通っているであろう洞窟が見えた。


(……なるほど)


メイはキメラの様子を見て何かを察し、戦闘態勢を解いた。


「メイ!早くこっちに登ってくるんだ!」


スミスはゴム製になった命綱を崖に下ろし、叫ぶ。

私も包帯でぐるぐる巻きになった手を振り、彼女に合図した。

しかしメイは首を振り、キメラに視線を集中させる。


「キメラをおとなしくさせます」


メイは徐に自分のスカートを破る。


「……何をしてんだ!?」


突然の事にスミスは困惑し、目を背けた。

彼女のすらっとしたしなやかな下肢が露わとなるが、彼女は気にする様子もなく、一枚の布となったスカートを両手に持った。

決して安い代物ではないメイの大切な服装をそんなあっさりと破るなんて……何か策があるのだろうか。


「あれって……もしかして」


メイはスカートの布をキメラの前でひらひらと煽るようにたなびかせる。


あれはまさに………闘牛士の装い!

確かにあのスタイルなら怪物をいなすことが出来るかもしれない!

なんという冷静で的確な判断力なんだ!


キメラは上下する布に視線を合わせ、首をゆっくりと振っている。

しばらくして興奮してきた怪物はメイに向かって突進してきた。


「危ない!」


私が叫んだ後、メイは間一髪で怪物の突進を避ける。

くるりと彼女は踊るように踵を返し、走り去っていく怪物を見つめる。


「キメメメラァー!」


キメラは怒ってさらに助走をつけてメイに向かってくる。

メイは軽く息を吸って後ろに下がり、怪物の頭部に布を被せて回避した。


「キメッ!?」


突然視界を隠されたキメラはパニックになり、暴れながら突進を続け、


「キメグェ!」


しまいに岩壁に身体をぶつけて、落ちてきた瓦礫の下敷きになった。


「……御免」


メイは気絶したキメラに一礼する。

そして起きてくる様子が無い事を確認すると、私達に向かって手を振る。


「……何?」


メイの指差した先には洞窟が見えた。

スミスは命綱を木に巻き付け、下まで様子を見に行こうとする。

私も当然ついていこうとするが。


「……お嬢はここで待機だ」


「えぇーー!?」


「……その怪我した手でどうやって昇り降りする気なんだ?

また他のモンスターに襲われないよう、茂みにでも隠れていてくれ」


私の不満な声を一蹴し、スミスは慣れた手つきでスルスルと崖下まで降りていった。



……。



「……俺のズボン使うか?」


「必要ありません」


「目のやり場に困る」


「……ならこっちを見なければいいんじゃないでしょうか?」


「……へいへい分かりやしたよ」


雑談しつつ、二人は洞窟へと入っていった。

少し湿気がかった薄暗い洞窟は、何度もキメラが通ったであろう足跡が付いている。

横目には彼の餌になったであろう劣化した動物の骨がごろごろと転がっていた。

その数は一つや二つではなく骨の山が出来るほどの尋常じゃない量だ。


「こりゃひどいね」


スミスが苦言を呈しつつ、メイは何も言わずに突き進む。

洞窟の奥までは思ったより浅く、すぐに最深部へと辿りついた。


「……!」


「……もう息絶えているみたいですね」


そこには先ほど戦った怪物の数倍は大きいサイズのキメラが横たわっていた。

その死体はすでに腐りかかっており、獣臭と合わせたひどい臭いが辺りに立ち込めている。


「なるほど……あのキメラはこいつらを守ってたってわけか」


その死体の下にはキメラの子供が数体鳴き声を上げていた。

子犬くらいのサイズの子供は無邪気に親が帰ってくるのを待っている。


「……恐らくあの崖下の個体はこの死体のつがいでありますね。

このまま放っておけば、この子供たちも育って近くの村は大変なことになりますが……」


死体の背中には槍が突き刺さっていた。

スミスはすぐにそれが自分の国のものだと分かると、怪物の背中に登り、それを引き抜く。


「………うちの兵隊もヨーミル村に寄った時にあの村長の依頼を受けたんだろうな。

それで見事に親個体は討伐したと」


「そしてそれに激怒したつがいが暴れて、結果として大橋が落とされてしまった。

……彼らはただ生態系の中に生きていただけなのに人間の勝手に振り回されていただけなのですね」


「……分かっていると思うが、人間に危害を加えた以上、モンスターは討伐しなきゃならねえ。

可哀想だからと言ってほっとくわけには……」


「ええ」


メイは膝をついてキメラの赤子を見つめる。


「理解はしていますが……たとえ、怪物とはいえ…………」


声を震わせ顔を伏せているメイに対し、スミスは罰悪そうに視線を背けた。

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