村長
ーー次の朝。
「…………」
昨日の出来事があまりにも印象的で寝付けなかった。
これからメイとはどんな顔をして会えば良いのだろう。
私にはクロウっていう心に決めた人がいるのに……って婚約を破棄された身で私は一体何を考えて……。
「おはようございます」
「はいっ!?」
私が廊下でやきもきしていると、メイが後ろから唐突に話し掛けてきたので、私の声はつい裏返ってしまった。
これじゃ変に意識してるってバレバレじゃん……。
「スミスさんは既に外で待機しております、私たちも準備して向かいましょう」
メイはいつも通り丁寧な口調でそう言うと、自分の荷物を整理しに部屋に戻っていってしまった。
……私の考えすぎなのだろうか?
私は言われた通り早々と荷物をまとめ、外へと出る。
宿屋の出入り口では、スミスがトカゲ馬の世話をしながら待っていた。
「よく眠れましたか、お嬢」
「まあね」
スミスの挨拶に私は曖昧な返事で返す。
今になって思えば台詞に若干、欠伸が入っていたかもしれない。
しばらくすると、メイも荷物をまとめてこちらまでやってきた。
「それでは行きやすか」
スミスがそう言ってトカゲ馬に乗り込もうとした矢先、
「……諸君はキアタまで行くのかね?」
立派な白髪の髭を蓄えた、いかにも村長的な人が話し掛けてきた。
このパターンは……RPG的に何かイベントがある奴だ。
私の経験則的にそうに違いない。
スミスが疑り深く彼を睨みつける。
「そうですが……失礼ですがあなたは?」
「申し遅れた、ワシはこのヨーミル村の村長のヒゲルというものじゃ」
よく見るとこの村長、髭に対して髪の毛が全く無い。
どっちかって言うとヒゲルじゃなくてハゲルだ。
私が失礼な事を考えているのも知らず、ヒゲルは続けてスミスに問いかける。
「旅人に伝えたいことがあっての、この村の先にあるキアタ聖皇国に繋がる一本橋が現在修理中で、通れない状態なんじゃ」
「なんだって?……他に通り道は無いのか?」
「キアタに安全に行く道はそこだけじゃ、無理して氷山を登っても良いが……その装備ではやめたほうが良かろう」
ヒゲルはしげしげと私たちの服装を見ながら答えた。
私たちが遠景を確認すると、切り立った断崖絶壁の山々が連なっており、上空は霧がかった雲がかかっている。
……確かにあの山を軽装で登るのは現実的でないかもしれない。
「その一本橋はいつ治るんだ?」
「それが……最近橋の近くにモンスターが出てのう、わしらじゃ危なくて近づけないんじゃ」
ほーら、きたきた。
私たちがどうにかしなきゃ進めないやつだわ。
「モンスター……ですか。具体的にはどのような?」
メイの質問にヒゲルはくわっと表情をしかめて答える。
「それはとてもとても恐ろしい……熊のような体毛で、虎のような牙をした……」
「……熊?……虎?どっちなんだ?」
「ライオンのようなたてがみがあって、鶏のような足をしていて、尻尾は蛇の頭のようで……」
「……そんな滅茶苦茶な生物いるのか?」
「わしは確かにこの目で見た!……それはそれは恐ろしい……ああ、今思い出しても震えが止まらん!」
ヒゲルの髭が小刻みに震える。
……怖いイメージが先行しすぎて頭がおかしくなってるわけではないのかな。
「聖女様、どうしますか?」
「……聖女様?」
メイが私の耳元で言った囁きに対してヒゲルは地獄耳で反応する。
……やっぱりこの村長、最初から私たちを頼りにする気満々だよね。
……はあ、仕方ない。
進む道がない以上この依頼を引き受けるしか無いか。
「私は王都マナ・カーンから来た聖女ドロシーと言うものです。聖女の務めとして、その依頼引き受けましょう」
「なんと、旅人様は聖女様だったのですな。噂はかねがね聞いております。ぜひとも聖女様の奇跡を我々にお恵みくだされ」
「おいおい調子の良いやつだな、……初めから分かってたんじゃないか?」
「いえいえ、そんな事は……勿論タダでやってくれとは言いません。モンスターを討伐した暁にはこのヨーミル村に伝わる秘宝を差し上げましょう」
「そんなもの貰っても手持ち無沙汰で困りやすが」
「では村の者総出で出来る限りの金貨を差し上げましょう」
「お嬢、受けましょう」
手のひら返しが早いよスミス。
確かにお金は大事だけれども、手のひらドリルかってくらいの返しっぷりだよ。
「実はですね……少しばかり旅費が心許ないと思ってやして」
「だからって……」
「……お嬢は今いくら持ってやすか?」
私は勢いで旅立ってほぼ着の身着のままで来たから財布の持ち合わせなんて当然あるわけ無い。私は首を横に振り、素寒貧なことを態度で示す。
「メイは?」
「……わたくしもそこまで多くは」
「キアタは物価も高いって聞くぜ?寒空の中、野宿なんてしたかないだろ?」
スミスは私たちに向かって懇願する。
まあ断るつもりは初めから無かったし、いいけど。
私は軽く頷いて、彼に同意した。
「受けていただけるんですか!」
「……はい、任せて下さい」
私は村長の意気揚々とした声色に若干引きつつ、モンスター退治の依頼を受けることにしたのであった。




