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生態系

「……速度上げるぞ」


完全に町から離れた後、スミスはそう言って馬車に繋げられたトカゲ馬の引き紐を握った。

トカゲ馬は指示を聞いた途端、軽く喉を鳴らすと脚部の動作をさらに早める。

この生物は三つ指の曲がった爪先が砂地のわずかな接地面をとらえることで、速度を維持しながら走ることが出来るようだ。


あばばばばば。


がたがたと小刻みに揺れる荷車の中で、私は舌を噛まないようしゃがみながら待機する。

横でメイが寄り添ってくれてはいるものの、私はこういう絶叫マシン系の乗り物は昔から苦手だ。


あかん、尻が。

主に尻の肉がヤバイ。

このままじゃもげるかも。


「もうちょっと速度を落とせないですか?」


「モンスターのエサになりたいのなら、そうさせていただきやすがね」


流石のメイの苦言にスミスは前を向いたまま、否定する。

私は肉離れしそうな尻を心配しつつ酔わないようにするためにも、遠くの景色を覗くことにした。


……上空を見れば、大型の鳥モンスターがうようよいるのが見える。

……私達が死体になるのを待っているのかな。

他に視線を下ろして遠くを見れば、城門くらいのサイズはあるだろう巨大なモンスターの骨も見える。

その巨大骨の中では、ゴブリンのような生物が日陰で休んでいるのが確認できた。


「げぎゃぎゃぎゃ」


ゴブリンたちは焚火をしながら、手を叩いて踊っている。

……ちょっと楽しそうだな。

絶対近づきはしないが、楽しさは伝わる。


やはりこんな何もなさそうな砂漠でもきちんと生態系が維持されているようで、よく見れば見るほどモンスターの存在が認識されていく。

…そして私たち人間は恐らくその生態系の……最下層である。

ゴブリンが焚火の横で引きずりながら食べようとしている死体の正体が何かを察してしまう前に、私は残酷な現実に思わず目を背けた。


「大丈夫です、必ずわたくしがお守りいたします」


怖がった様子の私をメイは優しく抱き留めた。

ふわりと優しい感触と甘い桃のような香りが鼻孔をくすぐる。

そういう趣味は無いが、ちょっと来るものはある。

私も彼女の優しさを受け入れるために、ぎゅっとメイのスカートの裾を握った。


「!」


突然、スミスは馬車を急停止させた。

荷車は大きく揺れ、私とメイはバランスを崩し、荷馬車の横へ叩きつけられる。


「スミスさん!」


「……静かに」


メイに庇われながら私は文句を言うと、スミスは口に手を当てて囁き声で答えた。

そして遠くを見るようにと彼は指を指してジェスチャーをする。


「……あれって」


目線の先にはサンドワームが湧いていた。

しかも一匹どころではなく、複数のサンドワームの群れだ。

そのおぞましいモンスターは、砂地の一角を完全に支配していた。


「確かに今は繁殖期だが……これほどの数は見た事が無いぜ」


サンドワームはお互いの身体を絡め合い、まるで岩のような塊になっている。

それらが何キロ平方メートル先まで続いており、私達の行く先を塞いでしまっていた。


「あれがサンドワームの繁殖期なんですね……なんと情熱的な愛なんでしょう」


……あの巨大な虫たちがうごめく気色悪い光景を見た感想がそれって、どんな感性しているんすかこのメイドさんは。


私があきれ顔をしていると、スミスは地図を見ながら、他のルートが無いか考えていた。

しばらくしてため息を付きながら、トカゲ馬から降りてこちらの荷車まで乗ってきた。


「ほんっと、うちの大陸って不便だよな。……昔はこんなことなかったんだが」


「これからどうするんですか?」


「一旦安全な場所を探して野営だな、もう数時間もすれば日も落ちてしまう。

後は……あのサンドワームの群れが去るまで待つしかないな」


「これから何日も待つんですか?

その間にもクロウはどんどん先に……」


「お嬢さんの気持ちは分かるけどよ、……だったらどうしたらいいってんだい?」


「……その地図、見せてください」


困り顔をするスミスから地図を受け取り、じっとそれを確認する。


………ずっと私は疑問に思っていたのだ。

小学生の私が序盤の街からいきなり”砂漠地帯”にするだろうか?と。


そう、砂漠地帯は本来RPGロールプレイングゲームにおいて、大体は中盤から終盤にかけて向かう場所のはずである。(例外はもちろん沢山あるだろうが、ここでは一旦省かせてもらう)

当時の自分が城からスタートして旅で仲間を作って、最終的に魔王を討伐するというそういう結局テンプレ的なシナリオが一番作りやすいからという理由で、ゲーム制作に臨んでいた小学生であったとするならば。


……物語のセオリーくらいは守るはずだ。

例え逆張り人間でも、そこは曲げないはずである。


私は茶色く色枯れた地図を指で触りながら目を細め、”違和感”を感じる箇所を探し求める。


………。


……しばらくして、私は…………見つけてしまった。


それは海から山岳に向かって繋がる河川であり、他の大陸にはきちんとそれが張り巡らされていたが。

……本来この大陸にも繋がるはずの川だけ、綺麗に”四角く”途切れてしまっていた。


私は確信した。



小学生の頃の私、川のマップチップ置くのミスってるやないかーい!


その四角形の空白地帯を境に、砂漠地帯は大きく広がってしまっていた。

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