鍛冶屋
「らっしゃい!良い武器そろってるよ!」
威勢のいい店主の挨拶と共に、私は鉄錆の匂いが染みついた店内へと入る。
ピカピカに磨かれた鉄製の鎧や、伝統装束らしい防具がディスプレイされている。
壁に掛けられた剣や槍は長い事買われていないのか、少々埃が被っていた。
「お嬢さん、旅の人かい?
娘さんにお勧めするならやっぱり軽くて携帯性の高いナイフなんかがお勧めでさ。
最近だと町娘の意見を取り入れた装飾にこだわった逸品もありますぜって……って」
店主は私を見て、目を凝らす。
彼は迷いの森で一緒に行動を共にした従者の一人、スミスだった。
「聖女様……?その恰好は一体?」
……まずい、さすがにこれくらいの変装じゃばれてしまった。
私は観念してスミスに事情を話すことにした。
………。
「……聖女様、城に戻りましょう」
そう言うと思った。
私は秒で首を振り、否定する。
「数週間で戻るってクロウ様も言ってたんでしょう?
それくらいなら待っててもいいんじゃないですかい?」
……正論だ。
だが正論ほど人を傷つける言葉は無い。
普通は帰りを待つのが普通の対応なのだろうが、だけどもう物語的に彼らは戻ることはないと私はメタ的に知ってしまっているからこその焦りだった。
また妖精のせいにして理由をでっちあげても良かったが、ルーミィに貸しを作るのは何だか癪なので、私はスミスにひたすら目で訴えかけてみることにする。
「城の人には言わないでください」
「……困りやすよ、そんな目で見られても」
透き通る宝石のような潤んだ瞳がスミスの困り顔を映し出していた。
彼は思わず、目を背けて部屋の奥で考え込み始める。
「弱ったな……」
スミスは後ろを向き、座り込んで砥石で剣を研ぎ始める。
簡単な作業をしながら考え事をするのが彼の癖らしい。
「スミスさん!」
私の剣幕をスミスは制止する。
「聖女様……気持ちはよく分かりますが……俺にも立場というものがあります。
俺は普段はこうして武器屋を営みつつ、王に招集されれば従者としても働く身。
この街にはそういった人物も多いんです」
現実で言うと消防組合みたいなものなんだろうか?
スミスは剣を研ぐ作業をしながら続けざまに答える。
「この歴史ある王都に俺のような粗暴者が平和に住んでいられるのも全てカーン王に忠誠を誓っているお陰……。
今、聖女様を外にお連れすることを手伝えば、俺は王を裏切ることになってしまう」
「……」
……そんなあ。
私の冒険は街に出ることなく終わってしまうの?
このまま兵士を呼ばれて捕まるくらいなら、いっそのことダッシュして逃げ出してしまおうかと考えていると、
「……ほらよ」
スミスは私に鞘の付いたナイフを渡してきた。
木製の鞘に綺麗な花模様が掘られており、丁寧に管理された代物という印象である。
「これって……」
私がきょとんとしていると、スミスはおもむろに製鉄用の竈の火を消した。
そして壁に掛かった刀剣を取り外し、自分の腰布に佩いて、窓際でぽつりと答える。
「……そういえば俺も今日”偶然”キアタ聖王国に出かける用事があったんだった。
聖女様……いや、見知らぬお嬢さん。……傭兵が必要なら手伝いますぜ」
「……スミスさん!」
その言葉に私は歓喜し、彼に駆け寄ってそのごつごつした手を握った。
スミスは気恥ずかしそうに顔を上に仰ぎながら、答える。
「どのみち聞きゃしやせんでしょう?
……なら俺のやるべきことは、聞き分けの無いお転婆なお嬢さんをモンスターから守る事でさあ」
「本当にいいんですか……?」
「クロウ様もロドリグも共にすでに兵団として聖皇国に向かってしまってるからな。
今は事情を知ってしまった俺しか聖女様を守れる人間はいないってこったろ?」
「でも……王様を裏切ることになるって……」
「娘っ子一人守れないようじゃ、それこそ王族の従者としての名折れだろい?
……それに俺は命を助けてもらった恩をいずれ返したいと思っていたんだ。
あの時はポーションを作ってくれて本当に助かった………改めて、ありがとう」
スミスの感謝の言葉に再度、私は喜びを身体全体ではしゃいで表現する。
彼の年季を感じる厳しい表情もその時ばかりは緩んでいたが、
「……盗み聞きとは感心しねえな?」
とたんにスミスの表情は険しくなり、何かに気づいた様子で鍛冶屋の入り口に剣を向けた。
「……」
どうやら入り口の影に誰か潜んでいたらしい。
私達は緊張しつつ、盗み聞きしていた主の方に身構える。
スミスは私の前に立ち、その方角をじっと見つめる。
「……さすが王家直属の護衛兵といったところですか」
声の主は観念したのか、ゆっくりと姿を現した。




