ロールプレイングゲーム
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私の小学校時代はそれはそれは様々な物語があった。
特に剣と魔法の世界を旅するRPGにはまっていた私は、ある日の事ゲームを作る事が出来るゲームを中古ゲーム屋で発見する。
子供にとってはまさに自身の理想を思い描くファンタジーを形に出来るそれはまさに最高の宝物だった。私はその宝物を手に匂いが移るくらい握りしめた硬貨数枚で購入すると、その日から寝る間も惜しんで、ひたすら私は空想の世界を作り続けた。かっこいい主人公と可愛いヒロイン、頼れる仲間たちとのダンジョンでの冒険、立ちはだかる魔王やその手下たち。……今思えばそんな楽しい日々が永遠に続けばいいのに、とさえ当時の私は考えていたのかもしれない。
しかし人は大人になるにつれ、そんな夢物語を忙しない日常と共に忘れていってしまうものだ。
それは私も例外でなく、成長して大人になるにつれ、その楽しかった記憶は徐々にくすんでいき、それはおそらく誰にでもある幼少期の思い出の一粒になってしまっていた。
……まだあのゲームソフトは埃をかぶって実家に置いてあるのだろうか。
親が勝手に処分して無かったらいいけど。
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「後ろへどうぞ、聖女様」
私は青年の気遣う優しい声で今の現実へと帰ってくる。
先ほどの騒乱と、旧友とも呼べる人間への突然の再開で脳がパンクし、ぼけっとしてしまっていたようだ。
いつの間にかクロウはトカゲ馬に乗り込み、私の事を待っている。
拒否する理由も無いので私は言われるがまま、トカゲ馬の後部に騎乗しようとした。
……だが馬上には届かなかった。
あれ?私ってこんなに背が低かったっけ?
騎乗出来る生物というのは近くで見ると結構怖いくらいに大きいなと思いつつ、再びチャレンジする。
踏ん張って思い切り手を伸ばすも、何とか鞍に触れられる程度で、とてもじゃないが乗り込むことなんてできなかった。
私が手をこまねいているとクロウは私の身体を軽々と引き寄せ、後部座席へと乗せた。
「……ありがとう」
「行くぞ」
私は見えていた以上に大きな背中に身を委ね、馬上から振り落とされないようしっかりと両手でしがみつく。
……本当に、彼は本物のクロウだ。
私があの当時思い描いていた理想の主人公の彼。
まさか自分の作ったキャラクターに今になってこうやって触れられる日が来ようとは夢にも思わなかった。
……数分後、私たちは砂漠の真ん中にあるオアシスを拠点とした城下町へとたどり着いた。
そして……。
「クロウ様!おかえりなさい!」
「聖女様!おかえりなさい!」
国民たちの心配や歓喜の声が、クロウの背中越しに伝わる。……聖女様。それは紛れもなく私に向かっての発言だった。
やっぱり聖女様って……私の事に対して言っているみたいだ……。
聖女ドロシー。
それは私が小学生の頃に作ったゲーム、シャイニングファンタジアのヒロインの名前である。
どうやら私は"聖女ドロシー”としてこの異世界に転生してきてしまったらしい。