婚約
「……」
クロウはカーン王の言葉を聞いて、しばらく俯いて考えていた。
私が心配そうに彼の表情を伺うと、クロウもこちらに振り向く。
「……そうか」
彼は表情を緩め、一言そう言った。
貴族たちが私たちの周りを取り囲み盛り上がる中、クロウは王の前に行き、跪いて答える。
「カーン王、いくら王の命とあれど、婚約を今すぐ了承することはできません」
その言葉を発した途端、辺りは静まり返る。
カーン王は驚き戸惑いながら、クロウの肩を掴んだ。
「なぜだ……?勇者と聖女がこの王都を治めることこそがこの国の……いや、儂自身も二人の事を祝福するつもりだったのに……」
カーン王はいつもの軽い調子は崩さなかったが、その言葉には憤りが感じられる。
まるで謝って花瓶を割った我が子を優しく叱るような慈悲と悲哀の心持ちだ。
今の言葉に間違いが無いか、王はもう一度視線で問いただすも、クロウは意思を変えず首を横に振った。
「俺たちの事を大事に思っているのなら、2人の気持ちも考えてください。
俺にとってドロシーは昔からの幼馴染で……家族で言う妹のようなものなんです」
クロウは私の頭をポンポンと撫でて、そう答えた。
……あれ?これフラグがバッキバキに折れてるやつですやん。
『ありゃりゃー好感度が足りなかったんですかね~』
イヤリングから妖精の軽口が飛んでくる。
……そんな乙女ゲー的なシステムでしたっけこのゲームは。
クロウは私の気持ちも知らず、カーン王と会話を続ける。
「この王都を守ることが王族の使命だと言う事は重々理解しております。
勿論その使命を果たすことを辞めるわけではありません。
むしろ俺はもっとこの国の為に働きたい……婚約し、王の跡継ぎとして備えるにはまだまだ俺は若いと判断させていただきました」
クロウは立ち上がり、私の方に振り向いて、手を握る。
「ドロシー。君の聖女の魔力の凄さは件の旅で幾度となく拝見した。
その力を今後もこの国の人達のために役立ててほしい。
……俺からのお願い、聞いてくれるか?」
ずるい、そんな真摯な目で見つめられたら断る事なんてできない。
「……はい」
元々自分がこの異世界で何をするべきなのか考えていた所、彼の言葉によって私は一つの目標が浮かんできた。
この異世界は確かに私が以前に作ったロールプレイングゲーム、”シャイニングファンタジア”の世界だ。
今までのいきさつからして完全に一致しているというわけでも無さそうだが、当時小学生の私が杜撰な設計をしたばかりに、確かにこの世界は不完全なものになってしまっている。
再生の力を持つ聖女であり、私自身の役目。
それはこの不完全な世界を完全に治す事ではないであろうか。
元々私が作ったゲームの”聖女ドロシー”は本来、”再生の力”なんて持っていないはずなので、そうだとすれば辻褄が合う。
……じゃあ再生の力って一体何由来の力なの?
『ボク由来の力ですね』
……他の物語なら数話は引っ張りそうな話題をこの妖精は一言で片づけよった。
『やっと気づきましたか再生の聖女……いや、この世界の創造主としての役目を』
妖精ルーミィはやはり何か知っているようだ。
……ルーミィ、教えて。
この世界は一体何なの……?
私がこの世界の創造主で、崩壊の原因を作ったのは私だからそれを治せと?
どうして小学生の頃に作ったゲームの世界に今更になって、社会人になった自分が呼び出されたの……?
『……』
ルーミィ?どうして答えてくれないの?
さっきみたいにさらっと重要な事答えてよ。
どうせ大した理由なんて無いんでしょ?
……どうして私が質問したことには黙りこくってるの?
大体こういうイベントは後回しになったら、言った人の死亡フラグなんですけど?
ルーミィ、死にたくないなら答えて……!
「……ドロシー、大丈夫か?」
「!」
クロウの声で私は現実へと帰ってくる。
「さっきからなんか様子がおかしいと思っていたが……。
また……妖精の声が聞こえていたのか?」
ぬおおお何でこういう時に限って察しが良いんだ。
私は首をカタカタと小刻みに震わせて、自分は大丈夫だというアピールをすると、クロウは安心した様子で王に視線を戻す。
「カーン王、……愚息の我が儘をどうか御目溢し下さい』
カーン王は周りの貴族たちの様子を伺う。
会場全体に「勝手に重要な事決められて可哀想じゃんね」みたいな雰囲気が漂っていた。
王がぽつりとその言葉を言った貴族の一人を睨み付けると、空気は一気に引き締まり、沈黙が場を支配する。
……暫くしてカーン王は大きく息を付き、用意された椅子へと座って答えた。
「……分かった。儂としたことが些か早計であったな……。
二人の婚約は取りやめて、引き続きこの披露宴は聖女の儀式の成功を祝すものとする」
それを聞いた貴族たちは再度拍手で私とクロウを迎え入れる。
王はその言葉の後に小さく「……それに、今は駄目でも将来は分からないからの」と私の方に向かって呟いた。




