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帰宅

――次の日。


「はぁ……」


朝方、2匹の歌鳥が樹上で楽しく鳴く声とは裏腹に私の気分は沈んでいた。

耳にはキラリと日光を反射して光る黄色い立方体のイヤリングが装備されている。


……話は数時間前に遡る。


「これからボクは聖女様のサポートをするため、お付きさせていただきます!

ではでは失礼!」


妖精ルーミィはそう言うと、姿を小さく変え、私の耳元にくっついた。

四角い月のイヤリングとなった彼はそれ以降語り掛けても、喋らなくなってしまった。


「……いらない……ダサい………」


すぐに外して投げ捨てても、キラキラとした呑気な効果音とエフェクトと共に戻ってくる。


外せないとか実質、呪いの装備じゃん。

私はこれからの事を考え、気が重くなりつつアイゼンの実験室へと戻っていった。


――そして今に至る。

早朝、真っ先に目が覚めた私は、外で待機していた。

聖女の儀式を終え、出来事を王都に報告する。

役目はそれだけだったはずなのに、あの妖精は余計な事を……。


よりによってクロウと婚約だなんて……そんな大事なイベント今の今まで何で忘れていたんだろう。

私が考え込んでいると、ガヤガヤと話しながら準備を終えたクロウたちが外に出てきた。


「……もう大丈夫だ、心配かけたなドロシー」


クロウとその従者たちはすっかり怪我が回復したみたいで、元気そうに腕を掲げ、こちらに笑顔でアピールしてみせた。


「……聖女様、もしかして眠れませんでしたか?……目にクマが……」


「いえ、大丈夫です。……行きましょう!」


アイゼンの言葉通り、私はあの後ほとんど眠れなかった。

でも皆に心配をかけたくないため、私は空元気に振る舞う。


「無理はするなよ?……では、王都へ戻ろうか」


クロウはその様子を見て、心配そうな顔で見つめながら私に返事をした。

全くどの口が言うんだか……。

私たちはクロウの指揮と共に、迷いの森の出口まで徒歩で移動していく。


「あ、僕も王都についていきます。……そろそろ森暮らしも飽きて来たんで」


アイゼンはそう言うと、自分の背中が隠れるくらい大きな鞄を背負い込み、こちらに歩いてきた。


「僕はこれでも魔法のエキスパートなんです。旅のお役には立てるとは思いますが……」


「ああ、これからよろしく頼む、アイゼン」


クロウはアイゼンの同行をあっさり許可し、アイゼンは嬉しそうに先行する私達に駆け寄っていった。




「そのイヤリング、どうしたんですか?」


移動中しばらくして、アイゼンが真っ先に私の耳に装着された装備に気づく。


「これ?……えーと、……作ったの。皆が寝ている間にスキルビルドで」


私は経緯を誤魔化し、答える。

アイゼンも「良く似合ってます」と言った後は特に何も言及してこなかった。

妖精の声が聞こえるどころか、本当に妖精がいたとか言い出したら、これ以上に変人扱いされかねない。

いや……「さすが聖女様です!」って褒めたたえられるパターンかな?

どっちにしろ気恥ずかしいので、この秘密は墓まで持っていこう。

……うん、それが良い。


しばらくして大木が壁のように生えていたエリアに戻ってくる。

従者のロドリグが通れる道を確保するため、短剣で枝葉を切っていく。

以前の硬質化したものとは違い、あっさりとその枝葉は地面へと散った。


「……クロウ様、木が……切れるようになってます」


「ボスであるワーウルフを倒したことで、周囲全体の魔力が減ったみたいです。

それに先ほどから一度もモンスターに襲われてないし、一時的にボスによって凶暴になっていただけだったのかもしれません……むしろ正常な状態に戻ったと言うべきですね」


アイゼンは葉を触りながら考察し、それを鞄に採集していく。

すでに彼の革鞄は採集した素材で大きく膨らんでいた。


「これでまたこの森の交易路も再開できるかもしれない。

……早くその事も王に報告せねば」


クロウはのどかな森の様子を眺め、そう言った。

私達はその後も何事も無く、森の出入り口に待たせている馬車番の従者と合流する。

行きは長いと思っていた旅路も、帰りはあっさりと王都に戻ることが出来た。



「聖女様!、そして勇者よ!良く戻った!」


城ではカーン王が謁見室で待ち構えていた。

部下の手前、威厳あるように見せているが、その口調は喜びを隠しきれない様子である。

クロウは王の前で跪くと、私たちもそれに倣う。


「王の命により、聖女の儀式は完遂いたしました。

聖女は再生の魔力に目覚め、その力は今後いかんなく発揮されていく事でしょう」


「おお、さすがであるな。せがれも護衛任務ご苦労であった。

本日はささやかながら会食の場を設けよう、しばらくこの城で旅の疲れを癒すといい」


「お気遣い感謝いたします、王」


クロウは頭を下げたまま、カーン王のねぎらいに深々と感謝の言葉を述べた。


「……うむ。……従者たちもご苦労であった。……兵たちももう下がってよいぞ」


カーン王は私達3人以外が謁見室から出ていくのを見計らって後、厳格な表情を緩めた。


「顔を上げい」


「はい」


クロウが顔を挙げた瞬間、カーン王は立ち上がり、クロウに抱き着いた。

突然の出来事にクロウは困惑し、答える。


「王!? 一体何を……!?」


「今度は王としてではなく、お前の父として祝福させてくれ。

……本当に無事でよかった。……儂にはもうお前しか……おらぬのだ」


カーン王の玉座近くの壁にはこの国の王妃様と思われる絵画が飾られている。

私とアイゼンは王が満足するまで、クロウが照れている光景を微笑ましく見つめていた。

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