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はじめての制作

私はアイゼンに促され、研究所の実験室までやってくる。

実験室の真ん中には材料を煮込むための大鍋と、その端にある机には液体を蒸留するための装置が置かれていた。

部屋の隅々には複数の草花やトカゲ、気味の悪い虫などがガラス瓶で保管されている。


「今から作るポーションに虫は使いませんから安心してください」


私が虫を見て心底嫌そうな顔をしたのを察して、アイゼンは答える。


「では、説明いたしますので静聴ください。

……まずポーションづくりの工程を簡単に説明しますと、薬草の治癒成分を鍋で抽出して……」


私は学校の講義を聞くよりも、会社の会議を聞くよりも、真剣に耳を澄ませ、人生で一番集中した。



……結果。



「……大体わかりました」


「本当ですか~?確かに魔術学校で習う範囲だと基礎中の基礎の知識ですけど、なんだか目が泳いでいません?」


わ、私だって一応日本の義務教育を終えて、立派に社会人やってた身なんですけど!?

今考えると学校の授業はぼちぼちサボってたのかもしれないけども、常識の範囲内の知識なら身についている……はずだよね?


「初めから説明してみてください」


「えーと……薬草を煮込んで……その液体をろ過して……装置でじゅーって」


「蒸留ですね、熱を冷ますのも忘れないでください」


「…………。それから蒸留を終えた後は……自身の魔力を込めて……ちょっとこの工程はよく分かんないんだけれども」


「力を溜めた感覚をそのままに指先から水を落とす感じですね」


……余計に分かんないや。


「……それで出来た液体を密閉された樽なんかに保存して数年熟成して……完成?」


「大分工程が飛びましたが、まあ大体そんな認識で大丈夫ですよ」


くっ、彼の性格からか嫌みったらしくないのが余計に私をみじめにさせる。

アイゼンは卑屈になっている私の事を気に留めず、机の上に立方体を置いた。


「今言ったこと、スキルビルドさえあれば数時間……いや数分で出来ます。

……僕の仮説が正しければですが」


「ええーー!?今までの時間はなんだったの!?」


「聖女様が”工程を理解している”というのが重要だと思ったので。

……次にこれを」


アイゼンはポーションを一本開けて、立方体に浴びせる。

その後、残ったもう一本を私に寄越した。


「これ……怪我人の分じゃ……」


「あなたが飲んでください。……ポーションとはどういったものかを直に知るために」


私は彼の覚悟を察して、それを飲み干す。

今までの疲れが一気に吹き飛ぶ感覚がしたかと思うと、旅で出来た肌荒れやのどの痛み、筋肉痛なども全て取り除かれていった。


……こんなの現実にあったら、医療制度崩壊するね。


「僕が作った中でも、長年研究を重ね、比較的ハイグレードな材料で作ったものです。

もちろん大量生産なんかできる代物ではありません。

それを今から増やしていく作業を行います」


こんなに効き目の高いポーションを増やしていくだって?

そんな事本当に出来るのだろうか?


困惑した表情を浮かべた私に対し、アイゼンは答える。


「いち研究者としては、当然悔しい思いはしていますよ。

でもそれ以上に僕はスキルビルドの可能性に対してワクワクもしているんです。

この魔法さえあれば、一体どんなすごいものが出来るんだろうって。

これで僕のよりすごいポーションが作れたとしたら、研究者冥利に尽きますね」


アイゼンの表情は終始にこやかで、私の事を気遣ってくれている様子だった。

私はその覚悟を再度受け止めつつ、机の前へと立つ。

目の前にはポーションのかかった立方体がほんのり緑ががって輝いていた。


私が成功しなければ、ポーションはもう無い。

アイゼンさんは私の魔法に賭けてくれたんだ。

失敗なんて絶対にするもんか。

私は大きく息を吸って集中すると、スキルビルドに魔力を込めた。


硝子ガラス!」


目の前の立方体を捏ねて、小瓶と同じ形にすると、あっと言う間にガラス製のビンが出来上がる。

よく見るとすでに少量の緑色の液が瓶の中に入っているようだった。


「この液体を媒体として、数を増やしましょう。

まずはスキルビルドでどんどん小瓶を作っていって下さい」


私は言われるがまま、小瓶を作っていく。

1ダースほど作った後、アイゼンは再び口を開く。


「次に、空の小瓶にポーションの作り方を思い浮かべながら、魔力を込めつつ媒体元を流し入れてください。小瓶の中だけで、抽出→蒸留→熟成の工程を完結させるんです」


「そんな事できるの?」


「僕の仮説が正しければ、ね」


私は言われるがままに集中し、小瓶の細い口元同士をくっつけ、媒体元の液体を流し込む。

一瞬そのまま媒体液が減っている感じがして思わず目を細めるが、不思議にもその液体が目減りすることは無かった。

私は慎重に流し入れたポーションの入った小瓶をゆっくりと机に置き、そのまま重傷者の人数である3つ分へと増やした。

並べられたポーションは先程飲んだそれと一切違わない輝きを放っているように見える。


「で、出来た……?」


アイゼンはそれらをすぐさま手に取り、小瓶を傾けたりしながら、性質できを目視で確かめていく。

そしてすぐに相槌を打って、嬉しそうな表情を浮かべた。


「成功です……僕が作ったものと全く同じ……いや、もっときめ細やかな逸品かもしれません」


「よ……良かった……」


私は大きく息を付き、椅子へと座り込んだ。

さきほどポーションで回復したはずの疲れがまた襲ってきている。

息切れが止まらず、動機も激しくなっている。


「やはりこれだけ一度に多くの変化をさせると、魔力の消耗が激しいみたいですね……。

ポーションは僕が責任もって怪我人に与えますので、聖女様はどうかお休みになって下さい」


私は顔に噴き出た汗をぬぐいながら、霞んだ視界で自分が初めて作ったポーションを確認し、満足そうな表情を浮かべた。

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