ポーション
「聖女様の魔法があれば家具職人は廃業でしょうね」
アイゼンは冗談を交えつつ、クロウをスキルビルドで作ったベッドに寝かせる。
そして私はクロウの上半身の服を脱がせ、包帯を巻き、応急処置を施した。
「ありがとう……」
処置が終わると、クロウはそうぽつりと言うと目を瞑り、かくんと首を傾け、喋らなくなってしまった。
私が一瞬心配そうな顔を見せると、アイゼンが訂正する。
「眠ったみたいです……よほど疲れていたのか、安心しきったのか、ですね」
クロウが寝息を立てる様子を見て、私は安心した。
アイゼンは奥の椅子を引っ張り出してきて、座るように私に勧める。
「僕たちもちょっと休憩しましょう……今日は本当に色々ありましたからね」
私はアイゼンの好意を受け取り、椅子に座る。
簡単に切り出した材木だけで作られた粗末な椅子だったが、これまでの疲労や沈んだ気分を落ち着かせ、回復させるには充分であった。
アイゼンは奥の棚から何かを探している様子で、しばらくすると革製の鞄をもってこちらにやってきた。
彼は鞄の中身を空け、薄緑色の液体が入っている小さな小瓶が2本、机に転がる。
「……丁度、王都へ出荷したばかりで、僕の作ったポーションの在庫は今この2本だけです。
重傷者は3人……どうしても数が足りません」
ポーション。
一般的なPRGで回復薬として扱われる薬の総称だ。
思いつかなかったのか、いまいちしっくりこなかったのか、そこは捻らなかったんだ小学生の私。
「王都に救援を要請することはできないの?」
「僕や聖女様だけではこの森のモンスターを掻い潜って王都まで戻るのも難しいでしょう……ここでポーションを生成し、3人を治すしか方法はありません……ただ」
アイゼンはさらに奥の棚から複数の小箱を取り出す。
そこには乾燥された薬草やキノコ、漢方に使う木の根っこのようなものが保管されていた。
「ポーションというのは作るのに非常に時間が掛かります。適切な材料を煮込み、蒸留し、魔力を込めて、熟成させる。高級なものになってくると、その価値は純金をも超える価値になると言われています」
「安価な物でもぱっと作れないの?」
「安物でも工程は変わりません、材料を栽培、加工するのもそうですし、何より熟成に数年はかかる代物ですので」
……なるほど、現実で言うところのウイスキーなんかの酒と同じような感じなんだ。
何となくゲームの道具屋で最初に購入する回復薬ひとつでも現地人はこんなにも苦労して作っているだなんて。ポーション一つでこんなに知見が深まるとは思わなかった。
「とにかくこのままではポーションが足りず重症患者の怪我が治せません……もしかしたら怪我が悪化してそのまま……」
アイゼンは私の顔色を窺って、それをはっきり言うのを言い淀んだ。
――私の覚悟は決まっている。
右手から光と共に立方体を出現させる。
「アイゼンさん、私にポーション作りの方法を教えてください」
それを見たアイゼンは驚いた様子で、こちらに話す。
「……建築魔法。……確かに物を作ると言う意味ではポーション作りも同じ事ですが……薬品を作るとなると……」
アイゼンは天井に頭を向け、考え込む。
「その魔法が出来た事は、別の物質を混ぜ込むこと、遠距離からの性質変化、それに直に触れての形態や材質の変化。恐らく材質変化は聖女様が覚えている物体であれば、その物に変化することが出来る……?
現にさっき作ったベッドの布も王都に用意されていたものとそっくりだった……だとすれば……?」
何か頭の中で仮説を立てているようだった。
……しばらくしてアイゼンは振り向く。
その目はとても輝いていた。
「出来るかもしれません……いや、絶対出来ます!
聖女様!あなたにポーションづくりのイロハ、全てお教えいたします!」
アイゼンは今までにないほどのハイテンションで私の腕を掴み、ブンブンと振り回し、そう答えた。




