救助
プスプスと煙が空に向かって上がっていく中、私は屈んだ態勢から立ち上がる。
目の前にはかつてワーウルフだった体毛の塊だけがあった。
「クロウ!ごめん、無事!?」
私はクロウの安否を確認するため、叫ぶ。
クロウは爆破の衝撃も相まって随分遠くへと転がっていったみたいだったが、すでに起き上がって服にかかった草枝を掃っている最中だった。
爆破は上手い事ワーウルフ周辺にのみ集束したみたいで、クロウに火傷の跡などは無い。
……駄目もとでやってみたけど、どうやら上手い事行ったみたいで本当に良かった。
「……俺は全然大丈夫だ」
クロウは自分の焦げ付いた槍をワーウルフの死体から引き抜き、それを杖代わりにしてこちらに向かってきた。槍の先端は折れ曲がっており、もう武器としては役に立たないだろう。
「ごめんなさい……大事な武器なのに」
「良い、武器なんて王都に帰ればいくらでもある……。ドロシーこそ無事でよかった」
クロウはドロシーの頭を軽く撫で、アイゼンの研究所の方へと足を引きずりながら歩いていった。
嬉しいはずなのに、私の表情は固まってしまっていた。
――何故って、恐い、と思ってしまったからだ。
助けてもらった身で失礼だという事は重々承知で、私はその場で考え込む。
私はさっき襲われたワーウルフ以上に、クロウの事が怖くなってしまったのかもしれない。
さっきクロウの大きな手が自分の頭に触れた瞬間、その地肌がまるで大岩を押し付けられているように感じた。
日々の鍛錬からできた血豆が何度も潰れた跡なのか、無数の戦いを繰り広げてきた結果なのだろうか。
そのたゆまぬ修練の結果、まさに万力とも呼べる力が彼には備わっているのを今、直に理解できたのだ。
彼は私のか細い首など、一瞬で折ってしまえるだろう。
そんな事絶対しないと言う信頼はあるが……
…………正直怖いと感じてしまった自分がいた。
……一体私の知らない間のクロウはどれだけの苦難を強いられていたんだろう。
私は過去の私の理想を詰め込んで作ったRPGの世界にやってきて、少し軽い気持ちで浮かれていたのかもしれない。
この世界の人々は本当に命をかけて生きていると言うのに。
……私がこの世界で聖女として転生した理由。
私がなすべき事は……出来ることは…………。
「ドロシー様、クロウ様の従者たちも僕の家に運びましょう」
アイゼンに話しかけられ、私は思考を止めた。
……目の前の困っている人を助ける事。
それが今の私に出来る精一杯だ。
私はそう確信して、現実を迎え入れる。
「しかし……どうしましょう……。僕もそんなに力に自信はありません……引きずれば何とか行けるかもしれませんが、重症者をそんな風には扱えませんね」
確かにアイゼンと私では大の男二人を運ぶのは、中々大変な作業である。
私は少し考えて答える。
「いい方法があります」
光と共に、自分の両手から立方体を形成する。
「建築魔法」。
この聖女の力を使えば、きっとこの状況は打開できる。
私は立方体を手で引き延ばし、もう一個同じのを作って、今度は布状にしたものを張り付けて……。
そしてその物体を完成させる。
「……これは一体?」
「担架です!」
「タンカ?」
「えーと、担架というのは……とりあえずここに人を乗せて運びましょう!アイゼンさんも手伝って!」
私とアイゼンは担架の両端を掴み、一番重症そうなロドリグの傍までやってくる。
「すみません……聖女様にこんな雑務をさせるなど……遺憾の極みです……」
ロドリグはかろうじで気絶して無いようだったが、片足の出血は未だ治まっておらず、顔色もより青白くなってしまっていた。彼は喋った瞬間にゴホゴホと咳込み、口から血の泡が漏れ出す。
「……しゃべらずに。……部屋まで運びます」
アイゼンは無理をするロドリグを制止させ、私と一緒にロドリグを担架まで転がり込ませる。
私達はそのままロドリグを研究所まで運び、ベッドに寝かせる。
そして往復して大木の脇で気絶しているスミスも同じように運搬することに成功した。
「すみません、散らかしたままで。僕の家に客人が来るのは滅多にないことでして」
「充分だ……ありがとう、アイゼン」
研究所の寝室に従者二人を寝かし、アイゼンは応急処置を施す。
大怪我だが命に別状は無いとアイゼンは判断し、それを聞いて安心したクロウは木の椅子へもたれかかった。
相当無茶をしていたのか、全身に汗をかき、全体重を椅子にもたげ、息を深くつき、頭を下げたまま動かさない。
その様子を見て、アイゼンはクロウの肩に軽く触れる。
「……!」
「やっぱり……骨折してるじゃないですか!ダメですよ、このままじゃ!」
「これくらい……大丈夫だ。折れたのも初めてじゃ……」
「ベッドをすぐに用意します。そこで絶対安静です。いいですね?」
普段は温和なアイゼンの語気が強くなり、クロウは渋々小さく頷いた。
アイゼンは私に振り向いて言う。
「魔力はまだ残ってますか?……聖女様に頼りっぱなしで悪いですが……」
私はアイゼンの言葉を聞き、すぐに建築魔法でベッドを作り上げた。




