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狼男

私もクロウの後に続いて、階段を駆け上がる。

部屋を出て、外へと向かうとそこには人の数倍の身長はある怪物が暴れていた。


「ロ、ロドリグー!」


従者のスミスが剣を構えて、その怪物を焦りながら見据えている。

よく見ると怪物の大口はロドリグの片足を捕らえており、決して小さくはない男の身体を軽々と宙ぶらりんとさせていた。


「ロドリグを離せー!」


スミスは怒りのまま剣を振りかぶり、怪物に突進する。

しかし怪物がそれに合わせて腕を振り抜くと、健闘虚しくあっさりと吹き飛ばされてしまった。


「ぐわー!」


スミスは大木に激突し、鈍い炸裂音が辺りに響き渡る。

彼の身体はぐにゃりと力無く人形のように折れ曲がり、頭に血を流しながら、動かなくなってしまった。


「ひっ……!」


その凄惨な光景を見て、私は思わず小さく悲鳴を上げた。


狼男ワーウルフ

目の前にいる大狼の怪物こそ、まさにこいつの事だ。

私がこの森の隠し要素として配置したユニークモンスターで、このモンスターはこの辺りのモンスターの平均の能力レベルより高めに設定されている。


確か迷いの森にやってきたくらいのパーティーのレベルじゃまず勝てないくらいの強さにしたはずだったと思う。


……まさかこんな大変なことになるなんて。

小学生の頃の思いつきで作ったモンスターがまさに今、皆の命を奪おうとせんと牙を剥いてしまっているのを私は激しく後悔していた。


「今助けるぞ!」


クロウは大槍を構え、ワーウルフに向かっていく。

しかし口に咥えられているロドリグが首を振ってそれを制止した。


「私の事は構わず逃げてください!このままでは……全滅してしまいます!」


「しかし……」


「聖女様を安全に送り迎えするのが我々の使命です!……私が囮になっている間に……早く!」


ロドリグの噛まれた足からは流血がとめどなく流れ、どんどん彼の顔色も悪くなっている。それでもなお彼は撤退するようにと叫び続けていた。


……私のせいで……こんな……こんなつもりじゃ……。


私は恐怖で足がすくんで動けず、ただ見ていることしか出来なかった。クロウは目の前の光景を血眼で睨みつけ、武器を握る手を震わせている。



ーーその瞬間。



「フラッシュパウダー!」



後方から遠距離呪文が飛んでくる。

キラキラと輝く粉の舞う風圧は、ワーウルフの顔面に命中し、怪物の目を眩ませる。そしてロドリグを口から離させることに成功した。


「今のうちです!」


杖を構えたアイゼンが叫ぶ。

クロウは倒れているロドリグを抱えて走り去り、ちらりと遠くに倒れているスミスにも目を向ける。


「駄目です!目眩ましは数秒しか持ちません!」 


アイゼンはクロウに2人は助けられないと諭す。


「……いいから……逃げてください……」


「見殺しになんて出来るか!」


クロウは息も絶え絶えで話すロドリグをアイゼンに受け渡すと、持っている大槍の切っ先をワーウルフへ向けた。


「まさか1人で……無茶です!明らかに今の僕たちじゃ勝てる相手ではありません!」


「うおおおお!」


クロウは話を聞かず、力任せにワーウルフに突撃する。

彼の持つ大槍の威力は怪物の堅牢な肩部を突き破り、砂ぼこりを上げて数歩後ろに退かせるほどであった。

しかしワーウルフもその攻撃に抵抗し、鋭い爪の付いた手をクロウの身体に突き立てる。


「ぐあっ……!」


ワーウルフの剛腕がクロウの上半身に重くのしかかり、ミシミシと嫌な音を立てながら、鋭い爪がナイフのように肩口に食い込んでいく。

突き立てた大槍は怪物の身体から抜けず、クロウは防御出来ない状態で、ワーウルフの攻撃を受け続ける状況に陥ってしまっていた。


このままじゃクロウが死んじゃう!

なんとかしなきゃ……!


私が手に魔力を込めると、小さな立方体が生み出される。


聖女の儀式で得た私の魔法……。

こんなもの作れたところで……一体どうしたら……。


その様子を見ていたアイゼンは私に説明する。


「聖女様、貴方の魔法についての僕の考察を聞いてください。

その立方体は恐らくどんな性質の物体にでも変化することが出来る代物です。……【建築魔法スキルビルド】とでも名付けましょうか。

これを使えばどんな資材やアイテムもこの立方体から創作し、修復することが出来る……。まさに伝承の通り、再生の力と呼ぶにふさわしい能力だと言えます」


「それは確かにすごいと思うけど……今の状況じゃ何の役にも……」


「どんなものでも…と僕は言いましたよ。

聖女様が彼を助けたいと思う気持ちを敵にぶつけるんです、……そうすればきっと、この場を打開できるでしょう」


そ、そんな事突然言われても……!

困惑する私をよそにアイゼンは続ける。


「……スキルビルドは貴方の好きなタイミングで状態変化を起こす事が出来るはずです………貴方の腰に付けたランプは何で明るくなってると思いますか……後は、………分かりますよね……?」


私はそれを聞いて彼が思いついた事を察し、愕然とした。


マジで言ってるのかこの人は……?


……しかしなんと言ってもクロウの命の危機だ。……なりふりなんて構ってられないよね。


私はアイゼンの思惑通りランプを開け、可燃性の油を取り出し、立方体に染み込ませると、それを丁寧に揉み込む。


……そしてランプの中の全ての油を注ぎ込むと、油で濁った妖しい輝きを見せる物体が出来上がった。


私はそれを片手で握り込み、


「クロウ!槍から手を離して逃げて!」


そう叫んで、ワーウルフに向かって立方体を振りかぶって投げつけた。

立方体はワーウルフの身体にぺたりと引っ付き、そのごわついた体毛に絡みつく。


クロウはワーウルフがそれを取ろうと手を離した隙に、素早く態勢を下げ、大きく地面を蹴って遠くへと飛び込んだ。


「発破!」


私はクロウが逃げた事を確認すると、立方体に魔力を込め、立方体の性質を【高熱】に変化させる。


ーー瞬間。


迷いの森全体を大きく揺らすほどの大爆発が巻き起こり、


「ワァ〜〜!」


その爆風はワーウルフを一瞬にして、消し炭にした。

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