ヤバイ奴ら・・・に心の中でツッコむ俺
人見知りで無口な男がヤバイ奴らに心の中でツッコむ
■ナイフ
ペロペロ・・・
そんな擬音が聞こえてきそうな程、目の前にいる男はナイフを舐め回していた。
通称「ナイフ」と呼ばれる男は俺の方を見て「そいつが新入りか」と言い、
またナイフを舐め回した。喋る時以外はずっとナイフを舐め回している。
俺の隣にいる相棒が答えた。
「そうだ。こいつはジョーだ。名前くらいは聞いたことがあるだろう?」
ナイフが答える。
「ほう。あの舌抜きのジョーか。またの名をパーフェクトサイレンサー(完璧な沈黙者)」
そうだ。と相棒は答える。
ククク。とナイフは笑う。「あんたらはどんどん力を付けていくな。怖い怖い」とナイフを舐める。
「今日は簡単な挨拶だけさ。いつかジョーと組んで仕事をしてもらうかもしれないからな」と相棒は言う。
「ああ、早くお手並みを拝見したいもんだ」と満面の笑みでまたナイフを舐める。
「よし。次に行くぞ」と相棒は俺を促してナイフの元を後にする。
■俺の心の声
「ナイフ舐めすぎだろ!!!」
「鉄分不足なの?」
「舌とか口内大丈夫?切ったりしてない?」
「誰もナイフを舐め回してるのツッコまないの?」
「舌抜きのジョーって何?」
「パーフェクトサイレンサー(完璧な沈黙者)(笑)。ダッサ。誰だよそんなあだ名つけたの(怒)」
「絶対一緒に仕事したくないよ。ヤバすぎでしょ!!!」
「お手並みも何も、虫すら殺せないよ。暴力反対」
「え?相棒?次に行くって言った?まだあるの?もういいよ。帰ろうよ」
■次の場所への移動中
「さすがだな。ナイフに対しても動じずか・・・。お前の度胸には驚かされる」
「とはいえ、次の奴は少し癖がある。お前でも対処の仕方を間違えればマズいぞ」
■俺の心の声
「何にもしてないし、何にも言ってないんだよなー」
「さっきの奴でもうお腹いっぱいだよ?癖しかなかったじゃん」
「え?俺、死ぬ?」
■ガン
「よう。ガン」と相棒は目の前の男に挨拶した。
カチャ。カチャ。と音が鳴る方へ目を向けると、男がセルフロシアンルーレットをやっていた。
「久しぶりだな。俺に仕事かい?」と男は答える。
「いや、簡単な挨拶さ。新人だ。顔を覚えておいてくれ。あんたと組むかもしれない」と相棒が言う。
男は何も言わず、俺の方をじっと見ている。セルフロシアンルーレットをしながら。
「ふっ。良い目だ。修羅場を潜って来た奴の目だ」カチャ。カチャ。
「お前も聞いたことくらいはあるだろ?舌抜きのジョーさ」と相棒は何故かドヤ顔で言う。
「ほう。パーフェクトサイレンサー(完璧な沈黙者)様か・・・。なるほど、どうりで」と男は笑う。
突然、男がセルフロシアンルーレットを止め、引き出しから弾を取り出した。
そして、銃に弾を込め始める。男は弾が入っているであろう銃を俺に向けた。
俺は飛んだ(脳が考えるのを止め、死んだように動かなくなるやつ。※注。意識は飛んでいない)
どのくらいの時が流れたか、男は爆笑して銃から弾を抜き、座り直した。
またカチャ。カチャという音と共にセルフロシアンルーレットを始めた。
「さすがだ。文句なし。揺るぎが無い。OK!いつでも組ませてくれ。楽しみだ」と大満足だ。
「この程度じゃこいつの眉すら動かせないよ。その時がきたら連絡する。次だ」と相棒が言う。
去り際の背中にカチャ。カチャとセルフロシアンルーレットの音が響いていた。
■俺の心の声
「カチャカチャうるせーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
「なんでセルフロシアンルーレットやってんだよ」
「ふっ。良い目だ。じゃねえんだよ。どこ見てんの?節穴じゃん」
「修羅場潜ってないよ(泣)」
「何でみんな俺のあだ名(略)を知ってるんだよ。怖いよ」
「弾あるじゃん。弾を込めてセルフロシアンルーレットをやれよ」
「何で大満足してんだよ。絶対一緒に仕事したくないよ」
「眉どころか意識飛びそうでしたよ?」
「何で相棒がちょっと誇らしげなの?」
「え?次?」
■移動中の車内
「順調だな。この分なら予定より早く帰れそうだ」
「それにしても、銃を向けられても動じないか・・・ちょっとお前が恐ろしいよ」
■俺の心の声
「順調なの!?」
「早く帰りたい」
「意識飛びそうだったって」
「俺は相棒の方が恐いよ。ツッコまないの?」
■ヤク
「またやってんのか。大丈夫かよ?」と相棒が心配そうに言う。
目の前の男は白い粉を鼻からズーッと吸い、身体を痙攣させ、瞳孔が開いていた。
「キクぜ!このビタミン剤は最高だ!!」と男は言う。
「健康には注意しろよ。不健康そうだと取引相手に舐められる」と相棒。
「へっ。舐められたら舐め返すさ」と男は長い舌を出す。
「ボスから差し入れだ」と相棒は男に袋を渡す。
「ボス、感謝します。ボスに宜しく伝えてくれ」
「次の取引は未定だが、決まったらこいつと組んでもらうかもしれん。ちゃんと覚えておけよ」
「へー、どこのどなた様?」
「舌抜きの~(略)」
「へっ、へへ。あの・・・あんたがいればビビッて誰も裏切らないな。良い取引ができそうだ」
「さあ、行くぞ。あと二人だ」
「待てよ。あんた、本当に舌を素手で引き抜くのか?それと引き抜いた舌を保管してるってホントか?」
「おい。そんなことはどうでもいいだろ。忙しいんだ。もう行くぞ」
■俺の心の声
「ビタミン剤な訳ねえだろ!!!身体が痙攣して瞳孔がフクロウみたいになってたぞ!!!」
「あの袋の中身なんだよ。いや、知りたくないけど」
「まともな人おらんのか」
「もう俺のあだ名についてはツッコまない。疲れた」
「舌を素手で引き抜ける訳ねえだろ!!!ゴリラかよ!!!」
「保管してる訳ねえだろ!!!いらねえよ。金もらってもいらんわ!!!」
「もうネタ切れじゃね?あと二人もいんの?」
■移動中の車内
「疲れたか?あと二人だ。もう少しだよ」
「あいつは取引を専門にしていてな。交渉事に関してのプロフェッショナルだよ」
■俺の心の声
「疲れたよ。帰ろうよ」
「どうでもいいよ」
■ジェントルマン
今日会った中で一番まともな男が目の前にいた。
英国紳士というイメージにピッタリなスラッとした壮年の紳士だ。
杖で人を殴っていること以外は一般人と何ら変わらない。
「すいません。お仕事中に。どうしても会わせておきたい者がいたので」相棒は恐縮して言った。
「いえいえ、構いません。こちらこそ、こんな場所と恰好で申し訳ない」と紳士はお辞儀した。
「本来なら静かにティータイムでおもてなしさせていただくのだが、今は急ぎの仕事でして、お許しを」
「すぐに去ります。彼が新人の~(略)」
「これはこれは。嬉しい限りです。私の後任に相応しい人物だ。お名前はよくお聞きします」
「では、これで。お忙しい中ありがとうございました」
「ろくなおもてなしもせず、お許しを。是非、今度遊びに来てください。最高級のお茶とお菓子があります」
紳士の声を聞きながら足早に立ち去った。
■俺の心の声
「こえーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
「視界の隅で人が吊るされてボコボコにされてたんですけどーーー!!!」
「吊るされてる人、めっちゃこっち見てたんですけどーーーーーー!!!」
「めっちゃ助けてくれってメッセージ送ってたよ!!!」
「今までの奴らの中で飛び抜けてヤバいよーーーーーーーーーーー!!!」
「後任になれないよー。イカレすぎだよー」
「遊びに行かないよー。ちょっと興味あるけど行かないよー」
「何で最後の方にとんでもない奴来るんだよ」
「あと一人っていう目標があるから頑張れるよー」
■移動中の車内
「ふう。さすがに緊張したぜ。さすが、組織を支えてきた影の仕事人。迫力がダンチだ」
「お前は本当にすごいな。恐れを知らない」
「あの吊るされてた奴も可哀相に。早く情報を吐けば家に帰れるのに」
「さあ、最後だ。リラックスして良いぜ」
■俺の心の声
「やっぱりね。ヤバすぎるもんね。あの人。もう会いたくないよ」
「もう最初の段階で飛んでたよ。非日常すぎるもん」
「あの吊るされてた人、家に帰れるんだ。早く帰れると良いなー」
「よし。最後だ。マジで帰ろう。早く」
■前任者
「よう。どうだい。俺の後釜は?最高の人材だろ?」
「はい。あなたの後任が勤まる奴などいないと思ってましたが、俺より年下でこの度胸。嫉妬すらします」
「ははは。そうだろ?こいつは俺と出会った時もビビらなかった。ボスの右腕だった俺にもな」
「それにしても、ご病気が大分悪いとか・・・これから治療のために海外へ?」
「ああ・・・まあ、無理をしてきた代償さ。家族の為にも、ボスの為にも身を引いたのさ」
「安心してください。こいつは、いや、彼となら新しい組織を築いていけます」
「ふふ。気に入ったようだな。父上、いや、ボスにも宜しく伝えてくれ、仕えることができて良かったと」
「はい。必ず。ボス・・・いえ、父の最高の親友であるあなたの言葉を」
■俺の心の声
「疲れたよーーーーーーーーーーーーーー」
「もうどうでもいいいから帰ろうよーーー」
「感動の名場面のとこ申し訳ないけど・・・俺蚊帳の外だからつまんないよー」
「いや、俺この人のことほとんど知らないよ?」
「出会ってすぐに気に入られたけど、俺飛んでたし」
「相棒もとい、ボスの息子よ・・・組織は終わりだよ。俺なんかに期待するなよー」
fin.
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