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使役者は誰?

夜。

アストたち四人はアドルノの屋敷に集まっていた。

「なぜ『黄泉のドラゴン』がこんな街中に」

リカルドはテーブルを思いきり右のこぶしで叩いた。

「そうよ。東のダンジョンの九十九階層のエリアボスが、なぜこんな街中に」

パトリシアも困惑している。

この国の東にあるダンジョン。現在は冒険者たちも含めて完全に立ち入り禁止に指定されているダンジョンだ。

そこの地下九十九階層のエリアボスが「黄泉のドラゴン」だった。

まだアドルノ、リカルド、パトリシアの三人が軍に入隊する前に対決し、倒せなかった相手だ。アストがすでにハミルトン公国に出国した後のことである。アストがいれば簡単に倒せたかもしれない。

「まず、誰かに使役されていたと見て、間違いないだろう」

アドルノはリカルドとパトリシアに背を向ける形で窓の外の景色を見ながらそう答えた。外はもう真っ暗で、家々から漏れる明かりと、ところどころにかがり火が見える。

「そんな実力者がこの国にいるってのか?いったい誰が」

「倒すだけでも大変だというのに、捕まえて使役するなんて」

パトリシアは悔しそうに白い革のロンググローブの指先部分を歯で噛んで引っ張っている。

「おいおいパティ、手袋、伸びるぞ」

そう言ったのはアストだった。

「あ、もしかして、アストさんの自作自演?」

パトリシアは急に手袋を放すと、アストを指さして言った。

「は?どういうことだ?」

意味がわからん、とばかりにアストはげんなりしてパトリシアに向き合った。

「それはないだろう。アストは『黄泉のドラゴン』とは初対面。それにほんの数日前までハミルトン公国にいたんだぞ」

と言ったのはアドルノ。

「あ、そっかあ」

なんだか残念そうにパトリシアは舌をぺろっと出すと、どさっと椅子に座ってテーブルに両足を投げ出して足を組み、腕も組んだ。腕を組むと相変わらずはちきれんばかりに胸の谷間が強調される。今の彼女は軍服ではなく、胸元だけやたらと開いている白いレースのワンピースのドレスに着替えている。そして今回はスリットの間から真っ白な美しいふくらはぎもお目見えというわけだ。

「何がそっかあ、なんだよ」

「いや、あたし、アストさんが自分の力を見せつけるためにわざと『黄泉のドラゴン』を呼び出して自分で倒しちゃったのかと」

「そんな周りくどいことするかよ」

アストはバカバカしくなって右手で頭をかかえながら左手をバイバイするみたいに二度振った。

「アドルノ。心当たりはあるのか?」

リカルドが疑問を口にする。

「なにが?」

「だから、黄泉のドラゴンを使役した人間ってのが誰なのか、見当はついてるのか?」

「うーん、どうかな。使役させた人間が誰かはさすがにわからんな。あのモンスターをひとりで片付けるような人間だろう。我が国では、アスト以外にいないと思うが」

そう言うと、アドルノはメガネを取って、布でそれをふきふきと磨きはじめた。

「使役してた人物はわからんが、誰が呼び出したのかは、見当はつく」

「ほんとうか!?誰なんだよ、そりゃあ」

「今はまだ言えん」

「あ?なんだそりゃあ?もったいつけねえで、言っちまえよ!」

「そいつの正体が何者なのか確定してもいないのに、ベラベラしゃべるわけにはいかんよ」

「・・・やばそうなのか?」

「あるいは、な」

そう言うとアドルノもテーブル席に座った。それから両手の指を交差させてテーブルの上にひじをつき腕を顔の前にやると、その手の上の中指あたりにあごを乗せて何か考え事でも始めたようだった。

そうしてしばらくの沈黙ののち、再びアドルノは口を開いた。

「なあアスト。さっきの戦いだが、もしも鉄砲隊が十人ほどいたら、黄泉のドラゴン、倒せたと思うか?」

「鉄砲隊だけでか?」

アストは興味深そうに微笑をたたえてアドルノのほうを振り向き応えた。

「そうだな。鉄砲隊と、その指揮者がいたとしたら、指揮者次第じゃないか?」

「ほう」

「ドラゴンの体の部位のどこに鉄砲を撃てばいいか、適切に指示を出せるやつがいれば、あるいは倒せたのではないかと思うが」

「なるほど」

「あとは連携だ。十人なら十人が一斉に発砲したらダメだ。火縄銃は次の発砲までに時間がかかる。だから役割を分けて、翼をやっつけたら次はここを、そのつぎはここを、といった具合に役割を適切に分けて連携すれば、俺たちのような冒険者じゃなくても倒せたろうと思うよ」

「それを、君はひとりでやってみせたわけだ」

「まあ、そうだけど」

その返答にはアストは興味なさそうに憮然とした表情で右手をあげただけだった。

「ただ」

そう言うと、アストはアドルノのテーブルの向かいに座って、両腕を組み、前のめりになってアドルノのことを見つめた。

「もしも皮膚が固すぎて鉄砲玉ですらも通さないような個体が相手だったら、鉄砲隊でも倒すことは困難だったろう」

「・・・アスト。まるで東のダンジョンの最下層である百階層のエリアボスがどんなやつなのかを知っているかのような口ぶりだな」

「ん?そうか?」

アストはすっとぼけた。

次いで口を開いたのはリカルドだった。

「ところでよ、アスト。パトリックとの決闘は、おまえ、だいぶ手を抜いてただろ」

アストはリカルドのほうを振り向くこともなくうんざりした表情で目を閉じながら応えた。

「勘弁してくれよ。俺は攻撃魔法は使えないからさ。あれくらいしかできることはなかったってだけさ」

「ずいぶん余裕があるように見えたがな」

と言ったリカルドは嬉しそうだった。

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