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決着

「アスト!決着をつけようじゃないか!」

城壁から城下町の地面に着地したスチュワート卿は、アストに向かって言った。

アストも城壁から下の地面に降り立ち、スチュワート卿のあとを追った。

「撃てええ!」

そこへ。

ロズベルグ連邦の鉄砲部隊が、スチュワート卿を狙って発砲した。

銃弾はスチュワート卿の体をかすめた。

「ちっ!雑兵(ぞうひょう)ふぜいが!邪魔立てするな!」

スチュワート卿は急いで家屋の陰に隠れ、ロズベルグ連邦の兵士が集結している城門前から急いで逃げていった。

「ふはははは!アストよ!こっちだ!決着をつけようではないか!」

アストは家の屋根に飛び移り、スチュワート卿を追った。

瞬間、アストの顔面を光線が横切った。

スチュワート卿は右手に水晶玉を握っている。

「ふははは!気を付けたほうがいいぞ、アストよ!わたしは黄泉のドラゴンのようにはいかないぞ!」

家屋の屋根から屋根に飛び移るアストは、その言葉を聞いてあることを理解した。

「黄泉のドラゴンを使役していたのは、あなただったのか、スチュワート卿!」

「ご名答だ!はあ!」

そう言うと、スチュワート卿はまたしても水晶玉の攻撃をアストに繰り出した。

しかし東のダンジョンで視力をかなりよくしてもらったアストにとって、やや離れた場所にいるスチュワート卿からの攻撃は丸見えだ。簡単に攻撃を交わしてしまう。

スチュワート卿は、アストから見えない壁の位置に隠れた。

正直、屋根の上にいるのはあぶない。相手の視線から見て上にいるほうが見つかりやすいに決まっている。

アストは地面に降り立った。

「そこだーーー!」

スチュワート卿は水晶の攻撃を放った。

アストは横っ飛びでそれをなんとか交わし、地面に左手を付きながら、その体勢のままアストも水晶の攻撃を右手でし返した。

しかし狙いが定まっていないのでまるで当たらない。

アストも家屋に隠れて、スチュワート卿の動きを探った。

「くそっ!アストよ!出てこい!」

あたりにスチュワート卿の声が響き渡った。

「ギルドではいつも目をかけてやっていただろう?どうだ?なつかしいだろう?」

スチュワート卿は、アストがハミルトン公国にいたころに所属していたギルドの思い出話をし始めた。

「あのころ、おまえはしきりに水晶玉を使うのを嫌がっていたな。そんなことだからパーティーを追放されるんだぞ」

城塞の城下町の中、スチュワート卿の声だけが響く。

アストは、家屋の端に立って、通りを見回した。

スチュワート卿の姿は見当たらない。

「アスト!どうだ!?わたしと一緒に冒険者のパーティーを組まないか?わたしとおまえが組めば、この水晶玉の力で、世界を征服することだって、余裕でできるぞ!」

(バカな。あのひとは、いまごろ何を言っているんだ)

この言葉には、正直、アストは失望した。

ハミルトン公国において、伝説の冒険者として名を馳せたスチュワート卿。

その人物が、いまがどんな時代なのか、その時流も読めないとは。

そこで、どこかからアドルノの声が響き渡った。

「いたぞ!撃てええ!」

どうやら、アドルノが鉄砲隊を率いてスチュワート卿を狙いに来たようだった。

「おのれ!邪魔をするな!」

アストからはその姿は見えないが、スチュワート卿の焦る声がアストのいるところまで届く。

「第二段、撃てええ!」

だだだん!と鉄砲の音が響く。

「くそ!わたしはアストと勝負をしているのだ!鉄砲に用はない!」

スチュワート卿のその声は、アストの聞く限り、すぐ近くにあるものだった。

しかし、見渡す限り、スチュワート卿の姿は見当たらないが、すぐ近くだ!このすぐ近くにスチュワート卿はいる!

どこだ!


・・・・・・


そうだ!


「撃てえええええええ!!!」

アストは力一杯に叫んだ。

それは、鉄砲隊に発砲を命じる、アストの偽の命令だった。

「くそっ!」

スチュワート卿は、アストの見ている、斜向かいの家屋の陰から姿を現した。

アストの見ている光景は、スローモーションのように、ゆっくりと見えたに違いなかった。

スチュワート卿は、アストからわずか三、四歩先のところを横っ飛びに移動しているところだった。

アストは、右手の水晶玉を、スチュワート卿に向かって、突き出した。

その一撃は、スチュワート卿の胸を直撃した。

(し、しまった!距離が近すぎた!)

アストは気合いが入っていたせいか、後先考えずに攻撃をしてしまっていた。

スチュワート卿は思いきり吹っ飛ばされ、地面の上を、かなりの距離まで引きずられていった。

アストは急いでスチュワート卿のもとに走り寄った。

その間もスチュワート卿の姿を見ていたが、彼はまったく微動だにしなかった。

アストは、スチュワート卿の体を見下ろした。

彼の胸の真ん中には大きな穴が空いていた。もはや蘇生魔法をかけても手遅れであることは明白だった。

スチュワート卿は仰向けで大の字に地面に寝ており、かたわらには水晶玉が放り投げられてある。

スチュワート卿はうつろな目で空を見ている。

「あ、アスト・・・よ・・・わたしの・・・負けだ」

スチュワート卿は、少しだけならしゃべることができるようだ。

「す、スチュワート卿!」

「おまえの作戦勝ちというわけだ・・・」

「スチュワート卿・・・」

アストはそれ以上、何も言うことはできなかった。

「おまえと・・・わたしが組めば・・・世界を手に入れられたものを・・・」

「それは無理ですよ。スチュワート卿」

それには明白に、アストは拒絶の姿勢を見せた。

「なぜだ・・・最強の水晶使いが・・・ふたり・・・いれば・・・」

「もう我々冒険者の時代ではないんですよ。いまもあなたはわたしに負けたのではない。鉄砲に負けたんですよ」

「鉄砲に・・・?」

「これからの戦いは総力戦の時代です。国民ひとりひとりが戦う時代です。機械技術もどんどん進歩している。何十丁もの鉄砲の前では、我々の水晶の力も、大したことはないのですよ」

「ふ・・・そ・・・そうか・・・」

スチュワート卿は目をつぶった。

「アストよ・・・あの世で・・・待っているぞ・・・」

そう言うと、スチュワート卿は何も言わなくなった。


「アストおおおおお!」

アドルノの声だ。

アストは後ろを振り返った。

「アドルノ!」

「アスト!スチュワート卿は?」

「ご覧のとおりさ」

アドルノは無言で、胸に大きな穴の空いたスチュワート卿の死体を見下ろした。

「アドルノ。君の言うとおり、このひとは水晶使いだったんだな」

「ああ、そうだ。この戦にも参加しているかもしれないとは思っていたんだが」

「アストさーん、アドさーん」

その声はパトリシアだった。

「おう、パティ!」

アストがそう声をかけると、パトリシアはアストのもとにたどりついた瞬間、嬉しそうにその場でちょっとだけジャンプした。

しかし、その直後にスチュワート卿の死体を見てしまった。

「うわ!・・・これ、アストさんがやったの?」

「あ・・・ああ。本当はここまでするつもりはなかったんだが。攻撃の距離が近すぎてね」

「やれやれ。これで終わったのか、アドルノよ」

いつのまにか近くまで来ていたリカルドが言った。

「ああ。戦いは終わったよ。城塞の敵軍はすべて降伏したよ」



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