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西海一の魔法使い

リカルドが城壁の上を移動していると、さきほどアストたちの前から逃亡したヒュルケンが立っていた。

ヒュルケンはアストを追放した冒険者パーティーの一員だった者のうちのひとりだ。

「あ、あんたは、西海一の薙刀使い!」

ヒュルケンは明らかに狼狽している。

リカルドは横目だけでヒュルケンを見ると、ドスの聞いた声で返事をした。

「その『西海一』ってのは、いちいち必要ねえよ」

「く、くそ!かかってこい!」

ヒュルケンは右手と左手で小さなボールを抱えるように手の形を作ると、それを右の腰あたりで構えた。魔法を放つ準備だ。

「もう戦はこちらの勝ちだ。逃げちまっていいんじゃねえか?」

「この城塞が落ちたら、どうせハミルトンは終わりだ。だったら、いさぎよく、ここで死ぬ!」

ヒュルケンはほとんど叫びに似た声をあげた。

「命を粗末にせず、降伏しろ!」

「はあ・・・スーパー・・・」

ヒュルケンは魔法を詠唱し始めた。

「ちっ!仕方ねえなああ!」

リカルドは獣のような声を放つと、薙刀を一気に振り下ろした。

「うわ!」

あまりの速さにヒュルケンはかわすというより、リカルドの薙刀の風圧で後ろに吹き飛ばされたような格好になり、尻餅をついた。

「あいたた・・・ひっ!」

ヒュルケンの首もとに、リカルドの薙刀の刃先が突き付けられた。

「おとなしく降伏しな。逃げずに戦っただけで、あんたは立派だったよ」

「う・・・うう・・・」

ヒュルケンは目に涙を溜めながら、両手をあげて、降伏の意を示した。


+++++



同じころ、城壁の内側の下に下りてからしばらく歩いていたパトリシアの元に走り寄ってきた人物がいた。

「パトリシア・ベロフ!勝負だ!」

そういったのは、木の枝のような杖を持ち、縦に長い帽子をかぶった緑色の軍服を着た女魔法使い、ソフィアだった。さきほど一旦パトリシアたちとの戦いを避けて逃げた魔法使いだ。

パトリシアは仁王立ちで右手を前に構えると、返事をした。

「出たね!東海一の魔法使い!ソフィア・キエーサ!」

「パトリシア!勝負!」

そう言うと、ソフィアは後ろに下がりつつ、魔法を詠唱した!

「アルティメット・ファイアボール!」

それを、水系魔法で消し去るパトリシア。

「スプラッシュ・ブロッケード!」

ソフィアはさらにあとずさった。

パトリシアはあとを追う。

「待ちなさい!ソフィア!」

「さすがに西海一の魔法使い!いまくらいの攻撃じゃ屁でもないみたいね!」

「パティ!加勢するぞ!」

パトリシアが声のしたほうを向くと、そこには鉄砲隊、十数人を従えたアドルノが立っていた。

アドルノは発砲を命じた。

「第一段、撃てええ!」

ががーーん!

鉄砲の玉がソフィアの体をかすめる。

「ぐっ!卑怯だぞ、パトリシア!わたしとあなただけの勝負のはず!」

「ソフィア!」

パトリシアは困った表情をした。パトリシアの声にはどこかソフィアに対する同情の感情が読み取れるようだった。

「第二段、撃てええ!」

またアドルノの声がすると、通りの向こうから鉄砲隊の二段目がソフィアに向かって火を吹いた。

またしても銃弾がソフィアの体をかすめる。

ソフィアはパトリシアと鉄砲から逃げ回っているだけだった。

「第三段、撃てええ!」

通りの奥からアドルノの声がひびくと、またしても銃弾はソフィアの体をかすめた。

「あっ・・・」

ソフィアは、パトリシアから逃げつつも、地面の凹凸につまずいて、バランスを崩した。

「いまだ!マッド・ブリザードおおお!!!」

パトリシアの氷系最強魔法が炸裂した。

ソフィアはこれをまともに喰らい、顔の口許だけが凍らずに済んだだけだった。あとは全身が氷づけになった。

「ひ・・・卑怯だぞ・・・パトリシア・・・わたしと、あなたの、対決・・・を・・・」

立ったまま凍っているソフィアに向かって、パトリシアは悲しそうな表情で応えた。

「ソフィア。わたしたち冒険者の時代は終わったんだよ。これからは、今みたいな総力戦の時代なんだよ」

そう言うと、パトリシアは、凍ったままの、ソフィアの右手を、その場にひざまずいて、握った。

「ごめんね・・・でも。あたしにも、どうしようもないの・・・」

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