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セバスチャン要塞攻略戦・後編

アストたちはしばらく休憩をとることにした。

セバスチャンの地下要塞からは、依然として味方の負傷者が次から次へと収容されてゆく。

しかし敵も中で生き埋めになって、身動きがとれなくなっていると、アドルノは言っていた。

おそらく地下要塞の敵兵たちは、地下通路を通って後方のセバスチャン城塞に後退しているのだろう。

味方の激しい砲撃によって、遠く前方に見えるセバスチャン城塞にも敵に被害が出ているらしかった。

とはいえ大砲による攻撃だけでは城塞を完全に攻略することはできない。

味方の移動砲台と鉄砲部隊、弓矢部隊、騎馬隊、歩兵部隊はそれぞれに前進してゆく。

すでにこちらはアストの攻撃によって、敵の大砲はほぼ破壊しつくしてしまった。

地下要塞も基本的には敵のおかげで無力化に成功したようなものだし、このまま城塞まで倒すことはできそうな気がする。

アストはなんとなく安堵していた。


移動式の大砲とその他の部隊はそれぞれ前進しつづけ、城塞の城壁にも味方の大砲の玉が当たるようになってきた。

その姿を、アストたちは大砲の車列のやや後方から見守っている。

もはや敵は城塞にこもってしまったらしく、平原に動いている敵兵はほとんど見当たらなくなっていた。

これでアストたちの役割は終わったのかもしれない。


アストがそう思っていた矢先・・・


突如として、ある味方の一台の大砲が破壊された。

アストはその一部始終を見ていた。

今の一撃は・・・


アストが何かを思案しようとした直後に、また別の砲台が、一直線に敵の城塞から放たれた光線によって破壊された。

(これは!いったい!?)

アストはその光線を見て半信半疑ながらも確信に近いある思いを抱いていた。

(まさか。スチュワート卿の水晶玉か?)

またもう一台、味方の砲台が一直線に伸びてきた光線によって破壊された。

馬上のアドルノは驚き、大砲の車列に対して命じた。

「大砲は敵の攻撃の届かない位置まで下がらせろ!」

途端に移動式の大砲を動かしていた兵士たちは、回していた車輪を逆に回し始めた。

破壊された砲台は炎をあげており、この間もまた、別の砲台が光線によって破壊されていった。


わずか数分の間に四門の大砲が破壊された。

その後は、光線の攻撃は大砲に当たらなくなった。

射程距離が足りないのかもしれない。

とはいえ、偶然当たる可能性もありうるので、アドルノは大砲をさらに後方に下がらせた。

ただし、これだけ大砲を下がらせると、こちらから城塞への砲撃もあまり当たらなくなってくる。

事実、城塞への攻撃はあまり効果をなさなくなってきた。

城塞からは、大砲に光線が当たらなくなってきてからも、なおもたまに光線が放たれてくる。


アスト、アドルノ、リカルド、パトリシアたちは一箇所に集まった。

アストは言う。

「アドルノが以前に言っていたとおりなのか。スチュワート卿の水晶玉による攻撃かもしれない」

アドルノは冷静だ。

「嫌な予感はしていたが、やはりこの戦いに参戦していたか」

パトリシアはこれからのことを言った。

「ねえ、これって、どうすればいいの?」

リカルドは具体的なことを言った。

「とりあえず、もう大砲には当たらなくなったみたいだから、砲台のうしろに味方を隠したほうがよくないか?」

確かに。セバスチャン城塞とロズベルグ連邦の城壁の間には平原が広がっており、遮蔽物になるようなものは基本的に何もない。

このままここで待っていても、ただ敵の攻撃にさらされるだけだ。

アドルノはリカルドの提案を受け入れた。

「わかった。皆の者!大砲の後ろに隠れろ!ただし敵の攻撃が大砲に当たる場合もありうる。大砲から少し距離を取って隠れるんだ!それから指示を待て!」

アドルノがそう言うと、すべての部隊はそれぞれ近くに展開してある砲台の後ろに隠れることにした。

アストはアドルノに尋ねた。

「アドルノ。これからどうするんだ?」

「それよりもアスト。あれはやっぱり、君と同じ水晶使いの仕業と思うか?」

「・・・正直、それはわからんよ。でも、光線の軌道は、俺のものとそっくりだ」

「水晶ではないかもしれない。少なくとも、なんらかの強力な力を持った冒険者が向こうにいるのは、間違いないな」

「ああ。で、これからどうするんだ?」

「タイミングを見て突撃するしかないだろうな」

「本気か?さっきの攻撃の中をか?」

「あの攻撃の弱点は、一点にだけしか攻撃できないってことだ」

「そうだが。味方の被害も相当なものになるぞ」

「それは覚悟の上だ。これは戦争なんだぞ。すでに地下要塞ではかなりの被害が出ているしな」

「そ、そうだが」

「あの水晶使いか何かの敵がいる位置は、今の攻撃を見ていてわかった。そこに向かって、こちらの大砲を集中的に攻撃させる。それからアスト。君もそこに向かって水晶を撃ちまくってくれ」

「いくら俺の目がよくなったといっても、この距離じゃ敵がどんなやつなのかも判別はできないぞ」

「だから近づくのさ。大砲で集中砲火を浴びせ、同時に君の攻撃を浴びせれば、敵はほとんどこちらに攻撃できなくなるだろう。その間にこちらの部隊を前進させるんだ」

「な、なるほど」

「パトリシア。君は引き続き敵の鉄砲部隊が出てきたら、そいつらに水をかけてやってくれ」

「オッケー」

パトリシアは、腰に両手を当てて答えた。

「リカルドはあとからゆっくり来てくれ」

「ちっ。しょうがねえな。俺は飛び道具が使えないからな」

リカルドがそう言った直後、アドルノは命令を出した。

「皆の者!さきほどの攻撃は見たな?これより大砲部隊はすべてさきほどの敵の位置に対して砲撃を開始!砲撃しながら前進するんだ!右から順番にわたしが命じたら一門ごとに大砲を撃つように!しばらく前進し、わたしが『突撃!』と言ったら、すべての部隊は城塞に向かって突撃を開始するんだ!いいな!?」

アドルノがそう言うと、「おーー!」と、兵士たちの鬨の声が上がった。

「よし!まず一番右の大砲から撃て!さきほどの攻撃を仕掛けてきたやつのいた場所を狙え!他の砲台は前進!」

どがん!

まず一番右の大砲が砲撃を開始した。

しかし、まだ正確にさきほどの敵の位置に当たる距離ではなかったようだ。

敵からまたこちらに光線が発射された。

しかし、その光線もこちらには当たらない。

「撃てー!」

アドルノが言うと、最初に砲撃した大砲の左隣の大砲が次の一撃を放った。

これも外れたらしい。

そして同じように敵からもさきほどの光線が放たれた。

敵からの光線が放たれる瞬間、光の位置が一瞬だけ見える。そこが件の敵のいる場所を示している。

敵はさきほどの位置から移動していないようだ。

「撃てー!」

アドルノがそう言うと、三番目の砲台がさきほど光った敵の攻撃の位置に向けて砲撃を放った。

同じようなことを何度か繰り返し、ついに敵の光の攻撃の位置に、正確にこちらの砲撃が当たるようになった。

それに対して、敵からも光線の攻撃が反撃として繰り出される。

その攻撃はこちらの大砲の一門を破壊してしまった。

味方の砲撃が敵の光の部分に正確にヒットすることを見てから、アドルノは命令を出した。

「大砲部隊は一斉にあの光の位置に向かって砲撃を開始しろ!休まず撃ちまくれーーー!!」

味方の砲台が一斉に火を吹いた。

敵城塞の一箇所だけから、ひたすらに爆発が起こり、そこだけ煙がもうもうと立ち込めている。


アドルノは叫んだ。

「突撃ーー!」

「うわあああああ!!」

味方の部隊は一斉に飛び出した。

その間も味方の砲撃はつづいている。

敵からの光線の攻撃は、たまに繰り出されてくるが、まったくこちらの大砲にヒットしない。

味方の大砲の攻撃は休まることはない。

城塞のある一点だけが激しく壊され、石垣が崩れて城塞の真下にまで瓦礫の山を形成していった。


味方の部隊はそのほとんどが敵の城塞のすぐ近くまで到達した。

遅れてアスト、リカルド、パトリシアも続いてくる。

敵の大砲はアストの攻撃によってほぼ無力化されている。

一部だけ残っているようで、たまに砲撃を受けるが、ほとんど味方の被害に影響していない。

城塞に近づいた味方に対して、敵は鉄砲隊が攻撃を仕掛けてくる。

それには、味方の鉄砲隊、弓矢隊が応戦する。

パトリシアはリカルドに提案をした。

「まだ城壁の上には鉄砲隊がたくさんいるよ!リカルド!あたしを上まで投げて!」

「は?そんなことしたら、おまえが鉄砲にやられちまうかもしれねえぞ」

「撃たれたら、アストさんに治療してもらうから」

「おいおい、致命傷になったらどうするんだよ」

「大丈夫だって。たぶん」

「わかったよ」

そう言うと、リカルドはパトリシアを大きな丸太を持つみたいにして脇に抱えた。

「どおりゃああ!」

アドルノはパトリシアを城塞に向かって投げ飛ばした。

「スプラッシュ・ブロッケード!」

パトリシアは投げ飛ばされながらも、空中で魔法をとなえると、城壁にいる多数の鉄砲部隊の火縄銃を水で濡らしてしまった。

パトリシアが鉄砲部隊を無力化したあたりからだけ、鉄砲は撃たれなくなってきた。

そこへ、味方の兵士がカギ縄をひゅんひゅんと回しながらそれを投げ、城壁にカギを引っかけ、よじ登っていった。


そこへ、アストと同じような水晶の攻撃が何発も撃ち込まれた。

城壁にカギを引っかけた兵士はその光線の攻撃に胸のあたりを撃ち抜かれ、落下していった。


さきほどから光線を放っていた敵が場所を移動したようだ。

「敵は移動したぞ!あそこへ向かって大砲を撃て!」

大砲を撃っていた連中は、大砲の角度を変え始めた。

しかし、その間にまた光線が大砲に撃ち込まれ、二台の砲台がやられた。


城壁にカギを引っ掛けた兵士は絶命したが、カギはまだ残ったままだ。

それを、別の兵士が手に取る。

さらに別の兵士たちも続々とカギ縄を城壁に引っかけていった。

敵の鉄砲部隊はカギを引っかけられた場所へ移動を開始したようだが、それら敵の鉄砲部隊はこちらの鉄砲隊の的になった。

城壁の上にいる敵の鉄砲兵は、城壁下にいた味方鉄砲部隊の砲撃によってどんどん倒れていく。


砲塔の角度を変えた大砲部隊は、再度、水晶の攻撃を繰り出す敵のいる位置に向かって砲撃をさんざんに放った。

それにより、またしても敵からの光線の攻撃はほとんど放たれなくなった。


そして、ついに味方のひとりの兵士が城壁の上に立った。

それを阻止しようと、剣で向かってくる敵に対して、下の弓矢隊からの援護があり、最初にのぼりきったその兵士は命を取り留めた。

やがて次から次へと城壁の上に到達した兵士が現れるようになった。

下からは弓矢と鉄砲による援護。

そして上では城壁にとりついた兵士が、上で敵と肉弾戦を繰り広げるようになった。

その兵士たちの背中に向かって、またしても光線による攻撃がヒットするようになった。

光線の攻撃者はまたしても位置を変えたようだ。

アドルノは指示を変えた。

「大砲部隊は敵の城門の回りに一斉に砲撃を開始するのだ」

アドルノの声を聞き、大砲の射手たちはまたしても砲塔の角度を変えると、今度は城門の周りに砲撃をし始めた。

城門の周りにいる敵の兵士たちは途端にやられまくった。


一方、光線を出す敵の正体もわかるようになってきた。

敵の砲撃による煙がなくなり、また味方が城壁のすぐそばまでやってきたので、その姿がついにわかるようになったのだ。

アストはやや遠くから、その姿を確かめた。

「あれは!スチュワート卿!」

それはかつて、アストが追放されたときに所属していたギルドのギルド長だった。

ギルド長のスチュワートは、アストのことをかなり買っていた。

いまそのスチュワート卿は、右手に持った水晶から光線を発射している。

一瞬見えたスチュワート卿の姿だったが、味方からの鉄砲の攻撃を避けるために、壁に隠れてしまった。

(やはりスチュワート卿だったのか・・・)

アストは呆然としていた。

が、はっと我に返ると、右手に水晶玉を持ち、スチュワート卿のいる位置に対して水晶の攻撃を開始した。


味方の兵士はついに城門のあたりに近づいていった。


「撃ち方やめー!」

アドルノは大砲部隊に命じて砲撃を中止した。

城壁の上に達した兵士たちは、城門のある前までおりていき、城壁の中の城門前は味方と敵の入り乱れる乱戦となった。


アストも跳躍し、スチュワート卿の姿をとらえようとした。

アストは城壁によじのぼり、そこからさらに高く跳躍すると、眼下にスチュワート卿の姿をとらえた。

アストはスチュワート卿に向かって光線を放った。

その瞬間、スチュワート卿はアストに気づき、城壁の固い床の上を寝ながら横に回転し、アストの攻撃を避けた。

スチュワート卿はアストに対し、右手に持った水晶玉をアストに見せつけるようにして大声でしゃべった。

「アストよ!久しぶりだな!」

アストは城壁の上にすたっ、と着地した。

「スチュワート卿!あなたも水晶使いだったのか!?」

スチュワート卿。

ハミルトン公国の他の仕官とは違って、真っ白な服に、肩に黄色の飾緒かざりおをつけ、赤いマントを風にはためかせている。

男にしては肩まである長い髪で、くちひげとあごひげをたくわえている、背の高い大男だ。

「アスト。君がハミルトンから逃げたと聞いて、わたしは焦ったよ」

「わたしは逃げたわけじゃない!マックスたちに追放されただけです」

「ふふふ。そんなことはどうでもよい。わたしが懸念したとおりだったよ。ご覧のように、我がハミルトンはもうおしまいだ」


そこで、アストの後方でどかん!どかん!と何発もの爆発音がした。

城塞の中にある街の中から、何ヵ所も煙が立ち上っている。

そしてすぐに、槍や剣を持った兵士が城門に向かって走ってゆくのが見えた。

「ふふふ。どうやら、貴様たちの軍師の仕業のようだな」

スチュワート卿のその言葉でアストは理解した。あの爆発は、アドルノが事前にハミルトン公国に忍ばせておいたスパイたちだ。

「アストさん!」

そこへ、アストの元に現れたのは、パトリシアだった。

リカルドも城壁を内側からのぼって、アストの元に到達した。

「アスト。城門は開けちまったぜ」

「そうか。やったな」

アストは笑顔で応えた。

「アスト。こいつは・・・」

リカルドはアストと対峙しているひげを生やした白い服の男について尋ねた。

「スチュワート卿。俺と同じ、水晶使いだ」

「こいつが!?」

リカルドは薙刀を両手で構えた。

「あんたがさっきからの攻撃のひと?」

パトリシアも驚いて、右手を構えた。

スチュワート卿はニヤリと笑った。

「そうか。おまえたちだな。西海一の魔法使いに、薙刀使い」

スチュワート卿は整然と直立のまま、右手の水晶をアストたちに向けた。

アストも直立でスチュワート卿に尋ねた。

「あなたですね?我が国の東のダンジョンの九十九階層のボスを倒し、百階層のボスに水晶を使えるようにしてもらったのは」

「ふふふ。知っていたのか、アストよ。わたしは、君の、まあ、いわば親戚だよ。遠いな」

「親戚!?」

アストだけでなく、パトリシアもリカルドも目を丸くした。

「もう百年以上前さ。ハミルトンとロズベルグが平和だったころ、わたしの先祖がハミルトンに移住したのさ。元々わたしとおまえは親戚同士。つまり、わたしは元々水晶を使える素質があったのさ。しかし、素質が多少ある程度では水晶使いにはなれないらしい。わたしは水晶使いの末裔だが、実際には水晶は使えなかった。だからあの百階層のボスに願いを聞いてもらったのさ」

アストたちとスチュワート卿のあいだにしばしの沈黙が流れる。

「地下要塞の砲撃を受けても、まさか生きているとはな。意外だったよ、アスト」

「じゃあ、まさか。あの地下要塞の作戦は」

「そうさ。俺が参謀のやつらに教えてやったのさ」

「そ・・・そうだったのか」

アストがそう言うと、スチュワート卿は腰を低くして、水晶を前に構えた。

「さあ、決着をつけようぜ、アスト」

そう言うと、スチュワート卿はジャンプし、城壁の内側へと降りていった。

アストはスチュワート卿が何を考えているのか直感で理解した。

城壁の上では味方からの大砲の攻撃に晒されるかもしれない。

それを避けるために、下に下りたのだ。

「えいえいおおおおおおおお!」

後ろでは味方の兵士たちが勝鬨をあげていた。

セバスチャン城塞は、ここに陥落したが、まだ、最後の決戦が残っていた。


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