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セバスチャン要塞攻略戦・中編

パトリシアは地下要塞周辺に終結しつつあった敵の鉄砲部隊のあらかたを無力化することに成功した。


地下要塞からは、負傷者が次々に運び出されてくる。

パトリシアは基本的に攻撃系の魔法しか使えない。

手当てしてやれないのがもどかしかった。


「そこのひと!名のある魔法使いと見た!いざ!勝負!」

パトリシアは声のしたほうを見た。

そこには、背の低い、緑色の軍服を着た女が立っていた。

右手には、木製の、ちょっとみすぼらしい、まっすぐだがところどころちょっと曲がっている武骨な杖を持った女性が立っていた。

「あんた、名前は!」

パトリシアは名指しされたので、相手に名前を聞いた。

「わたしの名はソフィア・キエーサ。あなたの名前は?」

「そ、ソフィア・キエーサ!ということは、あんたは!」

パトリシアはすぐにでも魔法を詠唱できるように、右手を前に突き出した。

「なに?」

「東海一の魔法使いと言われる、ソフィア・キエーサ!?」

「ふふ。よく知ってたね。それで、あなたの名前は?」

「あたしの名は、パトリシア・ベロフ!」

「な、なに!?」

ソフィアは一歩うしろにあとずさった。

「あ・・・あなたが、あの・・・西海一と言われる、大魔法使い!!ぱ、パトリシア・ベロフですって!」

「そうよ!そっちこそ、よく知ってるじゃない!」

「パトリシア・ベロフ・・・ロズベルグにいたのね・・・」

ソフィアはさらに一歩あとずさった。

「あ・・・あ・・・パトリシア・・・ベロフ」

パトリシアは眉間に皺を寄せて、右手のひじを左手でにぎると、右手の平をソフィアに向けて突き出した。

「どうしたの!?ソフィア・キエーサ!東海一の魔法使いでしょう!ここで出会ったのも運命!西と東の魔法使い同士!さあ、決着をつけよう!」

「くっ・・・」

ソフィアはさらにうしろに飛び下がった。

「あ、ソフィア・キエーサ!どうしたの!?」

パトリシアは右手をさげて、その場に仁王立ちになった。

ソフィアはつぶやいた。

「こんなところでこんな大魔法使いと戦うわけにはいかない!いまは、味方を助けないと!」

ソフィアは言った。

「勝負はあずけた!」

そう言うとソフィアはパトリシアから遠くに逃げ去ってしまった。

「あ、あれ?なんだよあいつ。ひとのこと呼び止めておいて、行っちゃった」

パトリシアはその場で呆然とソフィアが去っていくのを見守っていた。

「なにしてるんだ、パティ!ぼーっとしてんじゃねーよ」

そう言ったのは、つい今しがたパトリシアの元までやってきたリカルドだ。

「あ、うん。ごめん。なんか、大魔法使い様に声かけられてさ」

「大魔法使い様?だれだそりゃ?」

「ソフィア・キエーサ」

「なに!あの東海一の!?で、どうなったんだ?」

「あたしの名前を聞いたら逃げちゃった」

「ああん?大魔法使い様じゃなかったのか?」

「いや、味方を助けないといけないとか言って、逃げちゃった」

「ははは。しっぽを巻いて逃げたってか。おまえの名前を知って逃げるってのは、なかなかやるじゃないか。自分の実力もわからないバカじゃないってことだな」

「もう!そんなことどうでもいいよ。それよりアストさん知らない?」

「知らねーよ。まだ大砲を壊してるところなんだろ」

リカルドは敵の兵士をなぎ倒しながらそう言った。


+++++


そこへ。

「そこの戦士!名のある人物と見た!名前はなんという!」

「ああん?」

リカルドが声のしたほうを向くと、そこにいたのは。


マックスだった。

「なんだあ、おめえ?おまえから名乗れや」

リカルドは低い声をすごませてつぶやいた。

「はん!なら名乗ってやるよ!俺の名前はマックス・ガートナー!今からおまえを倒す!」

「ふん。おまえみたいなしょぼいやつに負けるわけねーだろ。」

リカルドは表情ひとつ変えず答える。

「言ったな!さあ!俺は名乗ったぞ!おまえの名前は?」

「しょうがねえな。俺の名は、リカルド・ベルガー」

「リカルド・ベルガー!!」

マックスは叫び、あとずさりすると、黙ってしまった。

ずっとそばで聞いていたパトリシアは小首をかしげた。

「どしたの、このひと?」

「さあ」

リカルドは興味なさそうにつぶやいた。

「西海一の薙刀使いという、あのリカルド・ベルガーか・・・」

マックスはさらにあとずさりした。

「ほお。俺の名前を知ってるのか。こいつはありがてえね」

「どうしたの、マックス?」

そこへ駆けつけたのは、マックスと同じく、アストを追放したミランだった。

「り、リカルド・ベルガー・・・あんたが・・・」

「え?リカルド・ベルガーだって!?」

ミランもその名前を聞いて驚いている。

そして、ミランもリカルドの横にいる魔法使いに気がついたようだった。

緑色の軍服の胸の部分だけなぜか露出させた、上にアーマーを着ているツインーテールの女魔法使い。

「あ、あんたも名のある魔法使いじゃない?名前はなんていうの?」

パトリシアは面倒くさそうに唇をゆがめて、

「自分から名乗ればあ?」

と言った。

「くっ!なんか腹立つやつ!あたしの名前はね、ミラン・エリックっていうのさ」

ミランは女戦士だ。剣を両方の手で持って構えると、それをパトリシアに向けた。

「さあ、名乗ったよ!あんたの名前は?」

パトリシアは自分の右手で右耳うしろのツインーテールの片方をたくしあげて言った。

「あたしの名前は、パトリシア・ベロフ!」

「ぱ、パトリシア・ベロフ!」

そのあとはマックスが言った。

「そっちも西海一の魔法使いだって!?」

マックスも、ミランもあとずさりした。

「くそ!こんなところでこんな強戦士と、大魔法使いに出遭うなんて!」

「・・・」

リカルドは何も言わなかった。相手が戦う気がないなら見逃してやろうと思っていたからだ。

だいたい今回の戦は冒険者との戦いが目的ではない。セバスチャン要塞を陥落せしめることこそが目的なのだ。

であるならば、無駄な戦いは避けたいところだが。

「くそーーー!」

マックスはいきなりリカルドに向かって剣を突き出した。

それを、ひょいっと、いとも簡単に避けるリカルド。

ミランもパトリシアに対して剣を突き出した。

しかし、パトリシアもそれを簡単にかわしてしまう。

それからもマックスとミランは攻撃を繰りだし、あっさりとそれをいなされる、ということを繰り返した。

そうこうしてるいるうちに、アストがその場に戻ってきた。


+++++


「リカルド、パティ!」

アストは大ジャンプから着地をすると、ふたりに声をかけた。

「おお、アスト!」

「アストさん!」

「アスト!?」

「アストだって!?」

リカルドとパトリシアがアストの声かけに応じ、それを聞いたマックスとミランがその話し声に割って入った。

アストはいきなり声をかけられたので、ふたりのことを見た。

「あ・・・おまえたちは。マックスに、ミラン!」

マックスとミラン。アストが以前に冒険者のパーティーを組んでいた相手だ。

アストは当時をなつかしんでいた。

ちょっと笑顔になりそうだったが、戦闘中なので自制した。

その代わり、返事だけはしてやることにした。

「や、やあ。マックス。さっきも会ったな。それにミラン。元気だったか?」

アストは動揺を隠せないでいた。

アストの声を聞き取ったリカルドは、アストに尋ねた。

「アスト。このふたりのこと、知ってんのか?」

「あ、ああ。まあな・・・」

いつもと様子の違うアストを見て、リカルドは何かを察したようだった。

「そうか。そういうことか。なら遠慮はいらねえかもな」

リカルドは大薙刀を両手で持つと、マックスの前に仁王立ちになった。

マックスはたじろいだ。

そこへ、またひとり、ある人物が現れた。

小走りにその場にやってきたその人物は、同じくアストを追放したメンバーのひとり、ヒュルケンだった。

「マックス!ミラン!何をぼーっとしているんだ、いまは戦闘中だぞ!」

そこまで言って、ヒュルケンはアストと目が合った。

当時、ヒュルケンはアストを追放することに反対はしなかったが、かといってそこまでアストのことを非難する気にもなれなかった。どちらかというと中立的な立場であった。

「あ、アスト!」

「やあ。まさか、ヒュルケンまでやってくるとはね・・・」

アストはなおも動揺を隠せない。

「アスト。無事だったのか」

ヒュルケンは少しだけ嬉しそうに、口許に微笑をたたえた。

ヒュルケンは尋ねた。

「アスト。君の隣の二人は、いったい何者なんだ?」

ヒュルケンからは、口許の微笑が消え、ただならぬ雰囲気をまとった隣のふたりのことが気になるようだった。

「あ、ああ。俺の仲間だよ」

「リカルド・ベルガー」

「同じく、アストさんの仲間。パトリシア・ベロフ」

リカルドとパトリシアは仁王立ちのまま真面目な顔でそう答えた。

「リカルド・ベルガーに、パトリシア・ベロフだと!?」

ヒュルケンは一歩さがり、さらに二歩うしろにあとずさりした。

「ロズベルグ連邦にはそんなやつらが参戦していたのか」

ヒュルケンは額に汗をかいていた。

「おい、アスト。こいつら、おまえが前に言ってた、やつらだろ?」

リカルドはその「やつら」が何を意味するかは明言を避けたようだった。

しかし、状況を理解していないらしいパトリシアが尋ねる。

「ねえ、リカルド。やつらって、どういうこと?このひとたち、アストさんと、なんの関係があるの?」

パトリシアは不思議そうに目の前にいる三人を眺めた。

アストは話を逸らそうとして話題を変えた。

「それよりパティ!鉄砲隊はもうやつけたのか?なんか、あまり撃ってこないみたいだけど」

「このへんの鉄砲隊はだいたい片付けたよ!」

パトリシアは胸を張って、えへん、と言わんばかりに鼻の下を指でこすった。

パトリシアの、アーマーから露出している胸の谷間が揺れる。

ふたりののんきな会話を聞きながらも、リカルドはパトリシアに向かって言った。

「おい、パティ、その冒険者、遠慮なくやっちまえよ」

「え、でも・・・」

パトリシアは躊躇していた。

今回のパトリシアの役割は、敵の鉄砲部隊の無力化だ。

遭遇した冒険者を倒すことは、パトリシアも気が進まないらしい。

「くそ!くるならこい!」

ミランは剣を構えた。

もはややけくそといったていだ。

「くっそーーー!!」

マックスは一直線にリカルドに向かって行った。

それを見てヒュルケンは咄嗟に大声を出した。

「やめるんだ!おまえのかなう相手じゃない!」

しかし、その声はマックスには届かなかった。

マックスの一撃を軽く避けたリカルドは、マックスの腹に思いきりひざ蹴りを喰らわせた。

「あ・・・」

マックスは頭から崩れ落ち、リカルドのひざの上で気絶してしまった。

「くっそーー!」

ミランもパトリシアに向かって剣を突き出した。

「アルティメット・ブリザード!」

パトリシアがそう言い、ミランに向かって魔法をかけると、ミランは全身が凍ってしまった。

「く、くそ!アスト!じゃあな!」

それらの光景を見ていたヒュルケンは逃げ出してしまった。

「ふん。こんなんでよくアストのことを追い出したもんだな」

ヒュルケンの背中を見ながら、リカルドは吐き捨てるように言った。

「ねえリカルド。アストさんを追い出したって、なんの話?」

パトリシアはまだ状況を把握できていないらしい。

「パティ。まだ気がついてないのか。アストがこっちに戻ってきたときに、ハミルトン公国のほうで冒険者のパーティーから追放されたって、アストが言ってただろ」

「うん」

そう言われてもまだ状況がわからないパトリシア。

「アストを追放したのが、いま逃げていったやつと、このふたりだよ」

リカルドは自分のそばで倒れて微動だにしないマックスと、全身が凍ったまま一歩も動けないミランのことを一瞥して言った。

「ええ!こんな弱っちいやつらが、アストさんのことを追放したの!?」

「弱っちいって・・・パティ。一応、俺が仲間を組んでた相手だからな」

アストはまぶたをピクピクとさせながらそう言った。

「やっだあああ!この人たち、自分たちの実力もわからないで、アストさんのこと追放したの?しんじらんなーーい!」

(確かに実力の伴ってないやつらではあったが、そこまで言うことはないだろう?仮にも俺の元仲間なんだから)と言おうかと思ったが、もうどうでもいいのでアストはそれを言うのをやめた。

「アスト。どうやら大砲はあらかた片付けたらしいな。敵さん、ぜんぜんこっちに撃ってこなくなったぜ」

リカルドははるか前方のセバスチャン城塞のほうを見ながら言った。

「ああ。見える範囲の大砲はほぼ破壊したはずだ。これで地下要塞の入口あたりにいる味方は狙われずに済むはずだと思うけど」

アストがそう言った瞬間、大砲の音が何発も響いた。

味方による砲撃だ。

味方の移動式の大砲部隊がアストたちのいる地点にまで到達したらしい。

敵はアストたちがセバスチャンの地下要塞のところで苦戦しているのを見て、城塞からも大砲や鉄砲部隊、さらに騎馬隊に歩兵部隊も繰り出していた。

いままさに、それらの敵の部隊に対してロズベルグ連邦の側の大砲が攻撃をしている。

アストたちのいる地点からはセバスチャンの地下要塞への入り口が見える。

今でも、中からは最初の敵の砲撃によって出た負傷者たちの収容が行われている。


「おーい、アスト!」

アストは声のしたほうを向いた。

そこにいたのは、馬に乗ったアドルノだった。

「アドルノ!こんなところまで出てきて大丈夫なのか?」

アストは指揮官であるアドルノが前線まで出てきていいものかと不安になった。

「大丈夫だよ。君たちの攻撃のおかげで味方は優勢だ」

「本当か?地下ではひどい目に遭ったぞ」

「その報告は受けている。完全にわたしの作戦ミスだ。すまん」

「いや、いま地下はどうなってるんだ?」

「地下は敵の砲撃によって先に進めなくなってしまったよ」

「なんだって!?」

「アスト。敵は地下での戦いで真っ先に君を仕留めることに賭けたのかもしれない。だから、自分達が生き埋めになる覚悟で、地下で大砲を撃ちまくったんだよ」

「そ、そんな・・・めちゃくちゃだな」

「いや、正しい選択だったと思うよ。それくらいしないと君を倒せないと思ったのさ」

「そうか」

「それよりわたしが気になっているのは、誰がそれを考えたのか、ってことだな」

「どういうことだ」

「その作戦を立てたやつがいるはずだろう?」

「まあ、そりゃそうか」

「セバスチャンの地下要塞は君からハミルトン公国を守るために作られたようなものなのは皆が知ってる。でも、だからこそ、そこまで強固な要塞を要する敵は、油断しているのではないかとわたしは思っていた。だが、そうではなかった」

「・・・」

「敵にも相当な知恵者がいるのだと思う」

「そうなのか」

そう言われても、アストにはぴんとこなかった。

「とりあえず、リカルドもパティもお疲れさまだったな。あとは我々に任せて、休んでてくれ」

「おいアドルノ。こいつら、どうすればいいんだ?」

リカルドはそう言うと、リカルドのそばで倒れているマックスと、凍ったままのミランのことを指さして言った。

「こちらで捕縛しておくよ。さ、君たちは休んでいてくれ」

「ええ、もう終わり?あたし、まだ戦いたいんだけど」

パトリシアはもの足りなさそうに足をジタバタさせている。

「まあ、じゃあ、引き続き、鉄砲隊からの攻撃に備えて準備しててくれるか?」

「はーい」

パトリシアは元気に返事をした。

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