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セバスチャン要塞攻略戦・前編

春になった。いよいよロズベルグ連邦軍によるセバスチャン要塞攻略戦が開始された。

ロズベルグ軍の先鋒は、夜陰に乗じて進撃を開始した。

天候は晴れ。

大砲も火縄銃も効力を発揮する状況だ。

先鋒を務めるのは、アスト、リカルド、パトリシアをはじめとしたセバスチャン地下要塞への潜入を担当するアスト隊だ。

その後方から、鉄砲隊と弓矢隊。

つづいて騎馬隊がつづき、その後方に大砲の車列が横一列に並んだ。

最後に歩兵の大軍がつづく。

それぞれの部隊はかがり火を炊いて横一列に並び、遠くから見ると一直線に伸びた火の列が整然と列を乱さず進んでいるように見える。


アストたちはいきなり地下要塞からの敵の襲撃があるのではないか、と身構えながら歩を進めていった。

そう。

こちらは地下要塞にこもる敵を誘き出すのが最初の作戦だが、向こうから先に攻撃を仕掛けてくる可能性だってあるのだ。

相手が自分の思いどおりに動いてくれるとは限らない。


しかし、アストたちは無事に敵の地下要塞の入り口に到達した。

敵要塞の地上には、誰もいなかった。

いつもなら必ず見張りの兵士が何人か立っているはずだ。

すでにロズベルグ連邦が進撃を開始したことは敵国ハミルトン公国の知るところになっているというわけだ。

敵側も、ロズベルグ連邦の中にスパイを潜り込ませているに違いない。


先鋒の兵士たちは壁によりかかりながら、地下要塞の中を覗いた。

要塞の中は多くのかがり火によって、昼間のように明るい

とりあえず、誰も見当たらない。

ひとりの兵士が右手をあげると、その兵士のうしろからひとり、またひとりと、地下要塞の中へと入っていった。

十人以上の兵士が入ったところで、まずリカルドが。

そのあと数名の兵士がつづき、次いでアスト、パトリシアが同時に中に入った。

アドルノが地下要塞の地図で見せてくれたとおりの空間がそこにはあった。

いくつかの廊下と柱をくぐり抜けると、そこには巨大な空間が広がっていた。

ずっと向こうまで見通すことのできる場所だ。

アストは身構えた。

前後左右、すべての方角を確認する。


・・・・・・



意外にも、どの方角にも大砲や鉄砲隊は待ち構えていなかった。

不気味なくらい誰もいない空間が、ただ、だだっ広く広がっている。

アストと兵士たちはゆっくりとゆっくりと、床のつづく限り、先へと進んだ。

頭上にも巨大な空間が広がっており、この空間に立つと、大きなコンサートホールの真ん中に自分が立っているような感覚になる。

先に進めなくなるところまで到達すると、下に落ちないように城壁のような壁があり、そこからは下に広大な空間が広がっている。

これもアドルノの地図で見せてもらったとおりだ。

アスト、リカルド、パトリシアは城壁から下の空間を見た。



・・・・・・



そこにあったのは、大砲の大群だった。


大砲の砲口はすべてアストたちのほうを向いている。



・・・・・・



「うてえええええええ!」



下から大声がしたと思った瞬間には、アストたちの周りには吹き飛んだ壁の破片やら石やらが舞い飛んでいた。


「うてええええええええ!」


またその声が響くと、さらに大小さまざまな大きさの石がアストたちの周りに飛び散った。


アストは瞬間的に飛び上がろうとした。

すると、アストのすぐ横の床が崩落し、そこに乗っていた兵士たちと一緒に、床の一部が落下していった。

兵士たちの叫び声が要塞の地下にこだまする。

アストやパトリシアはかろうじて落下を免れた。

パトリシアはアストの腕をつかんだ!

「アストさん!逃げよう!」

アストはめずらしくパトリシアのことをにらんだ。

「バカを言うな!兵士たちが!」

「今は周りの心配をしている場合じゃないよ!わたしたちも、今みたいに下に落ちていってしまうかもしれないよ!」

「うてええええええええ!」

また声がすると、今度は上から巨大な石やがれきが落ちてきた。

アストたちのそばにいた何人かの兵士はそれらの石に踏みつぶされ、生き埋めになってしまった。

(正気か!こんなことをしていたら、やつらも!敵も一緒に生き埋めになってしまうかもしれないというのに!)

アストは戦慄した。

アドルノの読みの、どのパターンにも属さない状況が、いま目の前で展開されている。

「こりゃ逃げちまったほうがよさそうだぜ!」

リカルドは、頭から血を流してそばで倒れている兵士の脈を取りながらそうつぶやいた。

どどどどーん!と激しい崩落音がし、あたりで兵士たちの悲鳴が地下の空洞にこだましている。

「うてええええええ!」

またしても敵はアストたちのいる床を狙ったらしい。

アストの近くにいる兵士たちの一部がまたしても下へと落下していく。

アストは指揮官として叫んだ。

「退却だ!みんな地上に出ろ!」

そういうアストはつづけて叫んだ。

「はあああああ!」

アストかそう言うと、アストの体の周りは青白く明滅し始めた。

何かの強化魔法を使ったようだ。

そうしてアストは、パトリシアと、巨体のリカルドを両手で持ってにそれぞれ両方の脇で丸太を二つ持つように抱えた。

「え?」

パトリシアもリカルドも驚いた。

今や彼らが見ているのは、アストの胸元だったからだ。

「行くぞ!」

そう叫ぶと、アストは高く跳躍した。

(すまない、兵士たち・・・しかし、このふたりだけは、絶対に助けないといけないんだ。でないと、我が国は・・・)

アストはあっという間に地下要塞の入り口にたどりついた。

そしてふたりを傍らに下ろすと、さらにうしろを振り返って、いま来た道を引き返した。

「え!?アストさん!」

「アスト!どこに行くんだ!」

アストは跳躍し、空中で逆さまになりながらふたりに声をかけた。

「早く!ふたりは地上に出るんだ!このぶんだと地上でもおそらく戦いが!」

アストはふたりの返答を待たずにあるところへ戻った。

パトリックだ。

パトリックは右足に石でも当たったのか、負傷して足を引きずり、要塞の出口に向かっていた。

「パトリック!」

「アスト様!なにしてるんですか!早く逃げてください!」

「おまえを置いていけるか!」

そう言うと、アストはまたパトリックを抱えて跳躍した。

そうしかけた直後、すぐそばでうずくまっている別の兵士ももうひとり、アストは抱えた。

その間も敵の大砲は放たれ続けている。

しかし、これだけ要塞の内部を破壊してしまえば、敵にも被害が出ているだろうに。

いったいどうなっているんだ。

アストはなんとか地下からの出口に到達することができた。

そして、パトリックとひとりの兵士を抱えたまま、地上に出た。


「これは!!」


地上に出たアストが見たものは、この世の地獄だった。

味方は敵の大砲の集中砲火を受けていたからだ。

さらに敵の鉄砲隊も少し離れたところからこちらを狙っていた。

しかし大砲の玉はそれほど味方には命中していないようだった。

大砲の攻撃にさらされているということは、敵は地下要塞よりもさらに奥にある城塞から大砲を繰り出したということだが、まだだいぶ距離があるのだろう。

それほど命中の精度は高くないと言える。

とはいえ、数も撃てば当たるということで、味方の被害は決して少ないとは言えない状況だった。

「スーパー・スプラッシュ!」

パトリシアは水系魔法で地下要塞の近くに終結しつつある敵の鉄砲部隊の鉄砲に水をかけて、火縄銃の火縄を無力化するのに躍起のようだ。

もうこんなに敵の鉄砲部隊は集まっているのか。

ということは、アストたちが地下要塞にもぐりこんでからすぐに敵は城塞から攻撃隊を出発させたのかもしれない。

「くそがあああああ!」

アストはそう叫ぶと、前に宙返りで高くジャンプした。

地面に着地すると、さらに高く跳躍した。

「アストさん!お願い!」

背中にパトリシアの声を聞き残し、前へ。前へ。

今やアストは味方の部隊をはるか後方に置き去りにし、ひとりだけ敵の城塞方向へ向かって飛びつづけていた。

「お!敵だ!やつを撃ち取れ!」

敵の弓矢隊や騎馬隊の兵士が頭上のアストを見つけると、アストに攻撃を仕掛けようとした。

しかしアストはそれらを無視してさらに前へ前へと飛びつづけた。

高くジャンプし、下を見下ろす。

見えた!

敵の大砲部隊だ。

アストは、敵のかがり火を頼りに、その中のひとつの大砲に狙いを定めた。

灯りのついているところ以外は真っ暗だ。

アストは右手に水晶玉をにぎると、それを前に突き出した。

「くらえええええ!」

アストの右手から光線が、一直線に敵のひとつの大砲に向かって飛んでいった。

大砲はどがん!と大きな音を立てて爆発した。

さらに空中を高く飛んでいるアストは、その間も他の大砲を狙った。

一気に数砲の大砲を破壊し、アストは地面に着地した。

「ほお、ここで会うとは。神に感謝するぜ」

アストはまた飛び立とうとしたが、聞き覚えのある声に、声のしたほうを振り向いた。

「おまえは!マックス!」

そこには、アストのことを追放した張本人、マックスがハミルトン公国の緑色の軍服を着て立っていた。

マックスの周りにはたくさんの兵士が行き交っている。

その中でふたりは対峙した。

「アスト!ずいぶんとご活躍みたいじゃないか!」

「マックス!君も、軍隊に入ったのか!」

「そういうおまえも軍で働いてるみたいじゃないか。役立たずのくせに」

「くっ・・・マックス!いまはおまえの相手をしている暇はない!」

「なに!?」

そう言うと、アストはマックスを置き去りにして再び高く跳躍した。

「あ、アスト!てめーー!覚えて・・・」

マックスの言葉の最後のほうはアストには聞こえなかった。

アストは高く跳躍すると、はるか下方に見える大砲に向かって水晶玉から光線を放った。

そうして大砲をさんざんに撃破した。

何度か飛んでは大砲を破壊し、という動作を続けたのち、アストは地面に着地すると、また高くジャンプした。

見える範囲の大砲はすべて撃破できたらしい。

アストは地面に着地すると、元来た道を引き返し、セバスチャン地下要塞の入り口付近に展開しているはずの味方の元へ戻ることにした。

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