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開戦前夜

アストは大砲を破壊する訓練を行っていた。

(すごい!ほんとうに以前よりもはるかに遠くまでくっきり見えるようになった)

アストは今、空高く跳躍している。

眼下に訓練用の模造の大砲群が並んでいる。

それらに向けて水晶玉を向け、光線を一気に放つ。

大砲までの距離はゆうに一キロは離れている。

それを、この距離で正確に狙うことができる。

セバスチャン要塞を攻撃するとき、アストたちの軍はどうしても地下要塞の入り口に終結しなくてはいけない。

そこを敵の大砲に狙い撃ちされるだろう、というのがアドルノの読みだった。

少なくとも最初はセバスチャンの地下要塞にアストがもぐって、敵を誘き出さないといけない。

しかしそれは、相手に対して隙を見せることになる。

アストが地下要塞にもぐっている間に敵の大砲が地下要塞の入り口に群がるロズベルグ連邦の兵士たちを狙って進撃してくるのは間違いない。

こちらはそれへの対処として、兵をばらばらに展開させ、こちらも大砲を多くつれてくる必要がある。

しかし、あまりに多くの兵を展開させれば、敵も地下要塞のうしろに存在する城塞から一気に兵を繰り出してくるかもしれない。

なるべく地下要塞にこもる敵を外へ誘きだし、各個撃破したいこちら側としては、敵の援軍はあまり来てくれないほうがいい。

そして、敵をある程度誘き出すことができたら、アストは地上に戻り、アストの跳躍力と、東のダンジョンの大亀によって飛躍させてもらったその視力によって、大砲を破壊しにかかる。

アストが大砲を破壊する間、こちらはアストの援護と、地下要塞の敵を撃滅する。

アストが地下要塞の中に入るときと、地下から地上に戻った直後は、アストを守るように円形に鉄砲隊と弓矢隊を配置する。

これで勝てるはずだ。

アストはアドルノの自信に満ちた表情を思い出していた。

しかし、戦は相手があることだ。相手がこちらの読み通りに動いてくれるとは限らない以上、念には念を入れた訓練が必要になる。

リカルドとパトリシアもアストとともに地下要塞へ潜入することになった。

特にパトリシアの水属性の魔法は、敵の鉄砲隊を無力化するのにどうしても必要だ。

そのため、パトリシアは訓練の間、水属性の魔法を中心に訓練を行った。

ちなみに、パトリックは魔法や特定のスキルは使えないが、リカルドの部下として、一緒にアストやパトリシアとともに最初に地下要塞にもぐることが決定した。

アドルノは後方で軍の指揮を行う。アドルノのそばには、他の者と一緒にリリーが守りとしてつくことになった。

季節はまだ冬だ。

このあたりは西からの暖かい偏西風によって、あまり雪は降らない。

しかし、兵士の体力の消耗を考慮し、春になるまで、アドルノは戦いを仕掛けるのを待った。

食糧は夏まではなんとかもちそうだ。

それまでに、必ず決着をつける。

しかし、アストはそう事が簡単に運ぶのかどうか、不安だった。


アストはいつものようにアドルノの屋敷に戻ると、ソファに座って天井を仰ぎ見た。

そうしていると、お決まりのようにパトリシアに視界を遮られた。

「アストさん、なに難しい顔してるの?」

アストはパトリシアの大きな胸を一瞥してから、前足を踏ん張ってソファの前のほうに座った。

「難しい顔もしたくなるってものさ。ほんとうにアドルノの言うとおりに事が運ぶのかな?」

「不安になりますよね」

パトリシアは嬉しそうに満面の笑顔でアストのとなりに座った。

しかしアストはパトリシアのことを構っている余裕はなさそうだった。

パトリシアがアストの顔を下から覗き込む。

「アストさんのことは、あたしたちが守りますから、安心してください」

「いや、それはありがたいが。どうにも緊張してしまって」

「アストさん、あんなに強いのに、結構なビビりだよね」

「ああ、俺はビビりで臆病なやつさ。だからハミルトンでもパーティーを追放されたのさ」

「そんなの、もう気にしないでよ。この前のダンジョンでもあたしたちのことを救ってくれたのは、アストさんなんだから」

「・・・」

アストは、それには何も応えなかった。

(ほんとうにアドルノの言うように戦争は進んでいくのだろうか。何か、嫌な予感がする)


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