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作戦会議

アストの視力は飛躍的に向上した。

かなりはっきりと遠くまで見える。

もともと視力はいいほうだったが、これで遠くにある敵の大砲に対して、より正確に狙いを定めることができるようになった。

こうして、アスト、アドルノ、リカルド、パトリシアの四名はロズベルグ連邦の都へと戻った。

アストたちが戻ると、軍の練度は飛躍的に向上していた。

アストを敵の攻撃から守る布陣の構築もばっちりだった。


そして真冬がやってきた。

決戦は春を待ってからだ。

この冬はひたすら訓練に明け暮れた。


ある日、参謀本部では作戦会議が開かれた。

立派な建物に様変わりした参謀本部の会議室の奥にアドルノは座った。

テーブルには大勢の将校たちが席に着いている。

アドルノは話し始めた。

「春になればいよいよセバスチャン要塞を攻撃する。できるなら一日で決着をつけたいと思っている」

会議室の中はざわめきに包まれた。

たった一日で要塞は落とせるのだろうか。

「こちらには切り札のアストがいる。アストの働きがあれば、一日で攻略することも夢ではない」

アドルノは横にいるアストを見て不適な笑みを浮かべた。

アストは緊張してきた。

(そんなにプレッシャーをかけないでくれよ)

アドルノは立ち上がると、黒板に書かれたセバスチャン要塞と城塞、そして我がロズベルグ連邦の位置関係を示した地図を皆に見せた。


アドルノはまず、ロズベルグ連邦の近いほうにある地下要塞を指差して説明しだした。

「そもそもなぜ敵は地下に要塞なんかを作ったかを思い出して欲しい。はるか昔。アストのご先祖様の使う水晶の攻撃があまりに強力だったので、これを防ぐ目的で作られたのがこの地下要塞だ。地下にこもっていれば、水晶の攻撃の目標にされることはないからな」

リカルドもパトリシアも、アストの横に並んで会議に出席している。

「それからずいぶんと時が経った。アストのご先祖様がご活躍されたときとは大きく異なることがある。それは、鉄砲と大砲の登場だ」

皆、だまってアドルノの言うことを、姿勢を正して聞いている。アストが初めて参謀本部を訪れたときよりも明らかに規律面での向上が見られる。

「敵はアストの攻撃を恐れているから地下要塞にこもっている。以上のことから我々の作戦としてはいくつか考えることができる」

皆のまなざしは真剣そのものだ。

「まずひとつ、作戦として考えられるのは、地下要塞を無視してうしろの国境にあたる城塞を攻撃するというものだ。しかしこれは、地下要塞から地下通路を通って城塞の敵兵士が増えるだけで、いわば通常の戦闘と変わらない。もしもこの方法を取ったら、こちらの被害も相当のものになる」

アストをはじめ、何人かの将校がうなずいた。

「次に、城塞を攻めつつ、地下要塞から出てくる敵を迎え撃つという方法だが、これは敵の動きが読みにくい。いつまで経っても地下から敵が出てこない可能性も高い。これは不確実性が高すぎる作戦といえる」

リカルドはあごを撫でながら「なるほど」とつぶやいた。

「最後に。うしろの城塞は攻撃せずに地下要塞の敵を最初に誘き出すという作戦だ」

「ほお」と何人かの将校がつぶやいた。

「我々の目的は地下要塞を制圧すれば終わりというわけではない。うしろの城塞も攻略しなければならない。城塞を攻略する上でやっかいなのは、地下要塞に多くの兵士がこもっているということだ。地下要塞の兵たちが地上に出てくるか、出てこないのか、あるいは地下通路を通ってうしろの城塞に戻ってしまうのか。この動きが読めないからこそ我々は苦労することになる」

「うんうん」とパトリシアはうなずいた。

「だから、まず地下のやつらを誘き出すのだ」

そこまで言うと、いったんアドルノは説明をやめた。

当然の疑問をアストが言う。

「どうやって誘き出すんだ?」

アドルノはすぐには答えず、口許をゆがめて不敵ににやりと笑ってから言った。

「もちろん。アスト。君が地下要塞の中に真っ先に入るのさ」

「ええ!」

声をあげたのはパトリシアだった。

「そ、そんな!そんなことしたら、いきなりアストさんがやられちゃうかもしれないじゃんか」

「だからこそ、これまでアストを守るための陣形を散々に訓練してきたのだよ」

「あ」

パトリシアはなんとなく納得したようだった。

「さっきも言ったように、敵はアストのご先祖様以来の水晶の攻撃を恐れている。だからこそ地下に引きこもっているんだ。だったらこちらからお迎えに行こうと、こういうわけだ」

「それで、うまくいくものなのか?」

リカルドが口をはさむ。

「もちろん、それはわからんよ」

「え、わからんだと?」

「さっきも言ったように、地下要塞の敵の動きだけは、我々にはどうしようもない」

「おまえ今アストを使って誘き出すって言ったじゃないか」

「そう。誘き出す。だが、アストが中に入っても、それでも敵は出てこないかもしれない」

「その場合はどうするんだよ」

「あわてるな。それを今から説明する」

そう言うと、アドルノはテーブルの上になにやら大きな紙に書かれた断面図のようなものを広げた。

「これがセバスチャン地下要塞の内部だ」

「え、こんな地図があったのかよ!」

リカルド以下、多くの将校が驚きの声を「おお」とあげた。

「ああ。敵の内部にもスパイをたくさん混ぜてあるからな。」

「す、すごい。こんなふうになってるのか」

アストは感嘆の声をあげた。

地下要塞の上の部分に入り口らしきものがある。

そのすぐ下に床のようなものが書かれてあり、そこは大きな柱で何本も下から支えられているらしい。

そこから斜め下に坂があり、地図上にある地下要塞の最深部に到達できるらしい。

アストは地下要塞にもぐったときに見える光景を想像してみた。

もぐってまず見えてくるのは、真下に見える広い空間。そして、そこから方々に延びる廊下。あとは、深部へと至る坂があるはずだ。

「なんか、要塞にもぐったら、いきなり鉄砲隊に狙われやすそうな構造をしている気がするんだが」

アストはこの構造だと、前後左右、なんなら真下からも鉄砲隊に狙われそうだと感じた。

「そのとおり。だからこそ、アストを取り囲みながら、こちらも鉄砲隊と弓矢隊を突入させることにする」

なるほど。アストは理解した。

この内部構造を見る限り、中へ突入するのはほとんど罠なんじゃないか?という形をしているようにさえ見える。

この中に突入するのか。

こちらも相当の被害を覚悟しないといけないだろう。

アドルノは話を続けた。

「で、そのあとの動きだが、いくつか敵の動きのパターンが考えられると思う」

皆、なおも真剣にアドルノの話を聞き続けている。

アドルノはテーブルに両手をつくと、皆の顔がまっすぐに奥まで見える位置に立って話し始めた。

「地下要塞の兵は鉄砲を撃ってくる。そうして、我々を追い詰めたら、外に出てくる。これがひとつ」

将校たちの何人かが無言でうなずいた。

「地下要塞の連中が外に出てくる場合、今度は逆に我々がやつらを取り囲んで追い詰める側にまわることになるが、そんなことは敵もわかっているはずだ」

ああ、なるほど、と小さく言ったのはリカルド。

「だから、もしも地下要塞の連中が外から出てくるとしたら、奥の城塞からも敵が撃って出てくるだろう。大砲をさんざんに撃ちながらな。その場合、地下要塞の入り口付近にいる我々は敵の大砲の的になってしまう」

そこでアドルノはアストのことを見た。

「だから、その場合は、アストに敵の大砲を無力化してもらうことにする」

事ここにいたってついにアストはアドルノの真意がわかった。

地下要塞の入り口付近に集まる我々の兵士たちは敵の大砲の的になる。それをさせないために、東のダンジョンに行って、アストの視力を高めたわけだ。地下要塞の入口に集まるわが軍の兵士たちを狙い撃ちにしてくる敵の大砲を無力化するためにも。

「そして、この場合は、地下要塞から出てくる敵はそのままさんざんに叩いてしまえばいい。もしも城塞からも敵が出てくるなら、そこは総力戦だ。後方の我々の部隊も前に出て、敵と戦う。そして隙があれば、敵の地下要塞内部にも突入する」

皆、真剣にアドルノの話を聞いている。

「しかし、敵が地下要塞から一切出てこない場合というのも想定しておかないといけない。もしかしたら、我々が地下要塞の内部へ潜入しても、一切発砲してこないかもしれない」

ああ、とリカルドはうなった。

「その場合は、どうすればいいの?」

パトリシアが尋ねた。

「その場合、地下要塞に深入りするのは危険だ。敵が出てこないからといって、調子に乗って奥まで進んでしまえば、こちらがやられてしまう。ひどい場合は全滅しかねない。だから、地下要塞から敵が出てこない場合は、奥の城塞を攻撃するフリをするんだ」

「フリね」

リカルドは腕組みをして言った。

「その場合も、アストには見える範囲内の敵の大砲は極力無力化してもらう。そうやって攻撃するフリをしていれば、奥の城塞から敵が出てくるかもしれないし、手前の地下要塞から敵が出てくるかもしれない。いずれにしても、このパターンの場合は後方の味方をどんどん前に出して通常の戦闘行動に移るわけだ」

「どちらかというと、地下要塞から敵が出てこないほうが、こちらの被害も少なくて済みそうだな」

アストが答える。

「そうだ。しかし、その場合は一日で城塞を落とすのは、おそらく無理になるだろう。だから、わたしとしては地下から敵が出てくるほうに賭けたいところだが」

「もう一度確認するが、地下から敵が出てくる場合というのは、城塞からも敵が出てくるわけだな」

アストが聞き返す。

「そうだ。敵もバカじゃない。単に地下から出ていったら、外にいる我々の攻撃の的になるだけだ。だから地下から敵が出てくるということは、城塞からも敵の攻撃があるということになる。そしてそれは、城塞から運び出された大砲も多くがこちらへ攻撃してくるということになる。アストには、その大砲を無力化してもらいたいわけだ」

「なるほど。わかった。もうひとついいか」

「ああ、なんでも聞いてくれ」

「地下にもぐって敵を誘き出すのはわかった。しかし敵が鉄砲を撃ってくるだけで外に出てこようとしない場合は?」

「その場合は、少しずつ地下要塞から撤退しつつ、後方の味方に城塞を攻撃させて、敵の動きを見る」

「なるほど」

なんとなくうまく行きそうな気がする。

アストはそう思った。



その日の夜。

アストはアドルノの屋敷のリビングでひとり考え込んでいた。

本当にアドルノの言う作戦のどれかの通りに事は運ぶのだろうか。

まだ何か、敵のほうに、別のやり方があるのではないだろうか。

もちろん、考えたところで、相手があることなのだ。

実際のところどうなるのかはわからない。


アストは想像した。大空に舞い、敵の大砲をどんどん倒していくその、自分の姿を。

敵がどう出てこようと、地下要塞の入り口に集まる仲間を守る役目、必ず果たさなければならない。

それだけは絶対に成功させないといけない。

アストは右手こぶしをにぎりしめた。

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