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マッド・ブリザード

巨大な亀は寝ているのか、目を閉じてじっと地面に座っているだけだった。

しかしその前に立つと、その状態でもアストたちの三倍くらいの高さのある巨大な生物だった。

全体がネイビー色の亀だ。

この色だと洞窟の色と混じって、擬態に近い効果をもたらしそうだ。

いずれにしても厄介そうな風体ふうていをしている。

リカルドは手にしたランタンの光を亀の顔に向けた。

「でっけーなあ」

思わず声をあげるリカルド。

「しっ!あんまり大きな声を出すな。起きてしまうかもしれないぞ」

アドルノは小声でリカルドを諭した。

「あ、そうか。頭が弱点って言ってたよな。このまま頭だけ凍らせて、アストの水晶でやっちまうってのはどうだ?」

リカルドも小声になって答える。

「ええ、それじゃあ面白くないよ」

と、こちらも小声で言ったのはパトリシア。

「パティ。気持ちはわかるが、戦わずに勝つことができるなら、それにこしたことはないよ」

「じゃあ、さっそく凍らせちゃいましょう」

そう言うと、パトリシアはもっていた剣を地面に刺すと、両手を亀の顔の前にやって、呪文を唱えようとした。

「ハイパー・・・」

「ぐおああああああああああ!」

途端に亀は眠りから覚め、咆哮をあげた。

「え?」

「あぶない!パティ!」

アストは横っ飛びにパトリシアを突き飛ばした。

亀は巨大な右前足で目にもとまらぬ速さで足払いをパトリシアに仕掛けたのだった。

「あいたああ」

パトリシアはアストに背中から抱えられながら、ふたりして地面の上をひきずられて転がっていった。

やがてふたりは止まった。

「パティ!明るくしてくれ!」

アドルノの声が飛ぶ。

アストは手にしていたランタンを目の前にかざした。

すると、またしても亀の前足が襲ってきた。

アストはランタンをすばやく左手に持ちかえ、右手でパトリシアを抱えると、前に転がった。

そうして後ろも見ずに、今度はかかとに力を入れ、パトリシアを抱えたままバク転宙返りをした。

それを何度も繰り返し、亀から遠くへ遠くへと引き下がった。

巨大な亀はアストたちへの攻撃をあきらめ、まだ近くにいたリカルドめがけて、今度は反対側の左足でリカルドを踏みつけにかかった。

リカルドは一瞬だけ持っている大薙刀なぎなたでそれを受け止めようとしたが、アドルノの叫びが祠内にこだました。

「リカルド!無理だ!よけろ!」

リカルドはその声を聞き、済んでのところでうしろに下がった。

リカルドの前髪が、巨大な亀の足の爪によって少しだけかすめ取られ、バラバラに散っていった。

アドルノは亀からかなりの距離を取って、指示を出している。

「リカルド!踏まれそうになったら逃げろ!おまえでも無理だ!」

「ああ、いまのでわかったぜ」

リカルドは前衛の冒険者らしく、巨大な亀に近い位置にいる。

が、暗くて相手の姿がよく見えない。

いまはアドルノが照らしているランタンのわずかな光だけが手がかりだ。

「ブライトライト!」

突如、洞窟内全体が明るく照らし出された。

パトリシアの魔法だ。

アストはそばのパトリシアに告げた。

「パティ。いま見たとおりだ。やつが踏みつけてくる攻撃はとてもじゃないが誰でも受け止めることはできない。とにかく今は逃げに徹するんだ」

「でも、それじゃ、あいつを倒せないよ!」

「俺が水晶玉で牽制する!」

「あいつにはアストさんの水晶は通じないって言ってたじゃん」

「牽制だけだ!」

そう言うとアストは前に飛び出した。

「アストさん!」

背後にパトリシアの叫び声を聞きながら、アストは前へ前へと跳躍し、右手から水晶玉を突きだし、攻撃を開始した。

水晶玉の攻撃は巨大亀の目を直撃した。

しかし、亀はまったく動じることもなく、近くにいるリカルドに右前足で足払いをした。

「リカルド!そいつは受け止められるはずだ!」

アドルノがそう言い終わらないうちに、リカルドは亀の巨大な足を薙刀で受け止めた。

薙刀で受け止めたということは、亀の足に切り傷でもできそうなものだが、鋼鉄のように固いそれには、まるで打撃の痕跡さえもつかなかった。

「うおおおおおおお!」

巨大亀の攻撃は重く、リカルドの履いている足元のブーツはどんどんと地面にめりこんでゆく。

「アスト!攻撃を!」

アドルノの指示が飛ぶ。

アストはそれには答えず、今度はリカルドに突き出された亀の右足に水晶の衝撃波を放った。

しかし、アストの攻撃がヒットしても、亀はリカルドへの攻撃をやめるどころか、まったくびくともしなかった。

(いったいどれだけ固いんだ!)

「パティ!いまのうちに頭を凍らせるんだ!」

「はいよーー!」

アドルノの指示を受け、パトリシアは魔法を詠唱した。

「本気でいくよーー!アルティメット・ブリザードおお!!」

巨大亀の頭付近まで飛んできたパトリシアは、氷の魔法を亀の頭に仕掛けた。

少しだけ亀の頭は凍った。

瞬間、アストが亀の頭に水晶玉の一撃を喰らわせる。

「くらええええええ!」

パキン!と氷が割れる音がした。

一瞬、アストは(やったか!?)と思ったが、次の瞬間、巨大な亀はリカルドへの攻撃をやめ、空中高く飛び上がった。

「あんなにデカイのにそこまで飛べるの!?」

あまりのことにパトリシアは呆気にとられていた。

いや、呆気にとられていたのはパトリシアだけではない。

全員が絶句していた。

巨大亀はうしろにジャンプし、さらにもう一歩、はるか後方にジャンプした。

亀がジャンプするたびに、どずん、どずん、と激しい音とともに地面が揺れる。

あっという間に巨大亀はアストたちから遠くに行ってしまった。

「うえええん!アストさあん!あんなのどうやって倒せばいいんですかああ」

めずらしく泣き言を言うパトリシア。

「あきらめるな、パティ!まだ戦いは始まったばかりだぞ!」

「でも、あいつ、正気じゃないですよ!」

「エリアボスに正気なやつなんているわけないだろ」

「あ、確かに」

妙に納得して右手ひと指し指を右頬にあてるパトリシア。


すると今度は、亀は突進してきた。

それも巨体からは想像もつかない速度で。

亀が前進するたびに洞窟内は激しく振動した。

「みんな、逃げろ!」

アドルノの絶叫が祠内にこだまする。

アストもリカルドもパトリシアもうしろに下がり、洞窟内の壁の上のほうにある突き出た箇所に体を落ち着けた。

今や四人全員が亀を真下に見る格好になった。

亀はそのままそこから身じろぎしなくなってしまった。

アストは思案した。

弱点はわかっているんだ。

頭を凍らせれば。

アドルノはパトリシアに聞いてみた。

「パティ。やつの頭は凍りそうなのか?」

「最大威力の凍り魔法じゃないと無理かも」

「じゃあ、それをやってくれ」

「でも、あれはあたしの体力の消耗も激しいから、せいぜい二回しかできないよ」

「そうか。それなら・・・、リカルド!さっきやったみたいに、やつの攻撃を受け止めてくれないか?」

「ああ、まかせと・・・」

リカルドが言い終わらないうちに、巨大亀は大ジャンプし、アドルノを狙って右前足でもって空中で足ばらいをした。

「アドルノおおおおお!!」

アストは叫んだ。

アドルノは足元の岩場もろともふっ飛ばされてしまった。

壁に叩きつけられるアドルノ。

アドルノは声もなく、ずるずると壁づたいに落下していき、地面にまで落ちていった。

「ぐおあああああ!」

雄叫びをあげ、地面に落ちたアドルノを再び狙おうと、アドルノに突進してゆく巨大亀。

「させるかあああ!」

ちょうど近くにいたリカルドは、アドルノの前まで跳躍すると、身構えた。

亀の攻撃は、足払いだった。

(しめた!)

リカルドは薙刀で亀の攻撃を受け止めた。

ものすごい圧力でリカルドの防御を粉砕しようとする大亀。

「パティ!早く!氷の魔法を!」

「うん!でも・・・ちょっと、遠い・・・」

アストとパトリシアはともに近くにいたが、いまリカルドとアドルノのいる位置からはだいぶ距離がある。

パトリシアの元にアストがやってきた。

「アストさん!」

「パティ!俺がおまえを、あそこまで投げるから、魔法をかけてくれ!」

「え!」

パトリシアが言い終わらないうちに、アストはパトリシアを両手で大きな木の幹を持つみたいに胸元に抱えた。

「いくぞ!」

「う、うん!」

アストは一回転すると、野球投手のように勢いをつけて、パトリシアを亀の元に放り投げた。

「いくよ!最強魔法・・・マッド・・・」

パトリシアが亀の顔面に近づこうかという寸前、亀はパトリシアのほうを振り向いた。

「ブリザードおおおお!!!」

パトリシアは放り投げられたので、弾丸のような姿勢になりながら亀の顔にめがけて魔法を放った。

しかし、大亀は魔法が当たる瞬間にリカルドへの攻撃をやめ、うしろへまた大きくジャンプしてしまった。

亀の攻撃を逃れたリカルドは、ギリギリのところでパトリシアを受け止めた。

「う、うそでしょ!外れた!?」

リカルドによって地面に下ろされたパトリシアは悔しそうにそうつぶやいた。

「ぐあああああああ!」

咆哮をあげる巨大亀。

「おい、しっかりしろ、アドルノ!」

リカルドはアドルノに声をかけたが、アドルノはほとんど気絶寸前だった。

「わ・・・わたしのことはいいから・・・早く、あいつを・・・」

「ああわかってる。だが、おまえを見捨てることはできないぞ」

「・・・今の攻撃でわかった」

「何がだ!?」

そこへ、アストも三人の元にやってきた。

今や四人全員が同じ位置に集まった。

アドルノは苦しそうに声を出した。

「パティ・・・今の魔法は・・・もう一度しか使えないのだろう?」

「うん。それ以上は・・・無理だと・・・思う」

パトリシアは息があがっている。

「確実にあてるんだ。だから、リカルドと、パティは近くにいたほうがいい」

「うん!」

「リカルドが攻撃を受け止める瞬間。いや、やつの俊敏さなら、リカルドが攻撃を受け止めるよりも少し前に魔法を出すんだ」

「うん!」

「できるか?」

「やってみる!」

「そ・・・そうか・・・」

そこでアドルノは気を失ってしまった。

「あ、アドルノ!」

リカルドがアドルノのことを抱えて声をかけたが、もう返事はかえってこなかった。

「くそ!」

アストはアドルノに回復魔法をかけた。

アストの顔の周りは、魔法によって亡霊が出現したように薄明かりに照らし出された。

「息はある。アドルノは生きている。でも、こいつのためにも、ここを動くわけにはいかなくなった」

と言ったのはリカルド。

「かといって、ここでじっとしていたら、もしもあいつの踏みつけ攻撃がきたら・・・まずいぞ」

アストの言うとおりだった。

大亀の踏みつけ攻撃だけはリカルドの薙刀でも受け止めることはできない。

「よし、パティとリカルドはここにいてくれ。俺に考えがある」

そう言うと、アストはパトリシアに魔法の効果が向上する魔法をかけた。

「アッパー・ソリッド!」

パトリシアの体が、青白い光に包まれた。

「頼むぞ!」

そう言うと、アストはリカルドとパトリシアの返答も聞かずに亀へと突進していった。

「アスト!」

「アストさん!」

アストは前へ前へと跳躍すると、あっという間に巨大亀のところまでやってきた。

「よくも俺の味方をやってくれたもんだな」

そう言うと、アストは右手で水晶玉を構え、それを前面に突き出した。

「本気でいこうぜ!亀さんよおお!!」

アストは、水晶の連続攻撃を行った。

あっという間に亀の顔面に数発の水晶の光線攻撃がヒットする。

左右に跳躍しながら、間髪いれずにひたすらに水晶の打撃を喰らわせるアスト。

いくら固いと言っても、そう何度も攻撃を受けては、亀も平然とはしていられないようだ。

「ぐぎゃああああああ!」

水晶の攻撃によって、亀の頭の周りには打撃時の爆発による煙がもうもうと立ち込めている。

亀はなりふりかまわず、両方の前足を交互に出して足払いをした。

しかし、どれもこれもアストには当たらず、空を切った。

アストは地面に着地すると、そこから亀の頭めがけて頭上に水晶の攻撃を放った。

一直線に伸びる水晶の衝撃波。

それを頭で受けると、亀はアストに突進してきた。

アストがうしろに宙返りすると、亀は前足で足払いをしながら突進してくる。

(思ったとおりだ!)

「リカルド、パティ、準備しててくれよ!」

アストはふたりに声をかけた。

パトリシアは緊張からか、足元が震えてきた。


アストは水晶玉の攻撃を亀の頭に喰らわせ、またうしろに宙返りする、というのを繰り返した。

そのたびに、亀はアストを捕まえようと足払いを仕掛けながら突進

そうして何度かそれを繰り返すうち、いよいよ、アストはリカルドたちの近くにやってきた。

「いまだ!リカルド!」

「おう!」

アストは最後の水晶玉の攻撃を喰らわせると、何度目かのバク転宙返りをした。

そうして、リカルドとパトリシアのうしろ、アドルノのところまで下がった。

リカルドは前に出た。

遅れてパトリシアも前に。

巨大亀は足払いをした。

水晶玉の攻撃によって顔面の周りに煙ができていたのが幸いした。

亀にはよく見えなかったのだ。

亀の放った右の足払いは、リカルドの薙刀によって止められた。

そして・・・


「マッド・ブリザードおおおおおおお!!!!!!!!!」

パトリシアの最強氷系魔法は、大亀の頭にヒットした。

瞬間、亀の頭だけが凍った。

その一秒もしないないうちに、アストの放った水晶玉からの光線攻撃は、凍った亀の頭を砕けさせた。


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