食料危機
プロスト元総長の取り調べはあっという間に終わった。
彼はハミルトン公国と内通しており、余生をつつがなく過ごせるようハミルトン公国側から配慮してもらえる代わりに、ハミルトン公国に対して何かしらの手土産を用意しなければならなかったというわけだ。
そのために、プロスト元総長が行ったことというのが、このロズベルグ連邦の主要な食糧庫に火を放つというものだった。
ちなみに、パトリックとアストの決闘のあと、東のダンジョンの九十九階層エリアのボスを召喚したのもプロストだったという。
彼はあのエリアボスを特殊な魔法で閉じ込めておいたビンをハミルトン公国のある貴族から渡されていたという。
なぜその貴族がそんなものを持っていたのか、それについてはまったく知らないという。
それにしても、取り調べにあたったアドルノは、このプロストという元参謀総長に心底失望した。
自分が捕まったら、敵の情報を簡単にこちら側に漏らすような、そのようなプライドのかけらもないようなやつが今まで我が国の参謀総長をしていたとは。
なんと情けない、というわけだ。
さて燃やされてしまった食糧だが、調べによると、来年の麦の収穫期までまるで足りないという。
もしも一年後までこのままだと、節約して食べ続けるか、どこかから徴発しなくてはいけなくなった。
参謀会議の席上、アドルノ新参謀総長は重い口を開いた。
「いままでどおり食事を取ったとして、もってあと半年らしい」
その場にいた誰もが青ざめた。
まさに国家存亡の危機というわけだ。
会議の席上、さまざまな疑問がもちあがった。
あるひとりの参謀が言う。
「なぜハミルトンでは元総長に食糧庫を襲わせたのでしょうか?」
これは当然の疑問だった。
だがアドルノには簡単に見当のつくことだった。
「我々にセバスチャン要塞を攻めさせたいのだろう」
「なんと」
その場にいた大勢が目を丸くしている。
「セバスチャン要塞は守るのには適した施設だ。しかし攻めるときにはとくにアドバンテージになるようなものはない。だから我々に攻めさせ、我々の戦力をだいぶ削いでから、こちらの本国に攻め寄せる手筈、ということではないかと思う。つまりカウンター狙いというわけだ」
「なんと汚いことを考えるやつらだ」
(まあそれくらいはするものだよ、軍略というものは)と心の中で思ったアドルノは、さっさと次を話し始めた。
「ちょうどいい機会じゃないか、お望みどおりこちらから攻めてしまえばいい」
「な、なんと言われます!」
今度は別の参謀のひとが叫んだ。
「背水の陣という言葉がある。あるいは窮鼠猫を噛むという言葉でもよい。追い詰められている状況の我々は兵士のひとりひとりまでもが必死で戦う。セバスチャンの要塞を落とすには、今をおいて他にはないと思う。
といって、いますぐ攻めこんでも、そう簡単には落とせないだろう。
だからこそ、今こそプロスト元総長が渋っていた軍備増強を計るべきときなのだ」
場に緊張が走った。
「今日から諸国を倣って健康な十八歳以上の男子を徴兵することにする。
そして、日夜訓練に励み、きたるべき戦に備えるのだ!」
「はっ!」
参謀総長がやる気のある者に変わったためか、本部内の空気もいつも以上に気迫のあるものに変わったように見える。
「で、食糧のほうはどうするんだ?」
ここで疑問を口にしたのはアストだった。
「当面は今までどおり食事をとらせる。それぞれ公平に分配してな」
アドルノは表情をまったく変えることもなくそう答えた。
爆発が起きたとき、パトリシアの一番近くにあった食糧庫は、彼女の水系魔法のおかげで早めに鎮火できたため、灰にならずに済んだ食糧が多くあった。
しかし残りのふたつの倉庫は惨憺たる有り様だった。
実は傭兵あがりの元冒険者であり魔法も使える者は多数いたのだが、パトリシアほどの威力ある魔法を使える者はいなかった。それでもいないよりはマシではあったが。
「いまは冬だ!セバスチャンの要塞は春になってから攻める!確実に半年以内に落としてやる!いいな!みんな!」
「うおーーーーー!」
参謀部のひとびとは剣や槍を高く掲げてときの声をあげた。
しかし、そう簡単にうまくいくものだろうか?
ひとびとは今ピンチに立たされたことで一種の興奮状態に陥っている。
確かにこれを利用する手はないのだが、半年でそこまで軍を強化できるものだろうか?
アドルノは内心不安だった。




