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反旗の気配

アドルノは早いところ東のダンジョンの最下層、百階層のエリアボスを始末したいと思っていた。

そこにハミルトン公国へ勝利する「カギ」があることを知っていたからだ。

しかし、かのダンジョンに赴くということは、自分自身が国を空けることを意味する。

それをする前にこの国の軍備増強を計らねばならない。

でなければ自分の留守中に万が一のことがあれば取り返しのつかないことになるかもしれないのである。

アストの報告によれば、ハミルトン公国の国軍はすでにかなり洗練されているという。

我が国は遅れを取っているのだ。

いまここで国を留守にするわけにはいかない。


といって、先日の会議のことがまだこの国の行く末に暗雲を垂れ込めさせていた。

プロスト総長のもと、これ以上の軍備増強はせず、ハミルトン公国との戦もしないという方針が、一度はたてられた。

しかしそれはアストのあの空気を読まない発言のおかげで曖昧になってしまった。

そして曖昧なまま、あれから一度も会議は設けられていない。

ほんとうはアドルノが会議を召集してもよいのだが、やはり三つの部族の結束を考えると、ここで事を荒立てたくはない。

プロスト総長の属するモレノ族の顔も立てねばならないのだ。

といって、いつまでもじっとしていては、こちらがハミルトン公国か、革命勢力にやられてしまうかもしれない。

実はアドルノは、モレノ部族との交渉もずっと行ってきていた。

確かに今ここでいきなりプロストに反旗をひるがえしたりすれば、モレノ族と他の部族との和が乱れ、それは国全体を巻き込むものとなるかもしれない。

しかし実のところ、モレノ族の中でも軍備増強を計るべき、という声がもはや大半になっていた。

アドルノは慎重な姿勢を見せていたモレノ族の少数派をこちらの味方に率いれようと工作していたのだ。

そうしてモレノ族の中からプロストに反旗を翻すことを促そうと画策していた。

プロストの属するモレノ族自体がプロストを排除すれば、それは別に他の部族との軋轢の原因とはならない。

これならば三つの部族の和が乱されることはない。

今、アドルノの工作は最終段階に入ろうとしていた。


ある日、アドルノはモレノ族の重鎮が集まる会議に参加していた。

会議はテーブルを囲んで行われた。

上座に座るのはプロスト総長の次にえらい部族のひとだ。

現在、この部族の族長を努めるのはプロストだ。

しかしこの会議の中に、そのプロストはいない。

もしも部族のひとびとが、プロストに反旗を翻すなら、彼らも命がけというわけだ。

もちろんそれはアドルノも同じことだ。


アドルノは上座の横の位置に座っている。

上座に座っている、部族で二番目にえらいひとが話し始めた。

「昨日わたしのところに戻った間者の報告によれば革命勢力は北進を開始したらしい」

「なんですと?」

アドルノの隣に座っている者が応じる。

「北進ということは、そのうちハミルトン公国に達する可能性がある。もしもハミルトンが落とされれば、次は我々の番だ」

「長老!もう一刻の猶予もありませんぞ!」

部族の者たちはどんどん席をたちあがってこぶしをにぎりしめ始めた。

「うむ。アドルノ殿の報告を確かめるため、ハミルトンへも間者を放っておいたが、すでにやつらは市街戦の訓練まで始めておるという」

「市街戦!?」

「壁に隠れて鉄砲の玉をよけたり、隙を見て壁から出て鉄砲をうち、すぐにまた壁を遮蔽物にしたりする訓練だ」

「はあ・・・そこまでハミルトンは・・・」

「すでに我が軍との差は歴然ということかもしれん。まさに一刻の猶予もならん」

「長老!こうなったら、やりましょう!もう待てませんよ!」

「わかっておる。だが、プロストに味方するやつもまだ少数ながらいる。慎重に事を進めるのだ。プロスト派の連中、あとふたりだ。そのふたりを片付けたら、我々がプロストに引導を渡すのだ」

「やりましょう!長老!」

「アドルノ殿。聞いてのとおりだ。今しばらく、我らに時間をくだされ」

「お骨おりいただき、感謝いたします」

「なに。国が滅びてしまっては、我が部族もクソもありませんからな」


プロスト総長に、こちらから早期の引退を迫る。

それが終われば、やっと軍備増強にうつることができる。

そうして東のダンジョンを攻略し、セバスチャン要塞攻略の準備にかかる。

モレノ族のひとたちのおかげで、事はアドルノの目論見通りとなりそうだ。


しかし。

事態はアドルノも、モレノ族のひとたちも予期していなかった方向へと動き出すことになる。


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