軍法会議
アストは思った。
(妙な会議だな。プロスト総長はパトリックやあの女戦士よりも俺の水晶玉のほうが気になっているような話し方だ)
その後、室内にてどのような戦闘が行われたのか、形だけの説明をさせられ、それで取り調べは終了となった。
明日、緊急で軍法会議を行い、そこでパトリックと女戦士の処分を決めるという。
取調室を出たあと、アドルノはアストに告げた。
「アスト。今日のようなことがまたあるとも限らない。やはりこれからもわたしの屋敷で寝泊まりしないか?いや、もういっそのこと住んでくれないか?そのほうがいろいろと相談するときにも便利だしな」
「あ、ああ。そうだな」
本来なら人様の迷惑になるようなことは断るところだが、こんなことがあった日だ。
それに、相談することもあれば便利だし、とまで言われては、断ることもできまい。
アストはその申し出を快諾した。
そうして、アスト、アドルノ、リカルド、パトリシアの四人はアドルノの屋敷に戻った。
リカルドはアドルノに言った。
「俺もしばらくここにいさせてくれないか?出来るだけアストのそばにいてやりたい。アストの警護をやりたいんだ」
「おう。それは心強い。こちらから頼むよ」
アドルノはそう応じた。
「はーーい!だったらあたしも!あたしもアストさんのお世話したいです!」
パトリシアは元気よく右手をあげてぴょんぴょん跳び跳ねながら申し出た。
「ああ、そのほうが俺も助かる」
「やったーー!!」
パトリシアは喜びのあまりさらに高く跳び跳ねた。
着地するたびにぶるんぶるんと巨乳が揺れる。
「それに、四人でいたほうが、今後の予定もすぐに組みやすいしな」
「今後の予定というと?」
アストは首をかしげて聞き返した。
「東のダンジョンの最下層、百階層のエリアボスをこの四人で倒したいと思っていてな」
「なんだって?でも、東のダンジョンは現在閉鎖中なんだろう?」
「ふふふ。わたしを誰だと思っているんだ。それくらいわたしの一存ですぐにでも解除してやるさ」
アドルノは得意気に鼻をならしながらソファに座り、足を組んで両腕をソファの後ろに回した。
「だけど、なぜ今さらダンジョンの攻略なんてするんだよ?軍の強化のほうが大事なんじゃないか?」
「もちろんそれは急務だ。しかしダンジョンについても、ちょっと気になることがあってな」
「気になることって、なんだよ」
とアストが尋ねる。
「それはな。完全に極秘だ」
「ええ!?そこまでしゃべっておいて?」
「ああ。すまんな。もしかするとこの国の行く末を左右するかもしれない事態でね」
「そこまで言うほどなのか」
「そこまで言うほどなんだよ」
「ふーん」
そう言うと、アストは納得いっていないながらも、アドルノの座ったソファの横に腰かけ、自身も足を組んで、両手で両足をかかえるように座った。
リカルドとパトリシアはソファ横のテーブルについた。
パトリシアは相変わらずお行儀悪く、足をテーブルの上に投げ出し腕組みしている。胸は相変わらずの谷間。
そうしてしばらくの沈黙ののち、アドルノが不穏なことを言い出した。
「さっきのふたり。やっぱり死罪だろうな」
「え、そうなのか?」
アストは驚いて足を組むのをやめると、となりのアドルノの顔をのぞきこんで聞いた。
「これが軍での出来事じゃなかったら、ただの懲役刑だったかもしれないが、狙った相手が軍幹部の命だしな」
「マジかよ。でも、どう見たって、ありゃ誰かの差し金だろう?あいつらが独断でやったとは思えん」
「アストは、誰がやつらに指示しておまえを襲わせたのか、心当たりはないのか?」
「え?・・・いや、ないな」
「にぶいなアスト。プロスト参謀総長に決まってるじゃないか」
「ええ!!そうなのか?」
リカルドは目を閉じながらあごを突きだし、両手をあげてお手上げのポーズをしてみせた。
パトリシアは「にへへ~」とか言いながら苦笑いしている。
どうやらプロストの仕業であることは三人ともとっくにお見通しだったらしい。
「今日の昼間の会議で、プロスト総長が現状維持を狙うような発言をして会議が終わりそうになっただろう?あのまま誰も発言しなければ、プロスト総長にとっては定年までのんびり軍で過ごすことができたわけなんだ」
「じゃあ、まさか自分の保身のために、俺の命を狙ったというのか?」
「まあ簡単に言うとそういうことだ」
「しかし、俺を殺したところで、決定が覆るわけでもないだろう?」
「どうかな?うるさいおまえがいなくなれば、総長に逆らえるやつはいなくなるからな」
「マジかよ。国家存亡のときに、自分の保身のことしか考えていないとは」
「それについてだがな、いまプロスト総長の所属するモレノ部族との調整が最終段階に入っているんだ。いずれ、あと数ヵ月でプロスト総長を解任させることができるかもしれん」
「なんだって?ほんとうか?」
「ああ。モレノ族も革命軍についてはかなり危惧していてな。いままではプロストのおかげで良い思いもできていたが、さすがに今度ばかりはプロストがお荷物になってきたってわけだろう」
「ふーん。そこまで話が進んでいるのか」
「もしそれが達成できれば、軍の増強と訓練強化を行うことができる」
そう言うとアドルノはメガネを外して胸ポケットから布を取りだすと、それで丸いメガネを拭き始めた。
アストはひとり、あごに手の平をやると、考え始めた。
「それにしても、パトリックとあの女戦士は気の毒だな」
「気になるのか?」
メガネをかけていない状態のアドルノがアストに質問する。
「ああ。やつらはプロスト総長の言うなりだっただけだろう?それなら、助けてやりたい」
「自分を襲ったやつらのことをそこまで気にかけるなんて」
アドルノはメガネを拭き終わるとそれをまた耳にかけ、アストのいまの言葉に対してため息をついた。
「おまえもお人好しだな」
「曲がったことが嫌いなだけだ」
「おお、気が合うな、アスト」
リカルドがテーブルのほうから声をかける。
「そうよ。お人好しなところがアストさんのかっこいいところなんだから!」
パトリシアもテーブルの上に足を置いたまま声をかけてきた。
翌日、軍法会議が行われ、パトリックと女戦士・リリーの二名に対して銃殺刑が言い渡された。
「待ってください!」
声をあげたのは被害者の席に座っていたアストだった。
プロスト総長は驚いてアストに尋ねる。
「どうしたのかね、ライコネンくん」
「このふたりはどう見ても誰かの指図でわたしを襲ったことに相違ありません。まだその人物が誰なのかはわかっていないのですよ!裁くならその人物でしょう!」
というか、軍事法廷の間中、アストはずっといらだっていた。
なぜパトリックも、女戦士のリリーも、誰から指示されたことなのかを言わないのか。
プロストに、誰かを人質にでも取られているというのか?
「被害者からの助命嘆願というのは、意外ですな」
幹部席に座っていたアドルノは白々しく言った。
「ぐっ・・・しかしこのふたりは君の家を襲った張本人だぞ!どうするというのだ!このまま軍に所属し続けることだけはできんぞ!どんなに軽い罪でも除隊はしてもらう!」
「ならば!わたしがふたりを預かります!」
「「「へ?」」」
アドルノ、リカルド、そしてパトリシアの声が裏返りつつハモった。
リカルドが思わず横やりをいれる。
「おいおい、預かるって、どこで?」
「俺の家で預かるさ」
「お、おまえ、バカか!どこの世界に自分のことを襲ってきた人間と暮らすやつがあるんだ」
「それは、きっとリカルドが、俺のことを、守ってくれる!」
「おいおい、『きっと』ってなんだよ。勝手に俺の・・・」
「はいはーい!そういうことなら、あたしも協力しまーす!」
立ち上がって勢いよく右手をあげたのはパトリシアだった。
はぁ、とため息をついてからアドルノが口をはさんだ。
「それならふたりはわたしの家で預かります。アストもそのふたりも、わたしの家で暮らせばいい」
やれやれと言わんばかりにアドルノは足を組み、右手の平を天に向かって捧げるようにして首をかしげて、あきれたポーズを取りながら言った。
呆気に取られているのは、被告人席のパトリックとリリーだった。
特にパトリックは以前にアストにケチをつけて決闘を申し込んだくらいの間柄だ。
なのに・・・
パトリックは感動のあまり、目に涙を浮かべていた。
アストを襲った女戦士であるリリーも驚いていた。
パトリックは泣き出しそうな表情だったが、リリーはただただ目の前の状況に圧倒されているようで、口をぽかんと少しだけ開けた状態で突っ立っていた。
こうして、アドルノの家には、アストとリカルド、パトリシア以外にもさらにふたりが住むことになった。




