取り調べ
アドルノは参謀本部にある取調室のドアを開けた。
取調室にいたのは、両手両足を拘束されたパトリックとさきほどの女戦士だ。
さっきは顔は見えなかったが、女戦士のほうはまだかなり若い顔立ちをしている。
二十歳も越えていないのではないかというくらいにあどけない表情をしている。
ふたりとも椅子に座らされて後ろ手に拘束され、椅子の足には両足をやはり縄で巻き付けられている。
取調室にいたのは参謀総長のプロストとアスト、そして数名の軍の幹部だ。
アスト同様、現場に居合わせたリカルドとパトリシアも呼び出しの対象で、アストと一緒に並んでいる。
パトリックは首をたれてしまっていて、その表情をうかがい知ることができない。
女戦士は泣き出しそうな顔で歯を食いしばりながら顔を背けている。
アドルノは無表情でプロストのとなりに立った。
この部屋の中で、拘束されているふたりをのぞけば、テーブルについて椅子に腰かけているのはプロスト総長だけだ。
アドルノはというと、だらしなく右足に体重をかけて腰に両手をあてている。なんかひとりだけ態度が悪いおやじという感じだ。
プロストとアドルノ以外の幹部はアストたちを含めて直立不動でその横に立っている。
重苦しい空気の中、口火を切ったのはプロスト総長だった。
「アスト・ライコネンくん。君の家に侵入したのは、このふたりで間違いないかね?」
アストは侵入者ふたりの顔を見ようとした。
が、パトリックはうなだれていて顔が見えない。
そこへ、取調室のドアの横で見張りをしていた兵士がパトリックに近寄ると、両手でパトリックの首をもちあげて無理矢理顔をアストのほうに向けさせた。
パトリックはアストの顔を見ようとはしなかった。
口を真一文字に結びながら、どこか、誰もいない中空を見やるだけだった。
「はい。このふたりに相違ありません」
「間違いないかね?」
「はい」
パトリックも女戦士もさきほどから表情は変わらない。
「リカルド・ベルガーくんはなぜライコネンくんの家にいたのかね?」
「ああ、ええと。それは・・・」
そういえばリカルドがなぜ俺の家にやってきてくれたのか、その事情を聞く暇がなかった。いったいどうしたのだろう。なんとなくアドルノがそれっぽいことを言っていたが。
このリカルドへの質問を引き取ったのはパトリシアだった。
「アドルノ次長から、今晩アストさんが襲われるかもしれないから見張りにつくように、と命じられました」
パトリシアが直立不動で答える。
「ベルガーくんも同じというわけかね?」
「は、はい!」
リカルドも直立でそう答えた。
「ふーむ。で、ライコネンくん。君の家での被害状況はどうかね?」
「被害状況ですか?」
まあ、パトリックの槍のせいでソファが切られたとか、そんなことならあるが。
「君の水晶玉は無事だったのかね?」
まっすぐにプロスト総長はそう聞いた。
「あ、ええ。そういえば、槍で水晶玉をひと突きされたのですが、何事もありませんでした」
「なに!?ひと突きされたのに、水晶は無事だったのか?」
「はい」
「どれくらいだ?傷はついたのかね?」
「いえ。特に何も」
「そ、そうか・・・」
そこでなぜかプロスト総長は口をとがらせてアストから視線を反らしてしまった。
アストは困惑した表情を見せた。
プロスト総長のとなりに立っているアドルノのメガネがいつも以上にキラリとまばゆく輝く。アドルノは右足だけあげて、右足裏を壁につけて腕を組みながら背中から壁にもたれた。
プロストはそのアドルノに対して顔を向けて言った。
「ファビ(アドルノの名字)くん。勝手にアストくんの警護にあたらせたのかね?」
「お言葉ですが、彼は我が軍において最重要人物のひとりです。彼を守ることに許可が必要とも思えませんでしたので、わたしが独断でやりました。要人を守るのに、それほど許可が必要でしょうか」
アドルノの口調はどこかトゲがありそうだ。
「ふむ。そうか」
プロストはアドルノから顔を背けるとそう言った。
その場に立っているパトリシアは両ひざの上に両手をついて体を前のめりにさせると、胸の谷間を強調させてプロストを挑発した。
「まあ、そこはわたしに免じて許してくださいよー総長」
と言ってパトリシアはプロストにウィンクした。
「ま、まあ、そうだな」
パトリシアはプロストのお気に入りの幹部でもある。
(ちょろいもんだな)
アドルノは心の中でほくそ笑んだ。




