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モレノ族

アストとアドルノ、リカルド、パトリシアの元冒険者パーティーは再びアドルノの屋敷に集まった。

結局さきほど召集された会議では今後の革命勢力への対処と、ハミルトン公国との関係をどうするのかについて何も決まらなかった。

それもこれもアストの空気を読まない発言がクリティカルヒットしたからだ。

「すごいな、アスト。戦い以外でもよくやってくれたよ」

アドルノはメガネをはずすと、布でそれの表面を拭き始めた。

「だっておかしいだろう?俺はアドルノから革命勢力のことを聞いて、ハミルトンとの戦争すらも辞さない構えと聞かされていたのに。さっきのアレはいったいなんだったんだよ」

「まあ、それぞれの立場からな。言いにくいこともあるのさ」

「どういうことだよ」

アストは椅子の上で足を組んで腕組みをした。

アストは、どうにも要領を得ないアドルノの返答にいらだちすら感じていた。

「結局のところ、プロスト総長は現状維持をしたいだけなんだ」

「現状維持?」

アドルノ、アスト、そしてその横にパトリシア、一番端にリカルドの順で横一線に席についている。

リカルドはテーブルに頬杖をついて。

パトリシアは足をテーブルの上に投げ出して腕組みをしている。相変わらず大きな胸が、組まれた腕の上で谷間を露出させている。この体勢だと体が床に対して斜め後ろになるので、彼女の長いツインテールの端はほぼ床につきそうな位置にある。

今は四人とも会議からの帰りなので緑色の軍服のままだ。

「プロスト総長はもうお歳だ。そろそろ五十歳だ。あと少しで年金生活に入る」

「あ」

アストは何かに感づいたようだ。

「君の想像どおり、プロスト総長は現状維持をしていたほうが、自身のためには都合がいいわけだよ。このまま何事もなければ退職金ももらえて、年金生活で悠々自適の生活に入ることができる。だから今は面倒ごとは起こしたくないんだよ」

「でも、今は国家存亡のときかもしれないんだろ?そんな悠長なこと言って」

「プロスト総長のこともあるが、思い出してみてほしい。君の一族は、その水晶の使い方を代々継承してきた一家だろう?」

「ん?・・・ああ、まあ、そうだが」

アドルノが唐突に話を変えるので、最初アストは返答に困ってしまい、少し変な間ができてしまった。

「知ってのとおり、セバスチャン要塞は君たち一族の水晶からの攻撃を恐れて作られたものだ。地上に露出している敵は狙いやすいが、地下に引きこもられたら、いかに最強の武器をもっていても手も足も出ないというわけだ。よく考えられていると思うよ」

「・・・」

アストはそれには何も応えなかった。

「そして、その要塞は千年前から一度も陥落していない。いや、我々が陥落させられていないと言っていいかもしれん」

「うん」

リカルドとパトリシアは二人の会話を真剣に聞いている。お互いに態度は悪いが。

「要塞が地下に引きこもる前はしょっちゅう戦闘があったらしいが、地下にもぐってからはほとんど戦闘は行われてこなかったらしい。それは君も知ってるだろう?」

「ああ。もちろん知っている。だが、それとプロスト総長の話にいったいなんの関連が・・・」

「現状維持だよ」

「・・・え?」

「つまり、セバスチャンの要塞が地下にもぐってからここ数百年の間、この国はひたすら現状維持に明け暮れていたわけだ」

「なるほどな!」

アストは思わず立ち上がってしまった。

「現に、そのおかげでこんにちまでの数百年、我がロズベルグ連邦とハミルトン公国は平和を保ってこれたのだからな」

「うん。たしかに」

そう言うとまたアストは椅子に座った。

「しかし。そんな状況も、数百年も続くと、自然と腐敗するものさ。人間は現状維持だと、ひとのいなくなった家屋みたいにだんだんと朽ちていくものさ。それは人間も国家も同じだ」

「じゃあ、ハミルトンも腐敗国家だということか?」

「おっと、さすがに目の付け所がいいな。お察しのとおりだよ。だが」

「だが?」

「先に革命勢力のやばさに気がついて行動を起こしたのはハミルトンのほうだ。我々は数ヵ月遅れでこれに対処した」

ああ、なるほど、とアストは思った。

パトリックの決闘のときに思ったが、この国の軍隊はハミルトン公国の軍隊と比べてどこか規律が乱れているようなところがあると思ったが、その数ヵ月の差が出ているということなのだろうか。

「とにかく、プロスト総長だけが一概に悪いと決めつけるわけにはいかんのだよ」

「でもさ。だとしても、おまえは参謀次長を勤める身だろう?なんとか言うことはできなかったのか?」

「それは聞いてくれるな。わたしにも事情があってな」

「アドルノはプロスト総長の所属するモレノ族との交渉役をやっているんだよ」

リカルドが話の補足をしてくれた。

「交渉だって?」

「ああ。実はモレノ族のほうでも革命勢力のことは脅威に感じていて、基本はアドルノの方針に従ってくれているらしいんだ」

そこまでリカルドが言うとアドルノが割って入った。

「機密事項だ。あまりベラベラしゃべるなよ、リカルド」

「おっと、いけねえ」

リカルドはその巨体に似合わず、口許を大きな両手でおさえる仕草をした。

その所作があまりにおかしかったので、横にいたパトリシアは思わずくすっと笑ってしまった。

「まあ、トップシークレットじゃないから、ある程度はいいけどな」

「なんだよ。おどかすなよ」

そう言うとリカルドは腕組みして三人から顔を背けてしまった。

アストは先をうながした。

「で、モレノ族はプロスト総長の扱いについてはなんて言ってるんだ?」

「まあ、わがままなバカだが、悪いやつではないのでよろしく頼む、と言われている」

「なんだかアバウトな物言いだな」

「今モレノ族でも揉めていてな。圧倒的多数は革命勢力に対して対抗する方向で意見がまとまっているんだが、少数派が難色を示しているわけだ」

「そうなのか。まあ、なら、なんとかなりそうだな」

「ああ。いずれにしてもひたすら現状維持を望んでいるのはプロスト総長だけだ」

「え、なんだそりゃ?じゃあ今言った少数派ってのは、そいつらは現状維持を望んでるんじゃないのか?」

「少数派も現状維持なんて望んじゃいないのさ」

「じゃあ厄介なのはプロスト総長だけってことか?」

「まあ、そういうこと」

「じゃあ、もう押しきっちまっていいんじゃないか?」

「そうはいかん。モレノ族で一番力を持っているのは、プロスト総長なんだ」

「げえ。なんか、一番めんどくさいパターンだな」

「残りのふたつの部族からも早く意見をまとめろと圧力をかけられているんだがな。わたしの所属する部族からも、再三わたしに対して軍の編成を急げと催促が来ているんだが」

「だったらなおさらすぐにでも軍の増強を計るべきだろう」

「そうもいかないんだ」

「なんでだよ。そこがわからん」

「ロズベルグ連邦は三つの部族が連合している。おまえもここが故郷なんだから、そのことはよく知ってるだろう?」

「ああ、もちろん」

「その三つの部族の中から、三つの部族をまとめる統領がひとり決められ、残りのふたつの部族の中から軍のトップと、神官のトップが選ばれる仕組みだ」

「・・・」

「今は、軍のトップを努めるのがモレノ族のひと、ということだ。この決定は三部族が平和にまとまるために絶対に動かしてはいけない決まりごとなんだ」

「なるほど。それで、その絶対に変えてはいけない決まりごとの中で、危機感のないアホが軍のトップにいるということか」

「アホって」

パトリシアがお腹を抱えながら笑ってしまった。

アストはパトリシアの突出した胸を見てからあごに手の平をあて、考え込んだ。

「結局、三つの部族をまとめるために過去にやった取り決めが、ここに来て足を引っ張っているというわけか」

「そういうことだ。たとえばだが、ここでいきなりプロスト総長を解雇したりすれば、三つの部族の平和的関係にヒビが入りかねないというわけさ」

「ふーん、そういうことか。なんともめんどくさいことだけど、今まではそれでうまくまとまっていたわけだからな。緊急時になるとその脆弱さがもろに露呈してしまっているわけだ」

「まあ、そういうことだ」

「ふーむ」

そうしてしばらく考え込んでいたアストだったが、何かをひらめいたのか、足を床について、アドルノのほうへ向き直ると言った。

「そうだ。総長はそろそろ年金生活って言ってたよな」

「ああ」

アドルノが応える。

「あと何年で総長は引退するんだ?」

「それがな。あと二年だ」

「げっ!二年!」

その間ずっと待っていたら、革命勢力がここまでやってくるかもしれない。

アストはため息をつくと、アストもパトリシアを真似てテーブルの上に足を投げ出して足を組み、腕も組んだ。

そうしてパトリシアとまったく同じ格好になってしまった。

「あは。アストさん。あたしと同じ格好だ!なんか嬉しい!」

パトリシアはそう言うと立ち上がってアストの目の前に立って前のめりになり、胸の谷間を強調してみせた。

しかし、アストは何事かを考えていて、まったくパトリシアと視線を合わせようとしない。

「もう!アストさんったら!さびしい~」

パトリシアは腰をぶんぶんと振ったが、アストはどんどん難しい顔になってしまった。

(いったいこの難局を、どうやって打開すればいいのだ)

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