空気は読まない
そして、アストは・・・
アストは嫌な空気を感じ取っていた。
なんだ、この異様な空間は。
プロストの発言はわかる。
しかし、それに対する周りの反応はどうしたというのか。
彼に賛意を表明する者がいるわけでもなく、かといって反対する者がいるわけでもない。
誰もなにも言わない、何も行動を起こそうとしない。
アドルノでさえそうだ。
リカルドもパトリシアも何も言わない。
あれだけ威勢のよかったパトリックでさえも何も言わない。
いや、それだけではない。
なぜ皆、下を向いているのだ。
まるで叱られた子供がふてくされているような顔ばかりそこには並んでいる。
いったいぜんたい、これはなんなのだ。
皆、プロスト総長に弱みでも握られているというのか?
だいたい、昨日聞かされたアドルノの言うことと、プロストの言うことにはまるで整合性がとれていないではないか。
革命勢力に対抗するためにも、いまここでハミルトン公国を併合すべし、という話だったと記憶している。
その話はどこにいったというのか。
いや、別にハミルトンと戦争をしないのはいいとしても、誰もそれに対して意見を言わないのはどういうことなのか。
「ハミルトンとは長く敵対してきたが、今では友好国だ。今さら戦争しなくてもよいだろう?」
プロストが言葉を畳み掛けてくる。
ハミルトンと戦争しなくても平和は保たれるかもしれない。
保たれないかもしれない。
それを議論するのではないか?
そもそもアドルノはどう思っているのか。
昨日までの話とまるで違うのは、いったいどういうわけなのだ。
しびれをきらしたアストは、アドルノに聞いた。
「アドルノ!昨日の話ではハミルトンに宣戦を布告、これを併合し、革命軍に備えるという話だったではないか!なぜ今それを言わないのだ」
その場にいた誰もが心のなかで、
(あ・・・)
と言ったに違いなかった。
アドルノはなぜかニヤリと不適な笑みを見せている。
「なんと言われるライコネン殿。我の話を聞いていなかったのか」
そういったのはプロストだった。
しかしアストはひるまない。
「しかし、革命軍は日に日にその勢力を増大させています。ここでじっと待っているだけでは、我々は自滅を待っているようなものではありませんか?」
「な、なんだと!」
プロストはひたいに青筋をたてて怒りを露にしている。
アストにはなぜこの人がこんなにも怒っているのかがわからなかった。
アストはなおも続ける。
「この国の軍隊はまだまだ未熟です。ハミルトンにもかなり遅れを取っている。ならばこれから日夜訓練に励み、ハミルトン、ひいては革命勢力に対しての反抗体制を構築すべきです」
アドルノは相変わらずニヤニヤしている。
「ぐぬぬ。ハミルトンと戦争などして、多くの死者が出たら、貴様、どう責任を取るつもりだ」
プロストがガミガミ言うが、アストは引き下がらない。
「戦争で死者が出ることなど当たり前です!それよりも、戦争を恐れて結局のところ国が滅びてしまっては、あなた自身も無事ではすまないかもしれないんですよ」
プロストは顔を真っ赤にさせて、「ぐぬぬ」というだけで、それ以上は何も言わなかった。
しばらくの沈黙ののち、プロストは言った。
「不愉快だ。今日の会議はこれで終わりだ!」
そう言うとプロストはマントをはためかせながら人々を押し退けてドアに向かい、バタン!と大きな音をさせて部屋を出ていった。
あとに残された人々はそれぞれ近くにいる者と話しながらざわざわと今起こったことについて騒ぎ始めた。
(いったい、どうなってるんだ?この国の危機的状況がわかっていないのか?)
アストはまったく意味がわからなかった。
アドルノは相変わらず小さく笑っていた。




