第3話 理想と現実と妄想と(後編)
さて困った。
妙に近代的な建物なせいで空中廊下やエレベーターといった移動手段が数多にあるお陰で無事に迷子継続中である。
昼休みの残りは5分。
これは覚悟を決めるしかない。
ふらふら宛もなく歩いてる中 ある文字を見つけた
【図書室】
「とりあえず授業中にウロウロすると目立つから次の休み時間までここにいよう」
幸いにも鍵はかかっておらず、すんなり中に入ることが出来た。
しかし、それによって新たな問題が発生した。
「あなた、何しているの?」
まだ休み時間とはいえ、残り時間は数分だ。
なのにその先客の女子生徒は小説を読み進める手を止めずに俺に問うてきた。
「ねぇ 聞いているのかしら?それともなに?なにか失礼なことでもいったかしら」
「自分の教室がわからなくてとりあえずここに避難してきたんだ」
俺は正直に答えた。
考えることは沢山あるが今はそんな事をしている場合では無い。何とかここに留まらなければ。
「そう。私の読書の邪魔をしなければなんでもいいわ」
そういうが早いか、次のページに目を落としていた。
『なんでこの子は授業に出ないんだ?いや、俺もそうだけどさ』
『聞いてきたくせに興味無いじゃんか』
『何読んでるんだろ』
気になること・考えること がグルグルしてきたが、とりあえず居座ることには成功したようだ。
俺もなにか読むか、、、
長い 長すぎる、、
楽しい時間ほど早くすぎるように感じ、苦痛な時間は長く感じる ってやつを今実感してるわ。
結構たったと思っていたが、まだ15分しか経ってないじゃないか。
図書室に2人しかいないし、さすがに居た堪れない。
というか、この人に教室の場所を聞けばいいじゃん。
そう思い、なんども頭の中で会話をシュミレーションして、声が裏返らないように喉を軽く整え唇を軽く湿られた。
そして深く1度呼吸をして意を決して話しかけた。
「あのさ、俺双葉秋夜。君は授業行かないの?」
情報を得るためにはまず自分の情報から開示するという会話の定石から、切り出してみた。
これで、会話がすたーとするはずだった。
「あらそう でも別に私あなたに興味がないから。読書の邪魔をしないでくれる?」
随分バッサリ言ってくれるものだ。
しかし困った。
シュミレーションではここから自己紹介→雑談→教室の場所みたいな感じで進む予定だったんだが、早速破綻してしまった。
さて、ここからどう切りかえしたものか。
とウンウン唸っていると向こうから声を掛けてきた。
「はぁ、あなたさっきからうるさいわよ。なにか言いたいことがあるなら早く言ったらどう?」
少々言い方に刺があるが今は背に腹はかえられないのだ。
「実は教えて欲しいことがあるんだ。」
そう切り出しただけなのに相手は怪訝そうな表情をしているが、今更引き返せない。
「俺の教室の場所教えてくれないか?」
そう聞いた時の相手の態度、表情は一生忘れないだろう。
ものすごい哀れな生き物を見るような、同情と蔑みが混じったなんとも言えない表情だった。
そして深いため息をした後にこう言い放たれた。
「あなた頭がどうかしているの?」