第1話 散る桜と薄まる思考(後編)
さてここからどうするものか、と考えていると
「俺決めてたんだ!隣の席の奴と絶対友達になるってさ!!俺"高倉瞬"これから3年間よろしくな!!」
今後二度と現実世界で聞くことは無いであろう、とんでもない自己紹介だった。
あまりにぶっ飛んだ文章構成だった為、俺は思考を巡らせてしまった。
『そんな理由で今話しかけたのか?』
『そもそも'隣の席の人と'っていうのは教室でのことなのでは?』
『というか何故コイツの中では3年間友達なのは確定なのか?』
『たかくら しゅん…ねぇ…どんな漢字なのだろうか』
しかしそれを今伝えるのは得策では無い。
伝えてしまうと会話が進んでしまう。そしたら必ず色んな人に目をつけられてしまう。
それはまずい…俺の信条は平穏無事に生きることなのに、悪目立ちしてしまう…
ここは穏便に済ませるのが急務である。
「おい、何固まってるんだ?聞こえてる?もしもーし!!」
俺の思考はそんなノイズに停止を余儀なくされたが、未だ混乱する脳内で何となく整理した。
ここで伝えることはとりあえず2つだ。
1・一旦落ち着いて話し合うこと
2・俺は敵では無いということ
だが相手を傷つけず、かつ自分の評価も下げない
そんなフレーズを探しながら俺は話し始めた。
「俺は双葉秋夜。詳しい自己紹介は後でするから、今は式に集中しようぜ?ほら、生徒会長が挨拶するみたいだぞ?」
我ながらコンパクトにまとめられたと思う。
最後に相手の興味を引くようなワードを入れられたのもグッドだ。
ほら、女子同士の口論でよく使われる会話テクニックだし。それにどうやらそれな功を奏したようで。
「おっけ!というか秋夜、お前高校はべんきょーをする所だぞ?いくら生徒カイチョーがあんな美人だからって…」
正直なところ壇上にどんな人がいるのかは全く理解していなかった。辛うじて耳に入ってきたアナウンスを頼りに出た言葉だったからだ。
初対面のヤバいやつに何やら心外なことを注意されたような気がするが、とりあえず目線を前に戻すことにした。
「うわぁ…」
件のその人を視界に捉えた第一声だった。
確かに美人だ。美人だがなんだろうか、不思議な違和感を覚えてしまった。一瞬モヤッとしてしまったが、そんなものは一瞬で消え去ってしまった。
なぜかって?そりゃあさ?大人数の目線、取り囲む大人達、そんな事を意に介さない隣の馬鹿、そんな状況になれば誰だってそうなると思う。
しかしまぁそんな状況にならないのが1番ではあるな。
そうならないのが平穏な生活というものだし…
「うわぁ…」
今まで体験したことない人の視線に絶望しながら、さっきとは全く違う意味で同じセリフを吐き、どうすればこの状況を打破出来るかという思考を放棄して俺は観念した。
するしかないじゃないか…
かくして俺の入学式と平穏無事な高校生活は幕を閉じたのだった。